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第98回「画期的な医療技術」をめぐりジレンマに悩む厚労省

第98回「画期的な医療技術」をめぐりジレンマに悩む厚労省
kourou2難病治療が進むのはありがたいが、医療保険財政の破綻は恐ろしい――。画期的な医療技術をめぐり、ジレンマに悩む厚生労働省は4月末、高額な12品目の医薬品と医療機器について、費用対効果を調べる対象とすることを決めた。「割高」と判断すれば、薬価を引き下げる。今回の対象はいずれも保険適用済みのものだが、同省はいずれ対象を保険適用前の品目にも広げ、公費を投じる薬などを絞り込む意向だ。

「肺ガン患者13万人のうち5万人がオプジーボを使えば、年間に1兆7500億円の医療費がかかる」。4月4日。財務相の諮問機関、財政制度等審議会の会場は、専門家の説明にざわついた。

オプジーボは2014年に皮膚ガンの免疫治療薬として承認され、14年12月には肺ガンにも使えるようになった。効果は高いとされる一方、体重70㌔の成人男性が肺ガン治療に使うと1カ月の薬代は322万円に達する。自己負担を抑える高額療養費制度があるため、一般的な患者が払うのは9万円弱。残りは保険料と税で賄われる。

このところ、「画期的」とされる薬や医療機器の承認が相次いでいる。オプジーボの他にも、C型肝炎治療薬「ソバルディ」や「ハーボニー」、大動脈の生体弁「サピエンXT」などだ。 しかし、重度の大動脈弁狭窄症に使用するサピエンXTは431万円するなど、いずれも保険財政を圧迫している。医薬品や医療機器は安全性、有効性が確認され、保険適用された後は2年に1度の診療報酬改定で価格を更新していくが、費用対効果はほぼ考慮されていない。医療費は13年度に40兆円を突破しており、放置すれば青天井で膨らみかねないため、医薬品と医療機器にも価格と効果が見合っているかどうか査定することにした。対象はオプジーボ、ソバルディやハーボニー、乳ガン治療薬のカドサイラなど7品目の医薬品と、サピエンXTなど5品目の医療機器。「効果が費用に見合っていない」と判断されれば、次回18年度の診療報酬改定で価格が引き下げられる。

費用対効果の判定は、高価な薬の投与によって、健康状態だけでなく生活の質がどれほど改善されたのか、類似の薬と比較するなどして行う。海外では既に豪州や英国、カナダ、韓国などで医薬品の費用対効果をチェックする制度が導入されている。日本でも長らく議論され、浮沈を繰り返した末、ガンの放射線治療法の一つ、重粒子線治療に絞って導入する流れができていた。ところが、オプジーボなどの発売を受け、慌てた厚労省は「優先順」を入れ替えた。

今回は、「費用対効果が低い」と判断された薬や医療機器は公定価格が下がるため、患者には朗報かも知れない。ただし、将来は保険適用前の薬なども判定対象とし、低評価のものには保険適用をしない、というのが厚労省の腹。判定は価格に見合うかどうかで、線引きはあいまいだ。「低所得の人は画期的な薬を使えなくなるかも知れない。人の命に値段を付ける作業に初めて手をつけることになる」。そう言って、厚労省幹部は深いため息をついた。




 
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