SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第140回 禁煙による害・薬物が中毒域に

第140回 禁煙による害・薬物が中毒域に

 喫煙は健康に対して大きな害があるために、禁煙を薦めることに疑いはない。しかし、喫煙の煙中の物質が代謝酵素を誘導し、薬物代謝を促進しているために、禁煙することによって特定の薬剤では代謝が低下して血中濃度が上昇し中毒域に達する害が報告されている。薬のチェック97号では、この問題を取り上げたので、その概要を紹介する1)

クロザピン中毒の例

 統合失調症の35歳男性。タバコを3箱/日喫煙し、クロザピンを7年間服用していたが、禁煙をして2週間後にけいれんを発症して入院となった。血液検査でクロザピンの血中濃度は測定されなかったが、他に異常は検出されなかったため、けいれんは、クロザピン中毒によるものと考えられた。

 禁煙前までのクロザピン用量は700mg /日であった。入院後は徐々に減量を行い、入院1年以降、最終的には禁煙前と比べて40%の減量となり、クロザピン血中濃度は治療域に安定した。

 他のクロザピン中毒例として、パーキンソン症候群やけいれん、QT間隔延長による入院例などが報告されている。

ワルファリンの血中濃度上昇とINR上昇

 ワルファリンを内服中の2人の患者で、禁煙後にINRの上昇がみられた。喫煙歴39箱・年の58歳の人と、1.5〜2箱/日を喫煙していた80歳の人である。

 INR値は2人とも禁煙前の2〜3から、前者は禁煙1か月後に3.4に、さらに1か月後には5.5にまで上昇した。後者は禁煙3か月後に3.0に、その2週間後には3.7にまで上昇した。目標のINRに達するまでワルファリンを徐々に減量したが、前者では約25%、後者では約15%の減量が必要となった。2例ともに出血や他の原因の可能性はなかった。

一部の向精神剤、抗不整脈剤、抗がん剤なども

 喫煙は、シトクロムP450(CYP)1A2の活性を亢進し、オランザピンとクロザピンの代謝が促進される。同様の作用は、上記以外の神経遮断剤のクロルプロマジンやハロペリドール、抗うつ剤のフルボキサミン、カフェイン、抗不整脈剤のフレカイニド、プロプラノロール、メキシレチンでも報告されている。テオフィリン喫煙者のテオフィリンクリアランスは、非喫煙者と比べて60%から100%高い。

 エルロチニブやイリノテカンなどの抗がん剤の代謝も喫煙に影響を受ける可能性がある。肺動脈性肺高血圧症の治療に使用される血管拡張剤のリオシグアト(商品名:アデムパス)も同様である。

ニコチンでなく煙が原因・治療域狭い薬剤に注意

 タバコの煙の中の多還芳香族炭化水素は、薬物代謝に関わる様々なCYPに影響を与え、1A2や1A1、2E1、2D6の誘導に関係がある。

 ニコチンそのものは、これらの酵素を誘導しないので、中毒の原因にならない。つまりニコチン代替療法では中毒の害を予防できないことを意味する。

 特に治療域の狭い薬剤では、中毒域に達しやすいので約1か月間は注意深いモニタリングが必要である。

実地診療では

 禁煙は推奨し支援すべきである。しかし、禁煙により煙による酵素誘導がなくなり、特定の薬物の血中濃度が上昇する可能性がある。特に患者が治療域の狭い薬剤を服用している場合、禁煙から約1か月間は注意深くモニタリングし、必要に応じて用量調整を実施すべきである。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top