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第1回 厚労官僚が「加藤派」に宗旨替えする日

第1回 厚労官僚が「加藤派」に宗旨替えする日

 今年8月の内閣改造で、厚生労働相に就任した加藤勝信・自民党衆院議員の評判が上々だ。同党厚労部会長や働き方改革担当相などを歴任した厚労族議員のエースで、内閣官房副長官を務めたため安倍晋三首相の右腕として霞ヶ関からの信頼も厚い。省内は「働き方改革関連法案の審議を見越し、満を持して就任した」と歓迎する。

 加藤氏は東京大学経済学部を卒業後、旧大蔵省に入省し、労働担当の主計局主査などを歴任。故加藤六月・元農林水産相の娘に婿入りして衆院議員に転身した。民放に入社した障害を持つ娘がおり、厚労行政には並々ならぬ関心を示してきた。

 ある厚労省幹部は「厚生、労働の両分野において我々の考え方を熟知し、指摘は細かい。ごまかしが出来ない反面、突拍子のないことはしない」と評価する。

 前任の塩崎恭久氏は、「官僚の言いなりにはならない」のが信条で、政策立案の基準としてグローバルスタンダード(国際標準)にこだわり、業界団体などとの調整を重んじる厚労官僚とたびたび衝突してきたのとは対照的だ。

 調整に長ける加藤氏には安倍首相が絶大な信頼を寄せる。衆院解散を巡り、安倍首相は消費税を10%に引き上げた時の増収分について、子育て支援などの財源に加える検討に入った際、安倍首相は厚労省幹部を差し置いて加藤氏に相談した。衆院解散も報道前に知っており、自身の政治資金パーティーを急遽中止したぐらいだ。塩崎氏も安倍首相の「お友達」だったが、別の省幹部は「官邸が決める重要な案件は知らないケースが多かったが、加藤氏は違う」と明かす。

 気難しいことで有名な厚労族議員のドン、伊吹文明・元衆院議長からも信用されている。内閣改造翌日の8月4日夜、東京都内で安倍、伊吹、加藤氏らで会食し、伊吹氏からは「働き方改革をしっかりやってくれ」と激励された。厚労官僚が信頼する田村憲久・元厚労相とも親しく、重要案件があれば綿密に連絡を取っている。

 省内の人心掌握にも余念がない。塩崎氏が決めた7月の幹部人事で不遇をかこった労働官僚のうち、事務次官になれずに退任した岡崎淳一・前厚生労働審議官(1980年入省)を参与として省内に戻した。「塩崎カラー」の象徴として創設された「医務技監」(事務次官級)に就任した鈴木康裕・前保険局長(84年入省)は塩崎氏の退任後、影は薄い。

 一方、来夏の事務次官に向けたレースが83年入省組を中心に始まっている。旧厚生省では樽見英樹・官房長や鈴木俊彦・保険局長、旧労働省は宮川晃・雇用環境・均等局長が控えており、「83年入省組で事務次官を回すことが考えられる」(省幹部)との見方が強い。労働官僚は3年連続で事務次官ポストを逃しており、「バランスを取る加藤厚労相になったことで労働官僚が事務次官に返り咲くチャンスが出てきた」とほくそ笑む。

 独自の政策や人事を断行して3年弱の長期政権を築いた塩崎氏は今や、「塩崎か、長妻(昭・元厚労相)か」(省中堅)と揶揄されるほどで、塩崎カラーは薄まりつつある。マスコミからは無難過ぎると評される加藤氏だが、厚労官僚が「加藤派」に宗旨替えする日はそう遠くなさそうだ。

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