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化学及血清療法研究所

化学及血清療法研究所
血液製剤「不正製造40年」に加え 二重帳簿で組織的隠蔽工作

厚生労働省は1月8日、化学及血清療法研究所(化血研)に対し、過去最長の「110日間」の業務停止命令を出した。同社は国の承認とは異なる製法で血液製剤を製造していたことが発覚している。それも40年間にわたる悪質さに加え、二重帳簿を作り検査を欺く組織的隠蔽工作を図ってきたことに対する処分だ。業務停止期間は1月18日から5月6日までで、かつて副作用事故を隠していた「ソリブジン事件」で日本商事が受けた業務停止105日間を超える。だが、停止対象となるのは35製品のうち、他のメーカーの製品でカバーできる「人血清アルブミン」や「沈降破傷風トキソイド」など8製品にすぎない。他社の製品で代替できない、あるいは数量が足りない製品は除外して製造を認めている。

加えて、化血研が製造するワクチンや血液製剤には国民の健康確保に不可欠な製品が多いため、医薬品製造販売業な許可取り消しも行わなかった。処分を発表した塩崎恭久厚労相が「本来なら直ちに医薬品製造販売業の許可を取り消すべき事案だ」と怒りをあらわにしたのも当然だ。厚労省の長期業務停止命令に続いて、日本製薬工業協会も化血研を除名処分した。処分理由として、組織的かつ悪質な法令違反、悪質な隠蔽行為、トップまでが認識しながら放置し続けたコンプライアンス(法令順守)とコーポレートガバナンス(企業統治)の著しい欠如、かつての薬害エイズ事件の当事者でありながら、当時、社会に表明した誓約が生かされていない、等々を挙げた。そして「処分審査会では全員が製薬メーカーとしてあるまじき行為だと非難し、誰一人、かばう人はいなかった」と強調する。それもそのはず、こういう製薬会社があることに迷惑すると言いたげだった。

製薬事業の使命を忘れた所業

化血研の犯罪的行為は、昨年5月、内部告発を受けた医薬品医療機器総合機構(PMDA)の検査で発覚したものだが、過去に例を見ない悪質さだ。化血研のホームページでは「血漿分割製剤を承認と異なる製造方法で製造したことにより、国民に多大な迷惑をかけた」とわびている。 実際、献血を一手に行う日本赤十字社から血漿を譲り受け、血液製剤を製造するとき、厚労省の承認と異なるヘパリンナトリウムを加えるという方法で血液製剤を製造したことで不正が始まった。 それも製造方法の変更を届け出ると、承認に時間がかかるという単純な動機だった。製造方法の変更はごく単純なものならすぐに承認を得られるが、そうでない場合は1年くらいかかる。

化血研は時間がかかり量の確保が間に合わない、面倒だということが背景にあったと原因を指摘しているが、製薬事業は人の健康、疾病の予防・治療に貢献するという使命を忘れている。 この不正を40年間にわたり隠蔽した上に、二重帳簿をつくり隠蔽を糊塗し続けたというのには驚きを通り越して呆れる。40年という年月は大卒サラリーマンが入社して定年を迎えるまでの期間に等しい。化血研のOBも現役の役員、社員も入社時から隠蔽を知っていたことになる。製薬事業を行う法人とは到底思えない。

化血研は終戦直後、熊本医科大学(現熊本大学)でワクチン、抗血清の研究・製造を行っていた実験医学研究所を母体にしてつくられた一般財団法人だ。法人名の通り、血漿分画製剤とワクチン、動物用ワクチンの製造を行っている。 当初は熊本医大の技術を残そうという意図だった。戦後、売血が盛んに行われ、旧ミドリ十字が活躍した時代には化血研も九州一円で買血に乗り出している。

 売血が禁止となり日赤への献血時代に入ると、血漿分画製剤の製造に乗り出した。1980年代には旧ミドリ十字の陰に隠れて目立たなかったが、化血研も過熱製剤が開発されているのにもかかわらず、在庫一掃のために非加熱の血液凝固因子製剤の販売に走り、薬害エイズ事件を引き起こしているのだ。 この事件ではミドリ十字とともに化血研も訴えられ、裁判は10年近い歳月を費やした後に和解。そのときに「二度とこういうことが起こらないようにする」と表明したが、現実にはその言葉の裏で、しかも和解交渉中に不正がまかり通っていたことになる。

 そもそも隠蔽が始まったのが40年前ということは、血漿分画製剤の製造を始めてから間もない頃だ。承認を受けていない製造法はヘパリンナトリウムを加える方法で、臨床試験中にヘパリン無添加では血液凝固第Ⅸ因子が活性化して止血しなくなる事態になったため、へパリンを使う方法に変えたという。へパリン添加の方が効率的であり、健康被害の懸念もないと語っている。 血漿分画製剤は日赤から配分された血漿からアルブミンやグロブリン、血液凝固因子などのタンパク質を抽出するもので、原料血漿から次々にタンパク質を抽出し、最後にアルブミンを取り出す。従って、へパリンナトリウム添加への製造方法変更は各タンパク質の抽出ごとに変更届を提出して承認を受けなければならない。

特に、変更届をためらわさせたのは、最後に抽出するのが使い過ぎを指摘されるほど売れたアルブミンだったことだ。それだけに、化血研は承認を待つ間の利益を失いたくないと変更届を出し渋ったという。しかし、最初に製造変更届を出さなかったことが、後々まで尾を引く。「その後に変更届を出すと、今まで承認を受けていない製造法で分画製剤をつくっていたことがバレて処分されかねない。それを恐れ、隠蔽を重ねざるを得なかった」(ある幹部)という。

問題の遠因に「日の丸血液製剤」政策

「二重帳簿を作られていたら見抜けない」といい、40年間もだまされていたPMDAの検査もお粗末だが、国の血液製剤政策にも問題がある。薬害エイズ事件を教訓に、2002年、血液法(安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律)が制定され、血液製剤の国内自給自足を目指した。いわゆる「日の丸血液製剤」政策だ。血液製剤の自給自足は大いに価値のあることだが、献血から得られた血漿を民間に割り当てて必要量の血液製剤を作らせるという計画経済でもある。 化血研と、田辺三菱製薬の子会社であるベネシス(現日本血液製剤機構)、武田薬品工業の子会社である日本製薬の3社が日赤から配分される血漿から血液製剤をつくっていた。

当時、日本は世界の3分の1のアルブミン製剤を消費していたといわれるほど大量に血液製剤を使っていたことから、化血研は大いに利益を上げた。だが、そんな好況は長くは続かなかった。遺伝子組み換え製剤が登場したのだ。遺伝子組み換え製剤は大量生産でき、価格も安い。ウイルス感染の心配もない。DPC(診断群分類包括評価)病院を中心に価格の安い輸入遺伝子組み換え血液製剤を使うようになり、大してもうからない事業に変わってしまった。厚労省の目指した100%自給構築は難しくなった。

こうした状況に対して、厚労省は12年に日赤の血液製剤事業部とベネシスを合併させ、「日本血液製剤機構(JB)」を発足させた。このとき、JBは化血研に合併を打診した。厚労省は血液製剤メーカーを1社に集約して規模を大きくすることで価格を下げ、血液製剤の自給率を上げる方針だった。だが、化血研は「ワクチン事業も抱えているから」と合併を拒否した。血液製剤メーカーを一社に絞れば、独占の弊害が生じやすいし、安くなるとは限らないが、ともかく化血研は独自の道を選んだ。もし合併したら、承認された製造方法と違っているのが発覚していたかもしれない。

実効性が伴わない出荷停止処分

厚労省は血液製剤の自給自足を目標に掲げ、JB、化血研、日本製薬の3社に血漿を配分して需要見込みに合わせて血液製剤をつくらせてきた。100%自給は今もって達成されていないが、国策の結果、化血研に業務停止を命じても、ほとんどの血液製剤を「例外的に出荷」とせざるを得なくなっている。35製品中、他社製品で代替できることで、出荷停止処分ができたのはわずか8製品にすぎない。

いわば、社会主義のような計画経済政策の中で、化血研は血液製剤に対する自信過剰と思い上がりで経営されていた。もちろん、化血研に技術力がないわけではない。遺伝子組み換え血液製剤を開発し、熊本県の菊池研究所に工場をつくり、遺伝子組み換えアルブミンを製造している。血漿分画製剤でも人血液凝固第Ⅸ因子「ノバクトM」や第Ⅹ因子「バイクロット」など優れた血液製剤を作り出している。

むしろ、戦前から続く血液研究の自信過剰が歴代理事長、研究者たちに「へパリンを加えたくらいで」という思い上がった意識を生み出していた。 もう一つの柱であるワクチン事業も似ている。ワクチン製造は化血研の他に北里研究所や阪大微生物研究所が行っているが、厚労省が年間の使用量を推定し、ワクチンメーカーに製造量を割り当てる。この割当量を守ってさえいれば利益が上がるのだ。

おかげで化血研のシェアはインフルエンザワクチンでは29%、百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオの4種混合ワクチンは64%を占める。日本脳炎ワクチンも36%、B型肝炎ワクチンは80%、A型肝炎ワクチンに至っては100%のシェアだ。化血研のワクチンなしでは不足が生じる。 厚労省は化血研のワクチンの品質を検査して出荷を認めざるを得なかった。

血液製剤とワクチン一筋、といえば聞えはいいが、実際には厚労省の割当生産に化血研は40年以上、あぐらをかいて来た。原料血漿を配分され、血液製剤をつくっていさえすれば良いという環境と、創業時から血液については抜きん出た知識があるという思い上がりが虚偽隠蔽を生む土壌をつくり上げた。化血研は今後、血液製剤事業をJBと合併させるか、それとも、経営陣を入れ替え、法人名も変えて存続させるかの岐路に立っている。

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