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第138回 コロナ剤バリシチニブ根拠無し

第138回 コロナ剤バリシチニブ根拠無し

 バリシチニブ(商品名オルミエント)がレムデシビルとデキサメタゾンに続きCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の治療用に2021年4月に、レムデシビルとの併用の条件付きで承認された。

 バリシチニブは、インターロイキン-6(IL-6)の作用に深く関わるヤヌスキナーゼを阻害する免疫抑制剤であり、17 年に「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」、20 年には、難治性アトピー性皮膚炎への効能が追加承認されている。

 ステロイド剤であるデキサメサゾンは、相対的・絶対的副腎皮質不全(ステロイド欠乏)のためにカテコラミン不応性となった重症敗血症への有効性は確立している。しかし、多くの免疫抑制剤が、COVID-19には効果が証明されていない中で、バリシチニブだけが本当に効力があり安全なのか、薬のチェック96号1)で検討したので、概略を紹介する。

回復までの日数を1日短縮は本当か?

 バリシチニブ試験(ACTT-2試験)は成人のCOVID-19患者を対象に全員にレムデシビルを用い、バリシチニブとプラセボを比較したランダム化比較試験(RCT)である。主アウトカム(回復までの日数中央値)がプラセボ群8日に対しバリシチニブは1日有意に短縮した、とされている。しかし、有意に短縮したのは、開始時点の重症度が6(高流量酸素〜非侵襲的人工呼吸器使用)の群だけという不自然な結果であった。

免疫抑制剤なのに感染症が半減?

 最大の問題点は、強力な免疫抑制剤であるのに、バリシチニブ群に有害事象として感染症が少なかったことである。しかも、プラセボ群の約半数程度しかなかった(OR:0.54、p=0.0014)。COVID-19用に適応が承認されてからのバリシチニブの添付文書でも、警告欄に、「……結核、肺炎、敗血症、ウイルス感染等による重篤な感染症の新たな発現もしくは悪化等が報告されており、……」と赤太字で警告されているにもかかわらず、臨床試験で新たな感染症が半数とは、まったく理解不可能である。

カギはステロイド使用者の不均衡

 疑問を解く鍵は、ステロイド剤の使われ方にある。ステロイド剤は、副腎皮質不全によるカテコラミン不応性のショック例には救命的だが、感染症で初期に用いると重症化させる。実際、この試験では、ステロイド剤使用者は不使用者の約5.7倍感染症が多くなり、有害事象による死亡が6.6倍多かった。そして、試験組み入れ時にステロイド剤併用者が、バリシチニブ群に少ない傾向があった。わずかな差も、結果に大きく関係した可能性がある。

腎障害を起こす物質で腎障害が有意に少ない

 通常、軽い有害事象は試験群で有意に多くても、重篤な有害事象は有意の差がないから許容できる、というのが一般的な臨床試験における有害事象のパターンである。ところがバリシチニブでは、中止に至る有害事象が有意に少なく(OR=0.55、p=0.007)、特に中止に至る腎障害が、有意に少なかった(OR= 0.38、p=0.027)。動物実験では用量依存性の腎障害が認められているのだが。

腎障害を起こす物質で腎障害が有意に少ない

 併用されるレムデシビルも、最大規模のWHO試験を含めたメタ解析で無効だったため、WHOは使用を推奨していない。バリシチニブは、試験が矛盾だらけのため効力と安全性の根拠にならず、使用すべきでない。

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