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目前に迫る「大学医学部2023年問題」

目前に迫る「大学医学部2023年問題」
日本の医療・医学への〝外圧〟はこれから本格化する

医学教育において〝令和の黒船〟と言われる「大学医学部2023年問題」は、コロナ感染症拡大により1年が延期されたものの、目前に迫って来た。ついに医学教育の分野も国際化の流れに飲み込まれる事になる。

 これまでも日本独自のルールは時代と共に「外圧」により否応なく変化を求められて来た。また、日本政府は国内では調整・解決が出来ないような問題を「外圧」に頼って来た過去がある。最近の例では日本の上場会社を襲った国際会計基準の導入はまさに「外圧」だった。世界の会計基準の主流は米国会計基準と国際会計基準だ。米国の上場会社が採用するのが米国会計基準であり、欧州連合(EU)他110を超える世界主要国が採用するのが国際会計基準である。

 日本の会計基準は独自の基準で、高度成長の時には問題になる事はなかった。と言うよりも、海外の金融機関や機関投資家は日本の会計基準を勉強し、日本企業の業績を判断していた。

 しかし、日本の経済の長期低迷を受け日本の市場に魅力がなくなると、わざわざ日本の会計基準を理解する事が面倒になって来たというのが正解だろう。

 日本企業が海外機関投資家の評価を得たい、または、資金調達がしたいなら国際会計基準を導入せよという事だ。評価される事はイコール投資に繋がる。比較検討が出来る同じ会計基準を採用しなさいとなるのは当然の話だ。

 2005年にEUで国際会計基準の導入が義務付けられた事から、日本もその導入を決めた。この変更で日本の上場会社には大きな混乱が生じたが、海外の評価機関からは正しい評価を受ける事が出来るようになった。

 この会計基準変更に伴い企業評価に変化が現れた。連続増収増益を誇っていた複数の有名上場企業の増収増益が止まった。理由は簡単だ。日本の会計基準では売上利益の数字の捏造に近い操作が可能だったが、国際会計基準では出来なかったのだ。国際化とはこう言う事でもある。

世界から求められる「世界共通基準」

 今、海外から日本の基準の変更を求められている中に、医師免許の共通化や法律分野に関する基準がある。彼らは日本も1日も早く世界共通基準に準じてほしいという外圧を掛け続けて来ている。

 平和だった日本の大学医学部もついにこの洗礼を受ける事になった。10年、ついにNPO法人ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)から、今後は国際基準で認定を受けた大学医学部の卒業生だけにECFMGの申請資格を与えると通知された。

 ECFMGとはどのような存在なのか。この組織の歴史は古く、1956年に米国内の医療法人で勤務する米国とカナダ以外の海外の医科大学を卒業した医師の評価を行う機関としてスタートした。米国で勤務する海外の医科大学卒の医師は全体の25%にも達し、当時一部でこれら外国人医師の問題が報告されるようになっていた。

 この頃の米国は今日のような訴訟社会ではなく、また医療過誤の認識も低かったものの、医療機関の団体やライセンス発行機関や世論から、海外の医科大学を卒業した医師を疑問視する声が高まっていた。

 当時指摘されていた一番の問題点は英語力だった。これを受け政府は医師のレベルを審査する民間機関の誕生を促した。これに応える形で民間の評価機関である「海外医科大学卒業生評価サービス」(Evaluation Service for Foreign Medical Graduates)が創設され、同年、現在のECFMGに改称された。

 当時、米国の世論は政権や大統領選挙に大きな影響を与えるエスタブリッシュメントの声として無視する事は出来ない状況にあった。このような状況の中で設立した経緯からECFMGは設立当初から高い支持を得る事が出来た。そして海外の医科大学卒業生の評価を開始した。

 問題は既に勤務する海外の医科大学卒業の医師の扱いだった。当時から米国内の医師の少なくない割合を占めていたが、ECFMGは毅然とした態度で彼らに対する審査を始めた。ECFMG初の証明書が発行された際の査定により、58年は一時的には医師不足に陥ったようだが、医療の質を高める事に繋がった。

 米国政府は「大学医学部2023年問題」以外にも長年、日本の医療界に対し広い範囲での開放を求めて来た。米国医療法人や米国の保険会社が日本で医療法人を開設出来る事や、米国医師免許で医療行為が出来る事等、医療・保険分野の開放を求めて来ている。

 日本政府はこれまで「日本医師会の反対で受け入れられない」と回答して来た。これに対し、米国の言い分は「我々はいつでもどこでもドアは開いている」であり、日本も閉鎖政策を改めるようにと圧力を掛け続けている。

 これに押し切られたのが保険だ。日本初となる米国の保険会社、アフラック生命保険の商品「ガン保険」の販売を許可した。許可しただけではなく、日本の大手保険会社には5年間「ガン保険」の商品販売を禁じた。米国の圧力に対し、日本は美味しいビジネスを提供しているのだ。

日本政府に臓器移植法改正の圧力も

 これ以外にも医療分野における外圧は続いている。米国の医療団体や世論は日本の臓器移植に関する法律を変えるよう日本政府に圧力を掛けている。

  日本は臓器移植法や脳死の考え方から臓器提供者数が極端に少なく、日本国内で移植を受ける事が困難である。そこで、臓器が必要な患者は資金調達をして渡米し、米国内で移植を待つ事になる。米国の臓器提供者数は、日本と比較して圧倒的に多いものの、数は不足している。

  ちなみに100万人当たりの提供者数は、日本は0・77人で米国は34人。英国は24人、スペインは48人だ。日本の都合で臓器移植が受けられない日本人患者を米国人の臓器が救う。臓器を日本人に譲ると米国人の命が救えないという議論は当然だろう。

日本の医学教育は外圧で変わる

 この現状に日本は目をつぶるが、米国内では「日本国内で解決せよ」の声が多く、今後はこの分野でも圧力を掛けて来るだろう。

 「大学医学部2023年問題」もこれらの延長線上にある。日本が扉を閉じ続けるのであれば、寛容な措置を取って来た我々もドアを半分閉めますよ、という事だ。

 ECFMGは2016年、英国の大学評価を行う機構の仲介で集中出版へコンタクトを取ってきた。ECFMGの幹部は「日本人医師の弱点は唯一英語力」「医学の知識や能力の高さは評価済み」と言う。

 10年に「大学医学部2023年問題」の通知を受けた時、日本の大学医学部の教育関係者と文部科学省に激震が走った。文科省にしても初めて経験する外圧だったに違いない。文科省の幹部らが右往左往した事を記憶している。

 この時、厚労省は日本の大学医学部教育が国際化に向かう事は将来性のある話だと導入賛成の立場を取っていた。ECFMGの通知を受け、国際基準を導入した評価制度を持つ日本医学教育評価機構(JACME)が誕生し、17年に世界医学教育連盟(WFME)の承認を得た。これにより世界を目指す若い医師の道はとりあえず担保された。

 しかし、これからも外圧は続くだろう。日本の医学・医療界の10年後は想像も出来ないほど変化している事は間違いない。

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