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第97回 singularity

第97回 singularity
第97回 singularity 南淵 明宏(昭和大教授)

2046年問題というのが一部で議論されている。この年、完璧な人工知能が完成するらしい。すると、どうなるか。

 その瞬間、人工知能はすぐさまより完璧な人工知能を開発する。そうやってこの宇宙を支配する知力を持ったAIが誕生する。AI、つまり人工知能がこの世を支配するらしい。これが人類社会の特異点。singularityというわけだ。

 お偉い学者さんが言う。

 「いや、本当に大変なことになるんですよ。もう人間社会は終わりです。とにかくほとんどの仕事がなくなるのですから」

 本当にそうなら、われわれはジョン・コナーに反乱軍を組織してもらうのを期待するしかないのだが、にわかには信じがたい。

 直感的に思うのだが、この世の無限に存在する事象を機械が理解することは不可能なのではないか。

 ベーコンの「知は力なり」はある意味正しいが、たかが人間が勝手に決めた言語で表現された物理法則ごときに、この世界が支配されてはいない!

 臨床現場でわれわれは日々、理屈で説明できない不思議な現象に見舞われている。

 知識がないためか、個々の局面での判断に思い込みや偏見、希望的観測があるためか。それとも未来を予想することはどだい無理、この瞬間にもさまざまな別宇宙が存在し、われわれはその都度次の瞬間にその一つに飛び込んで行くという、coherenceの賜物であるのか。

 とにかく、このsingularity問題は「20○○年に世界は消滅する」に似た与太話のように聞こえる。どっかのあくどい広告宣伝会社が音頭を取って、消費意欲を社会に生み出すためにでっち上げ、社会にばらまいている戯れ言にすぎないのではないか。

 それに人工知能などなくても社会は刻々変化し、いろいろな職業が消滅している。医者なら誰でも思うだろうが、消滅必至職種の第一候補は製薬会社のMRだ。

 一方の製薬会社のMRさんは「偉そうにするだけで患者を診ない管理職の医者どもはそのうち大量絶滅するに違いない」と確信しているに違いない。

 確かに診断はできるかもしれない。IBMのワトソン君は大いに期待できるのだが、診断の根拠となる大量のデータを覚え込ませる作業は大変な労力だと聞く。

 教え込ませるデータによって、AI(IBMはAIではなくCognitive Computingと呼んでいる)は悪人をも善人と判断する、という話を皆さんも聞いたことがあるだろう。だとすると、誰しも疑問が湧く。

 そもそもわが国の医療現場では、どう考えても絶対に効くはずがない薬剤が大量に患者に投与されてきた権威盲信、ニセ科学野放し、の土壌がある。悪事は闇に葬られ、いつの間にか使われなくなってはいるが、そんな基盤が日本の医療界にはある。ワトソン君は正しく教育されるのだろうか。医療現場の人工知能には患者を診断するのもいいが、医者の診療のインチキ、デタラメ、偏見、利益相反、搾取、セコさを診断してほしいものだ。

 そんなことより、人工知能ができるまで待てない、一日も早く消滅してほしい「職種」の第一位は都知事だろう。東京都民なら誰しもが思っているはずだ。

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