SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「後発品」減算策を巡り中医協委員間で熱帯びる攻防

「後発品」減算策を巡り中医協委員間で熱帯びる攻防

普及を推進した後発品調剤体制加算も廃止対象に

 2022年度の薬価改定に向けた、支払い側と診療側の攻防が熱を帯び始めた。まず財務省が仕掛けたのは、後発医薬品の使用割合が高い調剤薬局への調剤報酬上の加算「後発医薬品調剤体制加算」の廃止を含めた見直しだ。

 薬価抑制が続く中、薬局には「命綱」とも言える加算とあって、業界関係者は強く反発している。だが、支払い側は処方箋を再診なしに繰り返し使える制度の導入も求める等、あの手この手で揺さぶりをかけている。

 7月21日、厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)の総会で健康保険組合連合会(健保連)理事の幸野庄司委員は後発医薬品調剤体制加算について取り上げ、「加算の費用対効果が薄まっている」と見直しを迫った。

 続けて全国健康保険協会(協会けんぽ)理事長の安藤伸樹委員も「加算と減算の在り方も含めた見直しが必要だ」と畳みかけた。

「ペナルティありきの評価設計」と日薬

 これに対して、日本薬剤師会(日薬)常務理事の有澤賢二委員は「ペナルティありきの評価設計であってはならない。明確に反対する」と反論したのだった。

 更に「(後発品の普及に)努力した先にこういった対応が待っているとは、あまりにも強引ではないか」と嘆いて見せたものの、支払い側は冷ややかに聞き置くだけだった。

 「ジェネリック」とも呼ばれる後発品は、新薬である先発品の特許が切れた後に同一成分で製造される薬で、開発コストが不要な分、価格が安いのが特長だ。

 後発医薬品調剤体制加算は、後発品の数量シェアがまだ30%台だった08年度、後発品の普及による医療費抑制を狙って導入された。後発品の使用割合が75%以上の医療機関に段階的に15〜28点の加算をする一方、使用割合が40%以下なら基本調剤料を2点減算する仕組みだ。

 ただ、後発品のシェアが78・3%(20年9月)に高まり、政府の目標が「23年度末までに全都道府県で80%以上」になった今、「見直しのターゲットとなるのも必然の流れ」(厚労省幹部)にある。

 議論に火をつけたのは財務省だ。6月29日に21年度予算執行調査の結果を公表した際、全国の薬局の同加算取得状況等を明らかにした。同調査は予算の使用実態を点検し、無駄をなくしていくための取り組みだ。

 調べによると、20年度に加算を取得した薬局は全体の74%で、加算の総額は約1200億円。一方、減算の適用対象となったのは0・3%の薬局にとどまり、減算額は全て合わせても約400万円にとどまったという。

 23年度末に後発品シェアの政府目標を達成したとしても、医療費抑制効果は200億円程度——。こんな試算も併せて示した財務省は、後発医薬品調剤体制加算について、これ以上後発品の使用割合を高める機能は期待出来ず、費用対効果が見合わない」と切り捨て、減算対象の拡大等、減算を軸とした制度への大幅な見直しを主張した。

 財務省の一連の攻勢に対して、厚労省は後発品の普及によって20年度は1兆8619億円分の医療費が削減出来たとして、同加算の意義を説いている。

 神奈川県内の薬局経営者は「濡れ手で粟のように言われるが、後発品の数をそろえると在庫が増えコストがアップする。加算はその手当であり、廃止等とんでもない」と憤る。

 それでも、収入を得るために安易に加算を算定する調剤薬局も少なくないのが現状だ。そうした風潮に財務省は同加算の見直しを政府の経済財政政策「骨太の方針」に潜り込ませた。

 予算執行調査では「最も高い加算を得ている薬局の在庫が最も少ない」といったデータも突き付け、「後発品の使用割合と在庫数は正の相関関係にない」として厚労省に同加算の見直しを強く迫っている。

処方箋「変更不可欄」もやり玉に

 同加算の見直しに加え、支払い側が導入を求めているのが処方箋を繰り返し使えるようにする仕組みだ。

 現在は医師が薬の処方箋を出し、処方箋に基づいて薬剤師が調剤している。処方箋の有効期限は原則4日間。薬を飲み終えると医師の再診を受け、新たな処方箋を出してもらう必要がある。高血圧等の慢性疾患の患者は同じ薬を飲み続ける人が多いのに、その都度医師の診察を受け、処方箋を出してもらわねばならない。

 米国の一部等では、長期の有効期限を決め、その間、同じ処方箋で何度も薬を受け取る事が可能となっている。

 日本でも1つの処方箋で薬を分割して出す仕組みはあるが、本格的に処方箋の繰り返し使用が可能になれば再診料、処方箋料を抑える事が可能になる。

 健保連は処方箋の繰り返し使用が可能になる事で年間約362億円の医療費抑制に繋がると試算し、22年度の診療報酬改定で導入するよう求めている。

 この仕組みに関しては、16年度診療報酬改定の際も取り上げられた。

 しかし、日本医師会(日医)が「再診機会の減少でかかりつけ医が患者の健康状態を把握しにくくなる」と猛反発し、見送られた。

 再診料の減少に繋がるだけに、今回も医師側の反発は強いものの、支払い側の声を受け、厚労省は秋口から議論を始める意向だ。

 7月21日の中医協では、処方箋の中に設けられている、医師が後発品への変更を認めない場合に署名する「変更不可欄」もやり玉に挙がった。

 当初この処方箋様式が導入された際は、後発品に変更可能なら「変更可能欄」に医師が署名するスタイルだった。

 それが後発品の普及をより徹底するため08年度に今の仕組みに変わった。医師が「駄目」と言う時のみ先発品を出す格好で、「原則は後発品」という考えに基づく。

 支払い側にずるずる押し込まれた結果の「変更不可欄」ではあるが、この日の中医協で日医常任理事の城守国斗委員は「重要な役割を担っている」と存続を主張した。

 これに対し、健保連の幸野委員は、先発品と後発品の効能が同一である事を患者に説明するのが医師の役割だと強調し、変更不可欄について「役割を終えた」と言い切った。

 新型コロナウイスル感染症の収束にメドが立たず医療機関が疲弊している中、支払い側が求める過酷な見直しが来年度に即、実現するかどうかは微妙なところ。

 とはいえ、昨今はがんに投与する免疫チェックポイント阻害薬等、高額医薬品の承認・保険適用が相次いでおり、他で薬価を抑制しないと保険財政がパンクしかねないのも事実だ。

 過去を振り返ると、財務省が掲げた医療費抑制策は数年〜十数年のタイムラグを経てじわじわと、しかし着実に実現してきている。

 「正念場は22年度ではなく、24年度の診療報酬改定かもね」。厚労省の幹部はそう言って、苦笑いした。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top