SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第2回「大野病院事件」に想う

第2回「大野病院事件」に想う

 去る7月1日・2日、全国有床診療所連絡協議会が大分県医師会主催で開催された。平成になって有床診療所の数は約2万4000施設から約7700施設と激減し、“絶滅危惧種”とさえ言われている。特に都市部で深刻である。その理由は人材不足と経営効率の悪さに尽きる。

 しかし、在宅療養支援診療所として地域包括ケアシステムの中核、また要介護者のレスパイト施設などとして出番は大きい。

 懇親会の席で、ある町長さんから「自分の住む町には、お産の出来る施設が一つもない。是非とも移り住んで地域医療に力を貸してほしい」と言われた。これはある意味、魂の叫びであろう。

 現在日本で最も不足しているのが産科医である(次が外科医)。

 私が今もはっきり覚えているのが2004年の前置胎盤妊婦の術中死、いわゆる大野病院事件である。刑事事件となり、担当医師が診察室内で手錠をかけられて逮捕され、その様子がテレビ放映された。術前にはリスクを十分に説明した上、出来るならスタッフや設備の揃った総合病院での手術を勧めていた。

 この事件を機に、日本の周産期医療の崩壊が始まった。お産を取りやめる医療機関が続出、それは現在も続いている。産科を目指す研修医や医学生も激減した。奈良県の救急車たらい回しも、この事件が大きく影響している。

 日本産婦人科学会が中心となって全国キャンペーンを展開、06年に無罪が確定し、医師の名誉は回復された。

 確かに、この時のマスコミのネガティブキャンペーンは異常だった。1人の人間の死という厳然たる事実はあるが、犯罪者扱いとは……。

 最近の無痛分娩関連死に対するマスコミ各社の報道にも、大野事件と同様のものを感じるのは私だけだろうか。10億円の損害賠償請求に焦点がいってしまっている。無痛分娩のリスクは別次元で語られるべきものだ。大野病院事件以後、若手研修医、医学生に対する関係者の懸命な啓発活動の成果がようやく現れ始めた矢先である。

 過日、医学生と話す会で隣席の5年生の女性が少子化日本の未来を憂えて、「私は産科医になって、安心して子供を産める社会づくりに貢献したい」と熱く話していたのが、今も鮮やかに耳に残っている。「日本も捨てたものじゃない」と私は心底感激した。しかし、その女性から、今回の一連の報道で産科選択は白紙に戻したいとメールが入った。

 地方では産み場所すらないところもあるということを医療関係者以外にも強く認識してほしい。学生の気持ちが一旦萎えると、どんなに教育・啓発活動を行っても、効果が現れるのに10年はかかるであろう。

 大分から空路で羽田に向かった。快晴の下、朝の一番機に搭乗。窓側で、翼に邪魔されない席だった(いつも夜か寝ているか通路側)。

 豊後水道上空から瀬戸内海の島々がキラキラと輝いていて、日本にもこんなに美しい光景があるのかと、まさに感動だった。不覚にも落涙してしまった。目ざとく気が付いてくれた若いCAがそっとおしぼりを差し出してくれ、「ゆっくりと楽しんでください」の一言に、また感激。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top