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未来の会

国内成長が終焉、「優勝劣敗」の再編に向かう後発薬業界

国内成長が終焉、「優勝劣敗」の再編に向かう後発薬業界
独禁法違反、製剤の出荷停止のトラブルも相次ぎ噴出

特許切れした新薬(先発薬)と有効成分が同じで開発費が少なく済み価格が安いジェネリック医薬品(後発薬)。膨らむ医療費抑制の切り札として国が強力に使用促進を後押ししてきたことで、成長し続けてきた後発薬業界が今、大きな課題に直面している。

 まずはトラブルの続出である。

 7月23日、業界準大手の日本ケミファが鳥居薬品とともに公正取引委員会から検査を受けた。日本ケミファが製造販売し、鳥居薬品が併売する降圧剤「カルバン錠」で、販売価格カルテルを結んでいた独占禁止法違反の疑いだ。ちなみに、この薬そのものは後発薬ではなく、特許切れ後の新薬、いわゆる長期収載品だ。

 日本ケミファは今年6月にも高リン血症治療の後発薬(2018年発売)のカルテルで公取から違反認定されたばかりだ。

 今回検査対象の薬は発売が1995年。もし20年以上にわたるカルテル行為の認定がされれば、製薬業界の体質にまで懸念が広がりかねない衝撃をはらんでいる。

原薬〝汚染〟も相次ぐ

 今年2月下旬に浮上した業界2位の日医工の抗菌薬「セファゾリン」の供給停止懸念が、3月に現実のものとなった。感染症治療で不可欠の薬で、同薬効市場で日医工がシェア6割を占めるため、代替薬の確保に医療機関が右往左往した。

 2カ所の原薬製造所のうち1カ所で異物混入、もう1カ所でも原料の中国工場の稼働停止が重なり、最悪の供給途絶の事態となった。早くても出荷再開は今秋になる見込みだ。

 3月には業界首位の沢井製薬の胃炎・胃潰瘍治療薬「エカベトNa顆粒66・7%『サワイ』」が自主回収される騒ぎとなった。インドの原薬工場で、ドーピング禁止薬物が混入したのが原因だった。出荷再開メドはまだ不詳だ。

 製剤の供給不足に限らず近年は、後発薬の生産・販売の停止・中止などが目につくようになった。

 これに対し、医療機関からは強い反発が起きている。薬の安定供給義務を果たしていない、という真っ当な批判だ。

 しかし、後発薬メーカー側にも解決が難しい事情がある。今回の2件の原因を探っていくと、直接の製剤・原薬の仕入先のさらにその先、出発原料・原薬を生産する中国・インドにたどり着く。この最上流の原薬生産工程まで管理するのは難しい。さらに原薬が単独という製剤が少なくないことも問題を大きくしている。単独の原薬供給元で生産や品質の問題が生じた場合に、すぐ代わりを見つけ、短期で生産再開とはいかないからだ。

 後発薬メーカーにもこの構造問題への懸念は頭の片隅にあっただろうが、なかば目をつぶってきたのが実態だ。そのわけは、これまで大きな問題が発生しなかったことに加え、利益を確保するには、原価の低い中国、インドからの供給依存を高めるのがコスト面で有利に働いたからだ。

 ただ、これはもはや許されない。

 後発薬大手は、製剤ごとの原薬の製造国表示を医療関係者向け限定で公表し始めた。

 日医工は、原薬(調達ルート)複数化を進め、複数原薬化した自社製品の比率を現状の45%から21年度に70%に引上げる目標を打ち出した。最上流の原薬生産まで遡ったきめ細かな製品の品質管理強化も必要になり、短中期でのコスト上昇要因になるが、これは避けては通れないと腹をくくったということだ。

後発薬市場「成長終焉」の悪夢

 日本ジェネリック製薬協会が4半期ごとに発表する最新の後発薬の数量ベース比率は19年1〜3月期で75・7%。20年9月末までに数量ベースで80%以上という国の目標値に接近している。

 後発薬市場の成長余力はほぼ消えかけている。先発薬と同じ成分薬効が基本の後発薬は品質での差別化が難しく、勢い先発薬以上に価格競争が激しくなりがち。医薬品卸会社が医療機関や調剤薬局に販売する市場での実勢価格下落も先発薬より大きくなる傾向がある。

 数量成長が大きいうちは価格低下をカバーできるが、数量拡大が鈍化すればそれも難しい。金額ベースでは後発薬市場は縮小に早晩転じる。

 20年春からは薬価改定時期が従来の2年に1回から毎年になる。薬価の引き下げ頻度・速度が早まるわけで、これも薬価改定の基準となる市場実勢価格の下げが先発薬より大きい後発薬には極めて不利に働く。

 日医工の田村友一社長は5月の決算説明会で「日本の後発薬市場はまだ拡大する」と発言した。「金額ベースでの国の目標が当然出てくる」ことがその根拠だ。膨らむ医療費の抑制のために、財政の論理から後発薬の一段の使用促進を図らざるを得ないというのが田村社長の読みだ。

 金額ベースでの後発薬比率が欧米先進国に比べ日本はまだ低い事情もあり、この可能性を一笑に付すわけにはいかないが、今の段階では後発薬業界の一部の願望を代弁したと解釈するのが正しいだろう。

 ただ他の業界首脳はこの実現に懐疑的な見方を本音として漏らす。厚生労働省などからも、80%目標達成後の新たな後発薬促進策新設への積極姿勢は寸毫も見えてこない。

 大手は成長戦略としてM&A(企業の合併・買収)、海外事業の拡大、医薬品周辺の新規市場の開拓を打ち出している。沢井や日医工は米国後発薬メーカーの大型買収を敢行し、後発薬世界最大市場の米国事業拡大に懸命だ。

 ただ、結果は厳しい。日医工の米国子会社は3期連続の赤字で、連結業績の足を引っ張る。沢井の米国事業の営業利益は18年度で15億円。まだ全体の6%にすぎない上、今期は米国事業で競合激化から売り上げの減少を予想する。

 日医工は昨年3月にエーザイと大型の業務提携を結び、その後発薬子会社を今年4月に傘下に収めた。約250億円の売り上げが上乗せになり、後発薬市場のシェアも15%になり、当面の目標の20%に近づく。

 後発薬市場全体の成長は止まっても自社の規模拡大を追求することで、日本での事業成長を図る構えだ。これは業界大手3強の沢井や東和薬品も同じだ。2社に今のところ国内で派手なM&Aはないが、いずれ後発薬市場での準大手以下のふるい落としや業界再編・淘汰は必至。黙っていても、自分達の手中にシェアは集まるとみているのだ。

 「長期収載品などの譲渡の話も出てくるだろう。内容次第で考える」と後発薬大手の首脳の一人は言う。

 しかし、大手にも余裕はない。前述したような原薬品質管理の強化に今後、コストがかさむ。米国の後発薬市場は製品が増え市場は拡大しても、価格競争が厳しく利益が出ない〝豊作貧乏〟状況に陥る。テバ(イスラエル)など後発薬の世界巨人も苦戦。米マイランは米ファイザーの特許切れ先発薬部門との統合を発表し、事実上の救済とみられている。後発の日本企業が勝ち抜くのは至難の業だ。

 国内市場の成長終焉とともに、日本の後発薬メーカーは大小入り乱れた優勝劣敗の世界、経営の巧拙が問われる時代に突入しつつある。

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