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未来の会

第165回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ デジタル実装された次元の異なる少子化対策

第165回 経営に活かす法律の知恵袋 ◉ デジタル実装された次元の異なる少子化対策
出産費用等の保険適用

去る3月20日、菅義偉・前首相が少子化対策として、「若い夫婦には、大きな負担になると思ってますので、出産費用そのものを保険適用をさせていただいて、そうして、個人負担分を支援をしていく」、また、出産前の妊婦の健診についても「保険適用の対象にすべきで、自己負担分を支援すべき」との考えを示した。出産費用そのものと共に、妊婦健診費用も保険適用しようという考えを示したものであり、画期的なものと言ってよい。

その後、自由民主党の「『こども・若者』輝く未来創造本部」(茂木敏充・本部長、橋本岳・事務総長、関係省庁出席者:自見はなこ・内閣府大臣政務官以下多数)では、3月27日に「『次元の異なる少子化対策』への挑戦に向けて(論点整理)」を発表した。

そこでは、菅前首相の考えを受けて「出産費用等の保険適用および自己負担分の支援の具体的検討、分娩および産前産後ケアについてかかりつけ助産師も活用した充実および地域ネットワーク化」に投資すべきであると提言している。「出産費用等」というのは、少なくとも出産費用と妊婦健診費用を指すし、さらには、「産後ケア事業」も含意しているものと思われ、これらによって「産前・出産・産後を通じたサポートの充実を図り、安心してお産できる環境」の再構築を期しているのであろう。合わせて、「かかりつけ助産師も活用」、「地域ネットワーク化」しようという点も注目されるところである。

それらが3月31日の小倉將信・こども政策担当大臣による「たたき台」、4月5日における伊原和人・厚労省保険局長の衆議院厚生労働委員会での出産費用の保険適用は「26年度を目途に検討していく」との答弁、そして、翌6日における加藤勝信・厚生労働大臣の「まずは『出産育児一時金』の大幅引き上げ、そして、『見える化』の効果検証を行い、そのうえで、出産の保険適用について検討するということでありますから、令和8(2026)年度が目途になるのではないかと想定している」との見通しへとつながったのであった。

保険化の前提条件

ここ10年ほどで、産科医不足と病院の集約化が進み、それと共に、産科診療所の減少と助産所の分娩中止や廃業が進行している。たとえば、クリニックの施設数は、ここ10年余りで20%も減っているらしい。

このままでは、全国の各地域でお産難民が発生するであろう。そして、その事態は保険化を契機に起こりかねない。そこで、クリニックと助産院の生き残りを図ることが、保険化の前提条件となるのである。

まず、考えられるのは、大都市部の苦境への対策である。政令指定都市をはじめとする大都市部では、増額された出産育児一時金50万円であっても、クリニックも助産院も共に経営が苦しい。逆に、地方においては物価等のコストが安いので、50万円で十分であろう。とは言っても、出産育児一時金や診療報酬等の金額に一律に地方・都市の格差をつけるのも、制度の技術的な副作用が大きい。そこで、政令指定都市をはじめとする大都市部には、規定の出産育児一時金にプラスして15万円程度のクーポン券を発行し、妊産婦に対しては大都市部の居住でも産みやすくすることで、大都市部のクリニックや助産院の保全を図る手立てが推奨される(当面、病院・クリニックの無痛分娩に対しても、プラス10万円程度のクーポンを発行するのがよい)。

次に、産前・出産・産後ケアの「かかりつけ助産師の活用」とも関係するが、菅前首相が述べたように、「妊婦健診」や「産後ケア」も「出産」と同様に一体として取り扱う手立てが必要であろう。

もともと、産前・出産・産後が一体となった出産ケアにおいては、「また産みたい」という産婦の「次子出産意欲」が5割程度高いという調査結果もあるようである。まさに少子化対策効果に優れていると言えよう。

さらに、産前・出産・産後ケアの一体化は、「かかりつけ助産師」や助産院だけよりも、身近なクリニックと協働した方が、各地域における安心と安全を強化する。ザックリと言えば、地元の身近な助産師(助産院)と医師(クリニック)がパックで、「かかりつけ」となるのが効果的であろう。ここに妊産婦主体での「かかりつけチーム」に対する選択権が備われば、優れた安心・安全のシステムとなる。

デジタル実装の産前・出産・産後システム

この4月をもって、こども家庭庁が設立されたところであるので、すでに述べた「産前・出産・産後ケア」パックと「かかりつけ助産師・医師」パックの妊産婦による選択につき、こども家庭庁が主導してデジタル実装をしていくことが合理的であろう。このデジタル実装は、海外で現実化しているものとほぼ同様である。

まず妊娠すると、こども家庭庁が運用するデジタル・システムに、「産前(妊婦健診など)・出産(無痛分娩・助産所分娩・自宅分娩など各種)・産後ケア」と「かかりつけ助産師・医師チーム」の希望を、その妊婦自身があらかじめ入力するのである。妊産婦の希望入力がなされた時点で、当該妊婦(と生まれてくる子ども)の診療録・助産録のためデータベースを作り、レセプト(費用明細)も作り、各種データの基礎を作ることになろう。もちろん、妊婦はその初期設定(デフォルト)段階から自ら主体的に関与し、かかりつけ助産師・医師チームとの交流を開始して、各種情報を共有していく。これが産後ケアの終了まで続いて行くのである。

これこそがデジタル実装の産前・出産・産後システムである。そして、このデジタル実装システムは、レセプト(費用明細)までもコントロールして行くことが期待されよう。産前の自治体財源、出産の健康保険財源、一部負担金助成の自治体財源、産後ケアの自治体財源までを、橋渡しして行く役割も果たすことにもなる。さらに、そのようなデジタル実装システムは、いわば第3世代とも言えようから、セキュリティに万全を期すると共に、妊産婦による自己情報のコントロールを徹底させ、助産録・診療録やレセプトの自己情報の保有・閲覧・第三者提供などを容易にさせて、かかりつけの助産師や医師との交流・連携を密にさせる効果も期待できよう。

助産師権限の規定の刷新

デジタル実装システムを十分に構築するためには、保健師助産師看護師法(保助看法)における「助産師」の定義を改正し、助産師権限の定めを現代の要請に適合するように刷新することが、より望ましい。

現状は、保助看法第3条において、「この法律において『助産師』とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう」と規定しているだけである。

このままでは、「助産」の権限が不十分であり、さらには、産前・産後の権限も不明確である。そこで、私案ではあるが、たとえば、「この法律において『助産師』とは、厚生労働大臣の免許を受けて、妊産じょく婦及び乳児の心身の状態に応じた保健指導若しくは健康診査、妊産じょく婦に対する療養の有無に関わりのない継続的若しくは一時的な妊娠、出産及び産後の世話、又は育児に関する指導、相談その他の援助(以下、合わせて『出産ケア』という)を行うことを業とする女子をいう」などと改正し、デジタル実装システムにフィットするようにすべきであろう。

以上のように、「出産費用等の保険適用」「かかりつけ助産師の活用」の前提条件を整えつつ、デジタル実装をして、適切な保助看法の改正もすることによって、いよいよ「保険化」の条件が満たされることになる。次回の論稿では、保険化の具体的な構想につき述べたい。

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