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未来の会

「国益」という軸を官民で共有せよ 日本の唯一無二を世界に示す努力を

「国益」という軸を官民で共有せよ 日本の唯一無二を世界に示す努力を
細川 昌彦(ほそかわ・まさひこ)1955年大阪府生まれ。77年東京大学法学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。2003年中部経済産業局長、04年日本貿易振興機構(JETRO)ニューヨーク・センター所長等の要職を歴任。現在は内閣官房参与、明星大学教授。

混迷を極める世界情勢。長年、日本が享受してきた「自由貿易」と「効率」の恩恵は、地政学的リスクの顕在化によって脆くも崩れ去ろうとしている。特に、国民の生命に直結する重要物資のサプライチェーンの脆弱性は、国家の存立を脅かす「静かなる有事」とも言える状況だ。経済産業省での長年の実務経験を経て、現在は内閣官房参与として日本の戦略設計を担う細川昌彦氏は、供給網を強化する「自律性」と日本を唯一無二の存在にする「不可欠性」の両立を訴える。大国の単なる追随者ではなく、自ら秩序を作る「ルール・メーカー」への転換こそが鍵と喝破する氏に、日本が直面する脅威の本質と今後進むべき航路を聞いた。


——内閣官房参与として、現在の日本の経済安全保障に於ける最優先課題をどの様にお考えですか。

細川 現在、日本が置かれている状況には大きく2つの課題が有ります。1つは、特定国による「経済的威圧」への対処です。単なる摩擦ではなく、経済的な依存を政治的武器として使われるリスクが有ります。そのリスクを如何に低減させるかという問題です。特にレアアース等の特定国依存が安全保障上のアキレス腱となっている現実は、一刻の猶予も無いリスクです。もう1つは、トランプ政権下の米国の動向です。トランプ氏は自国の経済安保を最優先に据え、同盟国の貢献度を重要な指標にすると明言しています。日米間で如何に実利的な協力関係を築けるかは、日本の安全保障と経済の両面に直結する問題です。対中、対米、どちらに於いても「経済安全保障」がキーワードになります。

——北朝鮮、中国、ロシアといった核保有国に囲まれた地政学的リスクの経済的影響については。

細川 日本は価値観の異なる3つの核保有国に囲まれるという、世界でも稀に見る過酷な環境に在り、日本の資源やエネルギーの対外依存そのものが、直接的な「経済的脆弱性」を意味します。もし供給網が意図的に遮断される様な事があれば、軍事攻撃以上の打撃を国民生活に与えます。この事は、地政学的リスクを伴う「国家存亡」の危機として見るべきです。こうした状況を踏まえると、欧州と異なり、日本は日米安保を基軸とした向き合い方が必要です。

過去の教訓に学び供給網を死守する「仕組み」を

——安全保障環境の激変は、従来の「効率重視」の経営判断にどの様な変容を迫るのでしょうか。

細川 重要物資を特定国に依存する仕組みが、何時経済的武器として使われるか分からない以上、最も急ぐべきは「リスクの分散」です。現在、日本の原油輸入の中東依存度は95・9%と過去最高水準に達しています。嘗てはアジア産原油の輸入を増やした時期もありましたが、アジア諸国の経済成長による自国需要の増加や、ウクライナ危機に伴うロシア産原油の輸入縮小といった地政学的変化が重なりました。更に、国内製油所が中東産原油の精製に特化しており、成分比の異なる米国産原油等を扱うには多額の設備投資が必要となるインフラ面の障壁も、分散化を阻む要因です。だからこそ経営者に訴えたいのは、「経済合理性」がこれ迄余りに狭く解釈されてきたのではないか、という事です。合理性を判断する際、「コスト・価格」という軸に加え、「リスク」という軸を経営の柱に据える必要が有ります。分散化はコスト増を伴いますが、多少割高でも強靭性を確保する事を「存立の為の投資」と捉える。このマインドセットこそが、国際環境の変容に対処する第一歩です。

——企業がリスクを織り込んだ調達を可能にする為に、政府はどの様な役割を果たすべきでしょうか。

細川 国がサプライチェーンの構築を企業の自由な経済活動だけに委ねていれば、短期的な経営判断として必然的に「最も安く供給出来る調達先」に依存する事になります。サプライチェーン自体が経済安全保障の最前線となった今、この構造を抜本的に変える仕組みが必要です。40年以上前の第2次オイルショック時にも、供給源の多角化を叫ぶ機運が高まりました。当時、私も旧通産省時代に石油担当として奔走しましたが、危機が去れば忘れ去られ、何時の間にか元の木阿弥——という苦い歴史が有ります。同じ過ちを繰り返さない為には、政府が民間任せにせず、民間を誘導する「仕組み」を作らなければなりません。割高であっても信頼出来る供給源から調達する事のメリットを制度的に担保し、インセンティブを与える。経営者が株主に「リスクを考慮した調達こそ中長期的な企業価値を高める」と説明する事が出来る、戦略的な環境整備が急務です。

——供給寸断は現実の脅威でしょうか。過去に起きた様なパニックを防ぐ為の教訓を教えて下さい。

細川 最早、現実の脅威と見るべきです。特にナフサ等の生活基盤物資や医薬品の原料は、常に供給リスクに晒されています。ナフサは医療用品、包装材、日用品から農業、自動車産業等にも広く関わる為、影響は化学業界に留まりません。その為、企業も警戒感から在庫を確保しようとする。結果、総量は足りているにも拘らず、サプライチェーンの各段階で目詰まりが生じ、必要な所へ物が届き難くなる事が懸念されます。加えて警戒すべきなのは、正確な情報の不足が招く、買い急ぎ・買い溜め等の「国民のパニック」です。政府は、備蓄状況や代替調達の見通しを迅速に開示し、企業や国民の過度な不安を抑えなければなりません。戦争の長期化等、メディアが不安を煽りがちな局面でも、資源エネルギー庁が整備されたネットワークを通じて情報を積極的に開示し、国民に迅速に提供する事こそが、混乱を防ぐ最大の要諦です。

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