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第170回 ◉ 浜六郎の臨床副作用ノート 「ワクチンが認知症防止」は本当?

第170回 ◉ 浜六郎の臨床副作用ノート 「ワクチンが認知症防止」は本当?

昨秋、ワクチン接種でアルツハイマー病リスク低下を主張した論文の紹介記事が複数の医療系メディアに掲載された。。薬のチェック誌で元論文の信ぴょう性を検討したので紹介する1)

元論文の内容

元論文2)は米国で65 歳以上の約165万人を8年間追跡調査し、破傷風/ジフテリア/百日咳ワクチン(TDPワクチン:Tdap/Td)、帯状疱疹ワクチン(HZワクチン)、肺炎球菌ワクチン(PCV-13/PPSV-23)の接種歴の有無でアルツハイマー病(AD)の発生率を比較した。傾向スコアマッチング補正した結果、ワクチン接種群では非接種群と比較して、ADの発生率が約3割低かったと報告された。メディアはそれを報道したものだ。

全ワクチンがADを3割減は極めて不自然

ADのリスク比は、TDPワクチン接種で0.70、HZワクチン0.75、肺炎球菌ワクチン0.73、AD相対減少率はそれぞれ30%、25%、27%、NNTも33、37、34。本当なら効果はとてつもなく大きく、どんな薬剤よりも優れていることになる。

この研究では、ワクチンによるAD減少の機序として「各種感染症が神経炎症を惹起し、それがADを引き起こすため、ワクチンで感染症を抑制すればADが減る」「ワクチンが免疫系を賦活化し、それでADが減る」との仮説が提唱されている。

しかし、帯状疱疹の患者は、ジフテリアや百日咳、破傷風患者合計の800倍以上発症し、肺炎球菌感染症患者の20倍以上発症している。ワクチンで感染率が減少した結果としてAD患者数が減るのであれば、ワクチンで防ぐことができる患者数もワクチンの種類ごとに異なり、ADの相対減少率やNNTにも桁違いの開きが生じるはずである。したがって、どのワクチンもADの相対減少率が25〜30%、NNTが33〜37という大きい効果で揃っていることは、極めて不自然であり、どこかに間違いがあるはずだ。 

推定減少AD患者数が感染者よりも多い

AD減少に対する各ワクチンのNNTと米国の65歳以上人口(約4千万人)、各ワクチン接種率から計算すると、2011年9月から2019 年8月までの8年間で、TDPワクチンで約72万人、HZワクチンで約43万人、肺炎球菌ワクチンで約82万人のADを予防できたはずと計算できる。 

一方、ワクチンが100%有効と仮定して、米国の感染症統計等から、65歳以上の米国人全体で2011年から8年間に罹った感染症患者推定数とワクチン接種率から、ワクチンが抑制し得た感染者数は、破傷風/ジフテリア/百日咳いずれかで約6000人、帯状疱疹が240万人、肺炎球菌感染症は約22万人と推計できる。 

そうすると、破傷風/ジフテリア/百日咳と肺炎球菌感染症は、ワクチンで予防し得た感染者数の上限値よりも、はるかに多くのAD患者数を減らすことができることになり矛盾している3)。したがって、「感染率減少によるAD減少」の仮説は破綻している。

健康者接種バイアスは傾向スコアで補正不能

一般的に、ワクチン接種者は非接種者よりも健康であるため、観察研究では健康者接種バイアスが避けられない。ワクチン接種を受ける直前に病気が重症化したり、感染症に罹患すると、ワクチン接種不適当者となり接種されない。そのため、健康者接種バイアスは通常、医療保険データベースの合併症など様々な因子を傾向スコアマッチング補正しても完全には取り除くことができない。だからワクチン非接種者は元々ADの発症リスクが大きい人である。

インフルエンザワクチン接種でCOVID-19が減少したなど、ワクチンの対象外疾患をワクチンが減らした、あるいはワクチンに害がなかったなどと主張する観察研究が多数ある。しかし、必ず健康者接種バイアスに注意して批判的にみる必要がある。

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