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第142回 浜六郎の臨床副作用ノート 心不全への利尿剤をなぜ軽視?

第142回 浜六郎の臨床副作用ノート 心不全への利尿剤をなぜ軽視?
ヨーロッパでは重視されているが

 薬のチェック98号1)では、ガイドライン批判シリーズの22番目に、心不全ガイドラインを取り上げた。検討して唖然としたのは、急性心不全はもちろん、慢性の心不全でも必須と考えられる利尿剤が、「エビデンスはほとんど存在しない」とされていたことである。欧米でのガイドラインでは重視されている利尿剤が、日本ではなぜ軽視されるのか徹底的に検討したので概略を紹介する。

根拠は3件の後ろ向き観察研究

 心不全ガイドライン2017(17GL)では、ループ利尿剤は慢性心不全の多くに用いられてきたが、「エビデンスはほとんど存在しない」とし、その理由として「ループ利尿薬がEBMの時代が到来するより前に日常診療に浸透してしまった経緯による」「大規模臨床試験のデータベースを用いた後ろ向きの解析結果では,フロセミドを中心とするループ利尿薬は生命予後悪化につながるとの結果であった」というのである。

 注目すべきは、GLの根拠が、3件の後ろ向きの観察研究であり、利尿剤使用者と不使用者(または大量使用者と少量使用者)の予後を比較したものだという点である。単にもともとの心不全の重症度が予後に反映されただけと考えられる。

利尿剤の生命予後改善効果はRCTで圧倒的

 ACE阻害剤が心不全の生命予後を改善するといっても、そのオッズ比は0.89であり、せいぜい10%余りの改善である。ところが、プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析の結果、利尿剤は慢性心不全患者の死亡を4分の1(オッズ比0.25)に減らした(95%信頼区間上限=0.84)。利尿剤継続群と中断群(プラセボ)の比較でも、再入院のオッズ比は0.31(同0.62)であった。どの薬剤よりも改善効果が大きい。

 ところが、17GLではこの結果を無視し、「ループ利尿薬がEBMの時代が到来するより前に日常診療に浸透してしまった経緯による.一部のメタ解析の結果では心不全の予後改善に寄与するとの報告もあるが」とした。

最新のRCTでも80〜90%で利尿剤が使用されている

 現に、最新の慢性心不全に対する薬剤評価を目的としたRCTでは、80〜90%の対象者に基礎治療として利尿剤が用いられており、17GLが根拠とした観察研究の結果は考慮されていない。17GLでも、利尿剤に関する実際の選択では、レベルCの心不全(左室機能低下例)に対しては利尿剤を推奨しており矛盾している。慢性心不全の大部分はレベルCである。

欧州では利尿剤は心不全の最重要治療剤

 ヨーロッパのガイドラインでは、「急性心不全の主要な原因はうっ血であるため、利尿剤が心不全治療のかなめ(cornerstone) である。したがって、体液過剰による症状・所見の改善のために、ループ利尿剤の使用を強く推奨する(推奨レベルI、エビデンスレベルB)」とし、90%超の急性心不全患者で利尿剤が使用される、と記載している。つまり、利尿剤が適応にならない「低灌流による急性心不全」は10%未満ということである。

 また、慢性心不全に対しても「利尿剤が症状を改善するという証拠は、LVEF(左室駆出率)の程度に拘わらず類似している」と重視している。根拠は先述のRCTのメタ解析結果である。

利尿剤軽視の理由は?

 17GLでフロセミドなどの利尿剤の位置付けがあまりにも低い理由は不明だが、利尿を目的とした新製剤に処方をシフトさせようとの意図ではないかとの疑いさえ感じる。

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