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未来の会

第53回「日本の医療の未来を考える会」リポート

第53回「日本の医療の未来を考える会」リポート

COVID-19に対するDNAワクチン 開発とその意義について

新型コロナウイルスによるパンデミックは、いずれワクチン接種が進む事で収束していくものと考えられている。日本で接種が進んでいるのは、ファイザー社とモデルナ社のワクチンで、国産のワクチンは現在も開発の途上にある。国産ワクチンの開発は、なぜ遅れてしまったのだろうか。また、国産ワクチンを開発する意義はどこにあるのだろうか。7月28日に衆議院第一議員会館で開かれた勉強会では、新型コロナウイルスに対するDNAワクチンの開発に取り組んでいる大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座教授の森下竜一氏を講師に招き、治験段階に入っている国産ワクチンの現状について、国の支援の在り方や金額が日米で大きく異なっている事等について解説して頂いた。

山田賢司・「日本の医療の未来を考える会」国会議員団(自民党衆議院議員)「ワクチンは国民の生命に直結するだけに、戦略物資と考え、医療というより安全保障の観点から見ています。なぜ国産ワクチンが出来ないのかという批判もあります。国がワクチンを買い続けるような、持続可能な仕組みが出来ないものかと考えています」

尾尻佳津典・「日本の医療の未来を考える会」代表、『集中』発行人「このパンデミックによって、ワクチンには一国の外交を担うという重要な役割が加えられました。中国はワクチン外交に力を入れています。日本も考えを変えるべきでしょう。政府が国産ワクチンのために大きな研究開発資金を投じる事を期待しています」

COVID-19に対する
国産ワクチン開発とその意義

■日本が打ち出した新しいワクチン戦略

 ワクチンについて考える時、日本ではどうしても公衆衛生の観点が中心になります。しかし世界的に見ますと、ワクチンは戦略物資で、ワクチン外交が繰り広げられています。その重要な地域が東南アジアです。今回のパンデミックが収まっても、10年以内にはかなりの確率で次のパンデミックが起こると考えられます。可能性が高いのは東南アジアです。そうした時に、日本はどのような形で世界に貢献する事が出来るのでしょうか。そういう点から、ワクチンを考えるべきだと思います。

 先日、政府から「ワクチン開発・生産体制強化戦略」が発表されました。ワクチンに対する従来の日本の考え方とかなり異なり、先駆的な内容を含むものになっています。従来、ワクチンは日本人の分だけあればいいというのが基本的な考え方でした。しかし今回の戦略では、ODA(政府開発援助)を活用してワクチンを外国に出していく事になっています。国内だけに目を向けていたこれまでと異なり、海外への支援を打ち出しているのです。

 ワクチンはゲームチェンジャーと呼ばれます。現在、日本ではファイザー社とモデルナ社のワクチン接種が進んでいますが、どちらも優れた成績を持つワクチンで、確かにゲームチェンジャーになり得ると思います。ただ、ワクチンだけで元に戻れるかというと、そうはいきません。もう1つ重要なのが治療薬です。最近、抗体カクテル療法が承認され、これはある程度効果がある事が分かっています。しかし、もう少し効果の高い特効薬的な薬剤が出てこないと、治療薬に関しては十分とは言えません。最終的には、新型コロナウイルスの体内での増殖を抑える、インフルエンザに対するタミフルのような薬が出来る必要があります。それにはもう少し時間がかかりそうです。

■RNAワクチンは早く作る事が出来る

 従来のワクチンはウイルスを不活化する方法で作っていました。新型コロナのワクチンでは、中国製ワクチンがこの方法で作られています。インフルエンザワクチンも同じで、鶏の生きた卵でウイルスを増やし、そのウイルスを不活化してワクチンとして使います。新型コロナウイルスは鶏の卵では増えず、ミドリザルというサルの腎臓の細胞でしか増えません。そういう事を調べるのに、普通はかなり時間がかかります。ところが中国では、2020年3月に臨床試験に入っています。ウイルスの発見が19年12月ですから、わずか4カ月で未知のウイルスの培養法と不活化の方法を見つけ、しかも安全性の確認を済ませ、臨床試験に入った事になります。常識的にはあり得ない早さです。そういう事もあって、武漢ウイルス研究所に起源を持つウイルスではないかとか、もっと早い時期に発生していたのではないか等と言われているわけです。

 中国が完成させた不活化ワクチンには弱点があって、変異したウイルスには効果が弱くなります。中国製のワクチンを打ったインドネシアやUAE(アラブ首長国連邦)等で感染が拡大しているのは、それが原因と言われています。

 ファイザー社とモデルナ社のワクチンも、20年3月に臨床試験が始まっています。これも早過ぎると思う人がいるかもしれませんが、そうではないのです。ファイザー社とモデルナ社のワクチンはRNAワクチン、私どもが開発を進めているのはDNAワクチンですが、これらのワクチンは遺伝情報があれば作る事が出来ます。新型コロナウイルスのスパイクタンパクの遺伝情報が分かれば作れるのです。ウイルスそのものは使いません。

 我々は20年3月にワクチン開発を始めると発表して、1カ月くらいでワクチンを作りました。ファイザー社やモデルナ社は、10〜15年も前からRNAワクチンの開発を始めているので、おおよそ出来上がっていたのです。完成していた自動車のエンジンを別の物に替えるように、新型コロナの遺伝情報を組み込めばよかったのです。

■特長が異なる4つのタイプのワクチン

 ワクチンには4つのタイプがあります。インフルエンザワクチンのように、ウイルスそのものを使うワクチンは「ウイルスワクチン」と呼ばれています。ウイルスを不活化して用いるため、「不活化ワクチン」と呼ばれる事もあります。日本では、KMバイオロジクスが開発しているのが、このタイプのワクチンです。

 ウイルスのスパイクタンパク質を合成し、それをワクチンとして投与する方法もあります。「組み替えタンパクワクチン」と呼ばれます。日本では、シオノギ製薬がこのタイプのワクチン開発を行っています。

 これらのワクチンとは異なり、RNAやDNAを投与する「核酸ワクチン」があります。ファイザー社とモデルナ社のワクチンはRNAワクチンです。日本では第一三共がRNAワクチンの開発に取り組んでいます。大阪大学とアンジェスが共同開発しているワクチンは、DNAワクチンです。どちらも核酸ワクチンの仲間です。

 RNAとDNAはどう違うのかと言うと、ワクチンが製品だとすると、RNAは部品に相当し、DNAは設計図に相当します。ファイザー社とモデルナ社のワクチンは、RNAという部品を体内に投与する事で、体内でワクチンとして働くタンパク質を作らせます。DNAワクチンは、設計図の段階で体内に投与し、体内で部品となるRNAを作らせ、更にワクチンとして機能するタンパク質を作らせる必要があります。

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