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第83回 無能行政

第83回 無能行政
第83回 無能行政 南淵明宏大崎病院東京ハートセンターセンター長心臓外科

 「やらせ」で定評のあるNHKのニュースでやっていたのだが、どこかの大学病院の医師11人が精神保険指定医の資格を不正取得した、ということだ。

 この資格を習得するためには経験した8症例のレポートを書いて厚生労働省に提出して審査(?)を受けるということらしい。

 誰がどんな不正を何のためにやらかしたのか、報道だけでは分からない。

 想像だが、おそらく詳細な内部告発がなされたのだろう。

 千葉のがんセンターの手術死亡にしろ群馬大学の件にしろ、そういった事件が露呈する過程もまた、われわれ医療者としてはおぞましい。

 報道からすると重篤な精神疾患患者の入院処置を判断できる、というこの資格が「自験例8例のレポートを提出するだけ」で取れるようだ。大学の通信教育でもレポート提出だけでは単位は取れない。

 レポート提出だけなら、誰が書いたレポートか分からないし、評価も誰がどんな基準でするのか不可解だ。

 コピペがあっても何ら不思議はない。いわゆる「ザル資格」だったのか。

 言うまでもないことだが、著述、describeは科学の要諦だが、そもそも臨床現場は書面で行われているのではない。

 また、臨床行為の様子を書面で表すことは不可能である。

 梶原一騎・川崎のぼるのマンガ作品『巨人の星』では左門豊作が試合のスコアブックを分析してライバルの星飛雄馬の球質が軽いことを見破る。だが、これは天才打者・左門だからできたことであって、書面をもってして、医師の臨床技能や経験を表すことはどだい、不可能だ。

 昨今医学部の入試では必ず面接が果たされ、その人となりが評価される。

 一部を除く専門医の評価も同様だ。仕事場に出向いていって仕事の様子を評価、審査する、という誰でもできることはあえてかたくなに何が何でも絶対にやらない。外科医の技量も書類だけで測ろうとする。

 実技なしで技能検定する、ならその重要性は自動車免許以下、ということになる。

 「実技で判定されたら目隠ししたチンパンジーに生け花させているような手術しかできないど下手は専門医資格を一生取れないことになるじゃないか! 彼は従順でおとなしく、教授の言うことは何でも聞いて大学病院で安い給料で長年がんばってきたんだぞ! 不公平じゃないか!」

 何が不公平なのか全くわからないが、そういう論理の地平線のかなたからの反論が必ず出てくる。

 もっともらしい書類で威厳を保ち、既成事実を積み上げ、狭量な規格から外れた部分は冷たく排除する。

 事の本質は一切問わない。どうでもいいのである。

 そんな書類文化、いや書類支配とでも言うべきか、こういった安物の役人のおざなりでなおざりな制度は現実社会で忙しい医師たちもおざなりでなおざりにつきあっているのだろうが、もしもそんな愚政に縛られている臨床現場があるとすれば、哀れとしか言いようがない。

 医者は現実社会においてしっかりと仕事をしていて忙しいのである。

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