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癒やしと安らぎの環境賞2017

事故報告書が刑事捜査に流用されないように

事故報告書が刑事捜査に流用されないように

1. 刑事捜査に流用されてはならない

 最近、産科の無痛分娩を巡る事件が、相次いでマスコミ報道されている。それら報道を検討すると、医療安全の確保・向上、危機管理などに関する反省点が多く含まれている。

 その反省点の最大のものとして、事故調査や原因分析、または再発防止の報告書そのものが刑事捜査に流用されないようにすべきである、ということが挙げられよう。

 誤解がないように付け加えるが、これは、医療安全の確保・向上のために行われた事故調査や原因分析、または再発防止の報告書は、もっぱら医療安全のために使われるべきであって、いわゆる有利・不利を問わず、そもそも刑事捜査に使われることがあってはならないということである。医療者にとって不利ならば使ってはならず、有利ならば使ってもよい、という意味ではない。有利であっても不利であっても、刑事捜査のために使われるならば、それは目的の範囲外の利用、つまり流用なのである。

2. 「自ら悪いものは悪いと認め……」とは?

 この点で難問を提供するのが、「自ら悪いものは悪いと認め、正していくこと」という態度であろう。もちろん、倫理的、道義的には正当であるし、プロフェッショナリズムとしてもあるべき態度である。しかし、文字通りに振る舞えば刑事事件としてはストレートに「自白」で「有罪」であるし、医療安全の確保・向上にも萎縮効果を及ぼしかねない。

 2017年8月の妊産婦死亡症例検討評価委員会・日本産婦人科医会作成の「母体安全への提言2016Vol. 7」の3頁「はじめに」では、同委員会の池田智明委員長が「プロフェッショナリズムの一つに、自分たちの職業集団のオートノミーを示すこと、言い換えれば、『自ら悪いものは悪いと認め、正していくこと』があります。一方で、医療事故が、刑事訴訟として取り扱われることには、断固として戦わなければならないと思います。大野病院事件を繰り返してはいけません。」と述べられている。

 それ自体としては何ら異論のあるところではないけれども、「自ら悪いものは悪いと認め」ることは、ストレートに「刑事訴訟として取り扱われ」かねないのが、現実の法律制度であり法律運用だということには留意しなければならないであろう。

 その点を踏まえると、続く「提言」の中で具体的な「事例」とその「評価」までを掲げることには、疑問を呈さざるを得ない。

 例えば34頁の「評価2」において、「有床診療所での無痛分娩中に、局所麻酔薬中毒によるけいれん発作を起こしたと考えられる」との一文などは、刑事捜査の端緒としては有力な資料ともなり得ることであろう。注意を要する。

3. 報告書が流用されたらしい実例

 2017年6月12日付朝日新聞の「無痛分娩の麻酔で母子に障害 京都の医院、別件でも訴訟」という記事によれば、京都の産婦人科医院が2016年12月に約9億4000万円の損害賠償を求める訴訟を起こされたが、「出産時に赤ちゃんが重い脳性まひになった場合に一時金などを払う産科医療補償制度の原因分析報告書も『硬膜外麻酔に起因する全脊椎麻酔によるものである可能性が最も高い』と指摘している」らしい。その後、この件は2017年8月になって刑事告訴までされたものの、10月には京都地方検察庁によって刑事事件は不起訴となった。

 別の件もある。2017年10月7日付読売新聞の「無痛分娩死 帝王切開『有効といえず』 医療事故調 緊急対応の問題指摘」という記事によれば、大阪の産婦人科医院で女性が死亡した事件について、「専門医らでつくる医療事故調査委員会が報告書をまとめ、院長○○容疑者(59)(業務上過失致死容疑で書類送検)による容体急変時の処置について『蘇生に有効とはいえなかった』と指摘していたことが、わかった。府警も緊急対応に過失があったとしており、医学的見地からもミスが裏付けられた」らしい。

 その記事では、「読売新聞が入手した報告書によると」として、さらに詳しくその医学的評価が述べられていた。

 それらの実例においては、原因分析報告書や医療事故調査報告書を新聞記者が入手し、それらの報告書を基に記事が書かれている。いずれも刑事捜査の参考資料の一つにはなったことと推測されよう。

 以上のように、症例検討評価報告書のみならず、原因分析報告書においても医療事故調査報告書においても、それらが流用されないように、くれぐれも運用に注意しなければならない。

4. BPOの取り扱い基準を一つの参考に

 分野は異なるが、BPO(放送倫理・番組向上機構)の定める「苦情の取り扱い基準」は、以上の問題を検討する上で参考になろう。BPOの放送人権委員会運営規則・第5条(5)は、「裁判で係争中の事案および委員会に対する申立てにおいて放送事業者に対し損害賠償を請求する事案は取り扱わない。また、苦情申立人、放送事業者のいずれかが司法の場に解決を委ねた場合は、その段階で審理を中止する」という明確な定めを置いている。

 実際、医療事故調査制度が出来る前の2014年4月16日には、衆議院厚生労働委員会でこの話題が出ていた。橋本岳議員の質問に対し、当時の原徳壽厚労省医政局長(その後、更迭)は、「仮に、訴訟が提起されたとしても、再発防止に資することを目的とする調査の必要性は変わらないと考えておりまして、今般提出いたしました法案の中では、訴訟になった場合に対象外にするというような取り扱いはしていないところでございます」という無理解な答弁をしている。

 しかし、橋本議員(その後、厚生労働大臣政務官として事故調制度を構築)は、先を見据えて、「そこの切り分けというのは、僕はすごく大事なことだと思いますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います」と投げ掛けて質問を終えた。

 今後は、報告書が流用されないように運用に注意をすると共に、BPOの取り扱い基準などを参考にして、さらなる改善策も検討し手直ししていくべきであろう。

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