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未来の会

人口急減社会に於ける 地域医療の再構築

人口急減社会に於ける 地域医療の再構築
我が国は「土地神話の崩壊」と「人口減少」という、国家の根幹を揺るがす不可逆的な構造変化の真っ只中に有る。右肩上がりを前提としてきた社会制度が転換を迫られ、地方の空き家が「負動産」と化す今、医療提供体制も又、「拡大」から「スマートシュリンク(賢い縮小)」への適応が急務となっている。建設官僚、岩手県知事、総務大臣、日本郵政社長等を歴任し、常に現場を起点に課題と向き合ってきた増田寛也氏に、人口減少の「緩和と適応」、2次医療圏にほぼ重なる「地域生活圏」、医療人材の確保、病院の「拠点化」等、次世代への地域医療の在り方について聞いた。
——官と民、国と地方で様々な役職を歴任されました。その経験から得た問題意識をお聞かせ下さい。

増田 非常に印象深いのは、建設省に入省して5年程経った頃、千葉県警に出向し、交通指導課長として2年間、轢き逃げ捜査等の指揮を執った経験です。捜査が行き詰まる度、皆で事故現場に戻り状況を頭に入れ直しました。「現場100回」という言葉が有った程で、「常に現場に立ち返る」という姿勢は、私の仕事の原点になっています。その後、岩手県知事や総務大臣を務める中で、時代を揺るがす2つの大きな変化を目の当たりにしました。1つは「土地神話の崩壊」です。建設省(現・国土交通省)に入省した1977年頃は、不動産の値段は下がらないと言われていましたが、バブル崩壊でその前提は崩れました。現在、過疎化が進む地域では都市部に出た人の実家が空き家になり、不動産が所有しているだけの「負動産」と化しています。所有者不明の土地や森林はこうして大量に発生してきました。もう1つは「人口減少」です。日本の人口は2008年の約1億2808万人をピークに急激に減少し、今年1月時点では1億1973万人となり、前年から約90万人減少して過去最大の減少幅を記録しています。この何れも、元に戻す事は出来ませんが、少しでも解決に近付けたいと一貫して取り組んできました。所有者不明の土地については、総務大臣退任後、加藤勝信衆議院議員等と共に相続登記の義務化等の制度改革を進め、法制審議会の委員としても約4年、民法や区分所有法改正の審議に参加しました。長年行政に携わってきた者として、こうした避けられない変化が突き付ける課題の解決に、政府の審議会等の場を通じて少しでも解決に近付けたいと考えています。

人口減少には「緩和と適応」と「賢い縮小」で対処

——人口減少対策と、減少を前提とした社会への対策はどの様に進めるべきとお考えですか。

増田 最近、講演でよく「緩和」と「適応」という言葉を使っています。緩和とは、人口減少のスピードを少しでも緩やかにする事です。現在の急激な人口減を反転させる事は容易ではなく、先ずはそのペースを抑える必要が有ります。一方、適応とは、人口増を前提に設計された社会制度を、人口減少下でも機能する形へと転換する事です。医療提供体制の病床整備基準や、現役世代の保険料収入を前提とした社会保険財政等にも、人口が増え続ける時代の発想が少なからず残っています。まちづくりも同様です。1970年代の終わりには、拡大する市街地の乱開発を防ぐ事が課題でしたが、今は空き家が増え、住宅地の開発を如何に中心部に戻すかが問われています。国土交通省は2014年から、都市機能を拠点に集約し、公共交通で結ぶ「コンパクト・プラス・ネットワーク」を進めています。社会全体を人口減少に適応させながら、行政・都市機能の集約を通じて住民の生活の質を保つ。私はこれを「スマートシュリンク」つまり「賢い縮小」と呼んでいます。具体的には、現在の東京一極集中を見直し、北海道であれば札幌、東北であれば仙台、中国地方の広島、九州の福岡といった広域的な拠点都市を形成し、そこを中心に地域の機能を再構築していく事です。日本ではこれ迄あまり進んでこなかった取り組みですが、今後は避けて通る事は出来ません。人口の減少によって地域の社会インフラや行政サービスの維持が困難になり、本当に地域が立ち行かなくなる恐れが有ります。しかし、危機感を有し、具体的な行動へと踏み出す事は容易ではありません。14年の私の著書『地方消滅』(中央公論新社)では、現実から目を背ける事無く議論を促す為、敢えて「消滅可能性自治体」の市町村名を明記したところ、猛反発を受けました。それでも、今年7月に鳥取で開かれた全国知事会議ではスマートシュリンクが重要な議題となり、私が講演を行いました。データを見れば、多くの知事がもうこの方向しかないと感じ取っている筈です。

——人口が減少しても暮らしを維持する為には、地域をどの様な単位で再構築するのが適切でしょうか。

増田 地域の未来を考える上で欠かせない機能は大きく3つ有ります。1つ目が日常の買い物機能、2つ目が公共交通、3つ目が病院(地域医療)です。この内どれ1つが欠けても、その地域は暮らし難くなる。しかし、市町村が単独で維持するにも限界が有る。そこで必要となるのが「地域生活圏」という考え方です。人口10万人程度を1つの経済・生活単位として、買い物、融通の利く小型交通、病院等の機能を維持する。医療で言えば「2次医療圏」に当たります。2次医療圏は全国で300程有り、市町村合併で行政区域とのずれは生じたものの、それなりに機能しています。この単位で、地域資源を柔軟に組み合わせ、必要な機能を整えるのです。例えば、地域のスポーツクラブの送迎バスを、病院間の送迎や子供の通学、高齢者施設の送迎、路線バスとして共同利用する取り組みが、既に一部の地域で始まっています。以前はこうした事業者間の協議が、独占禁止法のカルテル行為と見做される事も有りましたが、現在は地方銀行や路線バス等、一部の分野で特例が認められる様になりました。もし医療法人が地域の交通や生活支援等、医療以外の事業も担えるのであれば、現在の規制を見直し、それを可能にすればいいのです。重要なのは、地域の実情に応じて、必要な機能を最も効果的に維持出来る仕組みを整える事です。公正取引委員会も、地方の実情に対してはかなり理解を示しています。今後30年、地域の生活機能をどう維持するか。2次医療圏をベースとして、法律や制度そのものを見直す時期に来ています。


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