
原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士)当勉強会も今回で99回を数え、来月にはいよいよ100回の節目を迎えます。「何でも学べる会」との尾尻代表のご発案を受け、以来月1回、皆様と研鑽を重ねてきました。常に共に学びながら、良い国を作る為に努めてきたと思います。単に回数を重ねるのみならず、活動に見合う成果も残していきたいと存じます。今後もご指導下さい。
鈴木 馨祐氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員、自由民主党副幹事長)現在、衆議院内閣委員会の筆頭理事を務めており、サイバーセキュリティの議論も行っています。病院には機微情報が多く、サイバー攻撃で情報が漏洩してしまうと社会への影響が大きい。実際、病院に対しては、数多くの攻撃が試みられています。これらの攻撃を如何に防ぐか、万が一、被害に遭った時にどう対応するのかというのは、喫緊の課題です。
尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)20数年前、病院へのサイバー攻撃の実態を米国で取材しました。当時は攻撃を受けると金銭で解決するのが主流で、被害額は恐らく年間2000億〜5000億円に上るだろうとの事でした。今は10倍以上になっているでしょう。病院には医療情報から決済カード情報まで数多くの情報が有り、国家レベルで対策を講じなければならない時期に来ていると思います。
講演議事録
■巧妙化し対策が難しいサイバー攻撃
最近の我が国に対するサイバー攻撃は、被害の規模も内容も年々深刻さを増しています。多いのは情報の窃取やシステムダウン等で、それらを脅迫の材料に用いた資金要求も行われています。公表されていない事案を含めると、その被害は私達が認識している以上に拡大していると考えざるを得ません。
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の観測によると、サイバー攻撃の試みと見られる数は約13秒に1回という頻度になっています。攻撃の内容も、2000年代はサーバーを攻撃して、ネットバンキング等のサービスを停止させたり、情報を漏洩させたりするものが中心でした。しかし10年代に入ると、システムの脆弱性を突いて内部に侵入、情報を暗号化する等といった手法へとエスカレートし、暗号化した情報を悪用する「身代金要求」は、サイバー犯罪ビジネスの常套手段にもなっています。更に最近は、後述する「ゼロデイ攻撃」や「システム内寄生戦術」といった高度な攻撃も確認されています。国内では、政府機関や医療、港湾、金融等の分野が標的となり、病院の診療や港のコンテナの搬入搬出が出来なくなるといった事態も起きました。飲料メーカーや通販企業のシステム障害では、取引先を含めてサプライチェーン全体に影響が及びました。
特に、データを暗号化して身代金を要求するランサムウェア攻撃は、国民生活に多大な影響を及ぼします。医療分野では、病床数100を超える中規模・大規模な病院に対して、複数の攻撃事例が確認されています。これらの病院は地域医療を支えており、命に関わる病状の患者も少なくありません。当該事例では、何れも保守系のVPNや委託業者とのシステム接続点から侵入されており、システムの全面復旧まで1カ月から2カ月を要した事例もあります。
規模の大きな病院では、多くの部門が存在し、システムが別々に稼働している事等により、外部ネットワークとの接続点を網羅的に把握出来ていない点が課題です。その為、ネットワーク機器の脆弱性等を管理し切れず、監視機器等の効果的な導入も困難な状態です。又、推測し易いパスワードの使用やパスワードの使い回しも見られ、ネットワークに侵入された後、容易にセキュリティを突破された例も有りました。
これを受け、厚生労働省では医療機関のサイバーセキュリティ対策状況の実態調査を行っており、外部との接続点が多数有る病院に対しては、接続点の集約や適正化を支援する事も検討しています。
■国家を背景とするサイバーテロと攻撃の手口
世界では、国家の関与が疑われる高度なサイバー攻撃が増加しています。特にロシアによるウクライナ侵攻後、衛星通信網サービスや高圧変電所に対するサイバー攻撃で、通信網の遮断や停電等が起きています。代表的な例としては、北朝鮮を背景とする「トレイダートレイター」と呼ばれるサイバー犯罪集団が知られています。同グループは、暗号資産取引所やブロックチェーン関連企業を狙う事で知られており、日本ではDMM Bitcoinから当時約482億円相当を窃取したとして、FBIと警察庁が当該集団の関与を共同で特定しています。又、国家支援型の攻撃者集団については、「ソルトタイフーン」や「ボルトタイフーン」といった攻撃グループも複数知られており、米国や英国、豪州等で重要な社会インフラ等のシステムへの侵入が確認されています。こういった様々な脅威を踏まえ、日本は、米国や英国、EU、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)、豪州、NATO等とサイバー分析や対処の能力向上に向けた協力も進めています。
企業や病院等がこの様なサイバー攻撃の被害を防ぐには、基本的な対策を徹底する必要が有ります。例えば、「パスワードは長く複雑にし、使い回さない」「多要素認証やパスキーを設定する」といった対策でもリスクを減らせます。多要素認証とは、パスワードに加えてスマートフォンアプリでの認証を用いる等、知識情報、所持情報、生体情報等の複数要素を組み合わせる方式で、その中でもパスキーは、一度の動作で生体情報と所持情報を満たす為、パスワードの入力自体を不要にする仕組みです。「今時、当たり前ではないか」と思われるかも知れませんが、不正アクセスの検挙件数の約9割は、単純なパスワードやパスワード管理の甘さに付け込んだ犯行です。闇サイトで取引されているアカウントでも「123456」や「password」といった単純なパスワードが多いと言われています。
政府機関で言えば、国家サイバー統括室の前身、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)でも、23年にメール関連システムに対するゼロデイ攻撃によってメールデータの一部が漏洩する事件が起きました。
所謂ゼロデイ攻撃とは、ベンダー等の修正プログラムが未公表で、対策が講じられていない段階で脆弱性を突く攻撃です。脆弱性の発見から対策公開迄の日数が0日であるという意味で「ゼロデイ」と呼ばれます。この為、NISCでは機器を入れ替えた上で、システム内部の通信も監視する等の対策を強化し、その後は、新たな不正通信の試みも遮断する事が出来ました。これらの対策は内部のネットワークを含めて、全てのアクセスを疑い監視するという意味で「ゼロトラスト」と呼ばれています。次に、「システム内寄生戦術」も巧妙な手法です。攻撃対象のパソコンやサーバーに標準で搭載されている正規のツールや機能を悪用し、機密情報の収集、パソコンの遠隔操作、権限の変更等を行う攻撃手法です。一見、通常のシステム操作と区別が付かない為、セキュリティ製品による検知も非常に難しい手口です。これに対しては、既にシステムが侵害されているとの想定に基づいた「脅威ハンティング」という手法が対策として有効です。我々NCOも現在、脅威ハンティングに関する基本方針の取り纏めを進めています。



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