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JCHO発足から8年の成果と新たな指針 ~地域で信頼され、必要とされ、存続する為に~

JCHO発足から8年の成果と新たな指針 ~地域で信頼され、必要とされ、存続する為に~
山本 修一(やまもと・しゅういち)1957年東京都生まれ。医学博士。眼科医。83年千葉大学医学部卒業。富山医科薬科大学講師、コロンビア大学ハークネス眼研究所研究員、東邦大学助教授、 同大学教授を経て、2003年千葉大学教授。07年千葉大学医学部附属病院副院長を併任。14年同病院長、千葉大学副学長及び国立大学病院長会議会長を併任。21年独立行政法人地域医療機能推進機構理事に就任し、22年同機構理事長となる。医師の働き方改革に関する検討会の構成員としても名を連ねる。眼科医として臨床現場で活躍する一方、網膜色素変性症、加齢黄斑変性等の研究でも数々の実績を残す。

2014年に発足した独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)の新理事長に、4月1日に山本修一氏が就任した。前任の尾身茂氏が掲げた3つの目標——地域包括ケアシステムの確立、総合医の育成、医療情報の共有化・見える化——は達成出来たのか。発足から8年が経過したJCHOの成果を振り返ると共に、就任に当たっての意気込みを語って頂いた。千葉大学病院の病院長としての経歴を持つ、同氏の現場で磨かれた手腕に期待が掛かる。


——尾身前理事長がこれまで推進されて来たJCHOの取り組みについて、総括をお願いします。

山本 経過自体を詳細に把握している訳ではないので、現状についてお話をしますと、全国に57病院が在り、この内DPC特定病院群(旧II群)に位置するレベルの病院が2つ在る一方で、100床レベルの小さな病院も在るという状況です。旧II群の病院が高度急性期であるのに対し、大半の病院は地域急性期という位置付けで、地域包括ケア病棟も持つ「ケアミックス」として運営しています。特に印象的なのは、多くの病院が老健施設や訪問看護ステーションを附属している事です。そういう点から見ても、尾身先生が掲げられた地域包括システムの確立に向かって事業を展開して来たのは事実と言えます。

法人全体で資金をカバーし合う仕組みが確立

——57病院全体での連携は取れているのですか?

山本 元々、計画的に配置された法人ではないので、地域で孤立している所も在りますし、横の連携は取り難い状況に在るのが現状です。ただ、人事は本部が行っているので、経験を積んで頂く為に、事務系や看護系の職員を広域で異動するという事は行っています。又、財政は法人全体で管理しているので、建て替えや高額な設備投資が必要な場合は法人で支援する事になっています。この法人の1番の重要なポイントは、国からの運営交付金が出ないという事です。独立行政法人通則法では必要に応じて交付金を出すという規定が有りますが、JCHOは所謂JCHO法の中でその規定は適用しないと明示されている珍しい法人です。法人としては赤字を出さないという前提の下に、各病院の経営力に差が出る中で、全体としての黒字の範囲内でカバーし合うという形を確立した事は、この8年間での最も大きな成果ではないでしょうか。

——地域連携を進めて行く中で、57の病院の統廃合の可能性は有るのでしょうか。

山本 それは排除し切れない所ですが、日本全国どこの医療機関も同じ状況だと認識しています。今後、地域でのニーズに応えられているのか、シビアに見て行く必要が有ると思っています。我々がやらなければニーズが満たされないのか、他に担い手がいる場合にJCHOとして歯を食い縛って迄やらなければならないのかは検討が必要になるでしょう。先程も申し上げた様に、法人として赤字を出せないという強い制約が在る中で、どこまで生き残って行けるかはこれからの大きな課題だと思います。

——57の病院長とは過去に面識が有ったのですか?

山本 ここに来る迄は勿論有りません。この1年間で30病院ぐらい回りました。やはり現場に行くと、病院に入った瞬間にその病院のマネジメントがどうなっているか、院長のリーダーシップがどの程度かが分かりますね。肌感覚と言いますか、それはとても重要だと思っています。病棟を上がってエレベーターを降りてナーステーションをぐるりと見渡すと、そこの看護師長がどういう人なのかが見えて来ます。見学に行くと、大概どこをご案内しましょうかと尋ねられるので、「一番見せたくない所をお願いします」とお答えします。すると、皆モデルコースを考えているので慌てますね。抜き打ちと言うのではなく、好奇心からですが。その病院がどの様に運営されているのか、ここにいる職員や患者さんはどうなのかと。院長や看護部長と回っていると、職員から挨拶が飛んで来る病院もあれば、知らん振りをしている病院も在りますね。その病院の雰囲気、院長がどうやって組織をグリップしているのか、これらは数字にも表れて来ます。上がって来る数字を見て病院に行くと、その理由が分かりますね。だから他の理事にもここに座っていると仕事が出来ないですよと申し上げています。

総合医の実現に向けた教育体制の構築

——尾身前理事長は総合医の重要性を話されていましたが、こちらの状況は如何でしょうか?

山本 これは未だ道半ばでしょうね。看板を掲げたからといって、中々それで走れるというものでは無いと実感しています。JCHO病院でも、殆どが各科の専門医よりも総合的に診られる医者を求めていますし、明らかに世の中のニーズは高まっています。又、最近は在宅医療を含めて最初から総合医の方向に将来進みたいという若者も出て来ています。患者さん側からも、若いドクターからもニーズが有る一方で、日本の卒前卒後の教育体制は専門医志向、サブスペシャリティ志向のままという状況です。教育体制そのものをきちんと構築して行くという所で、まだまだ工夫の余地は有ると思います。1つの案として、現場から上げて行く形も考えられます。例えばJCHOの中にも内科の専門性の垣根をかなり低くして総合内科的な運用をしている病院も在りますので、その様な所から指導者とフィールドを提供して行く事も出来るでしょう。教育には、指導者、フィールド、ゴールの3つの要素が必要ですので、後はゴールを何処に設定するのかです。この点についてはJCHOとして急いで検討を進めるべきだと感じています。

——イギリスで言うホームドクター制は総合医に当たるのでしょうか。向こうではかなり長い歴史があります。

山本 私はあまり外国の事情に詳しい訳ではありませんが、国としての医療提供体制の違いは大きいですね。イギリスには家庭医をゲートキーパーにするという制度設計が在りますが、フリーアクセスが前提の日本とはまた話が違って来ます。ですから、そのまま同じ制度を持って来ても、決して上手くは行かないと思います。日本では、在宅医療へのニーズが高まる中で、特に全身を診られるドクターの要請は喫緊の課題だと思っています。

——全身を診られないというのは、専門医制度の問題点なのでしょうか。

山本 そうですね。救急の話で言えば、我々が地域急性期としてJCHO病院で受け持っているのは、高齢者の二次救急です。高齢者の二次救急となると、全身を診て、ご高齢の方を如何に苦しい状況から救い上げ、自宅に戻れる様にするかという所になります。勿論、極めて専門性の高い疾患の場合も有りますが、基本的には誤嚥性肺炎等が主体であって、もしくはその他の肺炎や脱水であったりする訳なので、「全身を診られる」という事に対するニーズは非常に高いと思います。組織としては、カリスマ的な存在よりもチームワークが取れる事が重要です。

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  1. 補助金返せぼったくり

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