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未来の会

特別寄稿 ◉ Doctor's Opinion
最高裁に物申す! 性別は心(思い込み)では決まらない、身体で決まる
(大阪大学 名誉教授 細川 亙)

特別寄稿 ◉ Doctor's Opinion最高裁に物申す! 性別は心(思い込み)では決まらない、身体で決まる(大阪大学 名誉教授 細川 亙)

2023年の本誌12月号に「手術無しで性別変更……割れる世論」という記事が掲載された。全国紙各紙でも、23年10月25日の最高裁大法廷での、戸籍上の性別変更に必要とされている生殖不能要件を憲法違反とした決定に対する性同一性障害者の見解などが特集され、合わせて世論の動向をかなり把握できる資料となった。著者は形成外科医として男女の性別に関する手術も行ってきた経緯もあり、この問題についての関心は決して小さくない。

男女の定義から考える最高裁の判決

様々な意見が入り乱れる中で、置き忘れられている議論があることを私は指摘したい。それは男と女の定義は何かということである。

性同一性障害特例法は、男女の定義から外観的なものや機能的なものを除外していない。つまりこの法律は、古典的で世間的な男女の定義である身体的な特徴に基づいて戸籍上の男女を決めている。これに対して最高裁は、戸籍上の男女は本人の自己認識で決まるという判断を下したように見える。もしも今後の裁判でもう1つの手術要件(外観要件)についても、性別変更には不要と判断すれば、どう見ても男性である人を女性と戸籍に記載することになる。

しかし司法のトップである最高裁といえども、男・女という言葉の意味を変更する権限は与えられておらず、そのようなことをすれば、それは司法の越権行為となる。仮に、戸籍に記載される性別の男・女は一般用語で指すところの男・女でないと最高裁が主張するのであれば、戸籍には、例えば自然人に対して法人という言葉があるように、法男や法女などという別の法律用語を使わなければならない。

一方、男女という言葉の意味が世間における認識のままであるとすれば、最高裁は戸籍への虚偽の記載を命じたことになる。戸籍では、いつ誰から生まれたか・死んだかというようなことについて、事実が記録されるのが基本である。今回、「憲法上の要請」として戸籍に虚偽を記載すべしという決定が出されたことは驚くべきことであるが、近い将来、戸籍係が「虚偽の記載を強いられない権利」を求めて司法に判断を求めたら最高裁がどのように答えるのか見ものである。

差し戻し審に求める常識ある判決

もし「戸籍に事実を記載されることによって生じる不利益」を解消すべきだと最高裁が考えたのであれば、不利益を生じさせるルールを改めるのが筋である。例えば、戸籍に女性と記載されたら女性同士では結婚できないという不利益を解消すべきなのであれば、女性という事実は記載したうえで、女性が女性と結婚(結婚という言葉を別の言葉に換えても良い)することを認めればよい。その不利益を解消するために、戸籍に虚偽を記載する必要は全くない。最高裁は合理的に問題を解消できる手段があるにも関わらず、虚偽事実を戸籍に記載するという禁じ手で問題を解消しようとしたのである。しかも、それが15人の判事全員一致の決定であったことに私は暗澹たる思いを抱く。

例えば、有色人種に対する人種差別を解消するために、有色人種を白人とみなして白人並みの権利を与えるような手法は決して用いてはならない。有色人種という事実は正しく認定したうえで、その事実ゆえに権利が不当に制限されているのであれば、制限しているルールを否定しなければならない。最高裁は実に本質から外れた姑息な手法をこの決定で採用した。差し戻し審の高裁には、性別は外観や機能で決まるという常識ある判決を出してもらわなければならない。戸籍に虚偽を記載することが憲法上の要請であると主張した愚かな最高裁決定を糾弾する勇気を下級審に求めたい。

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