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第149回 HPVワクチンへの厚労省の曖昧姿勢にしびれをきらす自治体

第149回 HPVワクチンへの厚労省の曖昧姿勢にしびれをきらす自治体

 厚生労働省は7月21日付で、子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルス(HPV)感染を予防するというMSD社のワクチン「シルガード9」の製造販売を承認した。ただ、一方で厚労省は運動障害等の副作用被害を訴える声が上がっている事を踏まえ、承認済みの2種のHPVワクチンについて7年以上、「積極的勧奨の差し控え」を続けている。自民党の議連はこうした「どっちつかず」の姿勢に噛み付いており、同省は対応を迫られている。

 シルガード9が承認された21日、自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」(細田博之会長)は、加藤勝信・厚労相に早期のワクチン勧奨再開等8項目に及ぶ要望書を提出した。議連の呼び掛け人で、子宮頸がんを経験した三原じゅん子・参院議員に対し、加藤氏は「承認の次は定期接種だな」と告げた。

 シルガード9は、9種類のHPVに効果があるとされる「9価ワクチン」だ。2・4価ワクチンは既に承認済みだが、9価は国内初。承認申請後5年間放置され、ようやく承認に漕ぎ着けた。

 国は2013年4月、HPVワクチンの定期接種を始めた。公費による無料の制度だ。対象は小6〜高1の女性で、接種率は7割程度に達した。ところが、接種後に激しい痛みやけいれん、記憶障害、歩行困難に襲われる等ワクチンの因果関係を否定出来ない副作用の訴えが相次ぎ、厚労省はわずか2カ月で積極的勧奨を中止した。

 ただ、定期接種を中止したわけではなく、今も制度は存続する。それでも国の曖昧な姿勢は国民に「危険なワクチン」との意識を植え付け、住民への個別通知をやめる自治体が続出した。多くの国ではワクチン接種で子宮頸がん患者数が減少している中、日本では結果的にワクチンの接種率が1%未満に低迷し、年間に約1万1000人が罹患して約3000人が死亡している。

 世界保健機関(WHO)はHPVワクチンを推奨し、リスクについても「薄弱な根拠」としている。日本に対しては「若い女性をHPVによるがんの危険にさらしている」とまで批判している。だが、一方でHPVワクチン薬害訴訟全国原告団は副作用の危険性を訴え、シルガード9の承認にも強く反対してきた。厚労省によると、2017年8月時点で「副反応疑い」の訴えは累計3130人に及んでいる。

 両者の板挟みにあって厚労省はずっと煮え切らない姿勢を変えられずにきた。同省のリーフレットには、「子宮頸がんの原因の50〜70%を占める2タイプのウイルスの感染を防ぎます」等と記す一方で、「がんそのものを予防する効果は、現段階ではまだ証明されていません」とも書かれている。厚労省は改訂に取り掛かっているものの、自民党の議連メンバーは「このパンフを見て、誰がワクチンを打とうと思うのか」と批判する。

 責任逃れから態度を鮮明にしない国にしびれをきらし、住民へ定期接種に関する積極的な情報提供に舵を切る自治体も出始めた。千葉県いすみ市や岡山県等97自治体に上る。「早く国は指針を示すべきだ」。自治体側からそうした声が漏れている。
集中出版

 

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