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感染者急減で浮上「エラー・カタストロフの限界」理論

感染者急減で浮上「エラー・カタストロフの限界」理論
複製のエラー増加で  ウイルス自体が自滅

人流増加にかかわらず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新規感染者数が一気に減少した事について、感染者増加のシミュレーションを描いていた専門家は納得のいく分析が出来ていない。専門家への信頼を揺るがすだけでなく、感染症対策に関しては人流抑制を前提に出来ない事も示している。

 厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーホードで9月16日、新規感染者数の減少要因の可能性として①連休・夏休み・長雨の影響などで外出が減少した②感染者急増・医療逼迫等の報道によるメディア効果で行動変容が起きた③ワクチン接種が現役世代を含めて進んだ——事が要因として挙げられた。

 数理モデルでCOVID-19の流行を分析している西浦博・京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻教授は8月の東京の新規感染者数について、1日1万人を超え、8月末には3万人を上回ると予測していた。しかし実際は、8月中旬の約5800人をピークに下降した。

 西浦氏はあるテレビ番組で「デルタ株の流行で他国の状況を見ていると、人出がこれだけある中で減らすのは、もう無理かもしれないと本気で思っていた」と述べた上で、「医療が大変な状況である事等、リスクを皆さんが認識した。データに基づく分析は未完成だが、これが相当大きかったと考えている」と人々の行動変容の影響を強調した。

 西浦氏ら専門家に対して、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏は別のテレビ番組の中で「予想が外れたなら、なぜ外れたのか言ってもらえないと信用出来ない。彼らの計算はあくまで机上論だと感じる。この人達の予測が当たる確率がどのくらいなのか。100%正しいと思って、危ない、危ないと言っていたけれど、その感覚はやめないといけない」と批判した。

 また、西浦氏がCOVID-19拡大防止策として「人の接触8割減」を国に提言し、「8割おじさん」として知られるだけに、橋下氏は新規感染者数の減少について「ウイルスが自然に減少する事もあるのではないか。人流抑制の一本槍ではいけない」と述べた。

 ウイルスの自然減少に関しては、ドイツの生物物理学者でノーベル化学賞受賞者の故マンフレート・アイゲン氏が1971年に発表した「エラー・カタストロフ(ミスによる破局)の限界」という理論が今改めて注目されている。ウイルスが増殖する際にコピーミスが起き、変異株が出現する。中には増殖の速いタイプのウイルスが生まれ、急速に感染が拡大。しかし、増殖が速ければコピーミスも増える。一定の閾値を超えると、ウイルスの生存に必要な遺伝子まで壊してしまいウイルスが自壊する、という考え方だ。

 この考え方に基づくと、新型コロナウイルスのコピーミスにより7月以降に急速に感染拡大したが、8月中旬にコピーミスが「エラー・カタストロフの限界」を超えたため、ウイルスの自壊が始まり感染が急速に減少したのではないか、という事になる。仮説の1つだが、検証してみる価値はあるのではないか。

 西浦氏の予測には過激なものがあるだけに、『週刊新潮』では「『8割“狼”おじさん』は怖がらせるのがお仕事」という見出しの記事まで掲載された。西浦氏の予測はデータ中心で、人々の行動変容を変数にする事は難しいかもしれないが、予測が外れた事を説明しない理由にはならない。

 そもそも専門家は、どうリスクを評価し、それをどう政治家や国民に伝えるべきか。専門家は、未知のリスクに対して科学的に最悪のケースを含めた選択肢を示すのが責務だ。政治から独立した姿勢が国民の信頼を高めるだろう。一方、専門家のリスク評価をどう政策に活かすかというリスク管理は、政治家の責務だ。

 専門家も政治家も言いっぱなし、やりっぱなしではなく、説明責任の義務を負うべきだ。それがメディアを通した発信であればなおさらだ。自らの言動に真摯に向き合った結果、分析や反省により、より正しいリスクの評価・管理への軌道修正が可能となるだろう。

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