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最悪の事態を想定して平時に備える コロナ禍で見えた危機管理の課題

最悪の事態を想定して平時に備える コロナ禍で見えた危機管理の課題
福田 充(ふくだ・みつる)1969年兵庫県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。専門は危機管理学、災害対策等。コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員・日本大学法学部教授等を経て、16年日本大学危機管理学部教授。内閣官房・新型インフルエンザ等対策有識者会議元メンバー。

新型コロナウイルス感染症への対策を巡って、日本国内では危機管理の在り方が大きな議論となった。菅義偉前首相が退陣に追い込まれたのも、危機対応の失敗が一因とされる。医療面だけを見ても、病床や医療従事者の不足といった課題が生じ、感染拡大から2年経った今でも根本は解決していない。危機管理の点から見て、日本の新型コロナウイルス対策は何処に問題があり、どうすれば良かったのか。そして、この経験を今後、どの様に活用して行けば良いのか。日本大学危機管理学部の福田充教授に、危機管理についての考え方や、将来起こり得る国家の危機に対応する為に必要な事を聞いた。

——「危機管理学」とは、どの様な学問なのですか。

福田 「危機」という言葉の意味の範囲は広く、英語にすると「リスク」「ハザード」「クライシス」等と使い分けられます。私たちが対象としているのは主に、災害や原発事故、テロ、紛争・戦争、パンデミックといった「ハザード系リスク」と呼ばれる物です。地震や原発事故や感染症等、専門家は様々な危機に際し、現状について科学的な検証を行い、対策を考えます。しかし危機対策はそれだけで無く、対応に当たる人を集めて態勢を構築したり、被害が拡大しない様、住民を避難させたりしなければならない。又、災害等に備えた法整備や、平時からの訓練も必要です。そうした「危機に対する社会科学的なアプローチ」を研究するのが危機管理学です。

——危機管理の研究を始めた切っ掛けは?

福田 1995年の阪神・淡路大震災です。私は大学院の修士課程で、メディア研究をしていました。生まれ故郷の兵庫県西宮市も被災した為、被災地調査で現地に入ったのですが、調査を進めるに連れ、「これは人災に近いのではないか」と感じました。それまで関西では地震があまり起きていなかった事から「関西では地震被害が起きない」という神話があり、災害への備えが殆ど出来ていなかったのです。その上、当時の村山政権は事後の対応に手間取り、救出・救援活動等の遅れにも繋がった。もっと災害対策を講じていて、迅速に対応出来ていたら6000人余りもの方が亡くなる事は無かったのではないかと思い、災害対策について研究を始める事にしました。

——それまでの研究を全て捨てて?

福田 メディア研究の中でも災害報道やリスクコミュニケーションは極めて重要だと感じて、改めて一から災害対策に特化した研究を始めようと思いました。そうして東京の大学に戻ると、今度は地下鉄サリン事件が起きた。そこでテロ対策も研究の対象にしようと思った。その後、北朝鮮のミサイル開発が問題になるとミサイルの研究も始め、原発事故が起きると原発についても勉強して……と対象が広がって行きました。そこで、全ての危機への対応を研究していこうと「危機管理学」と名乗る様になりました。

——日本大学に日本初の危機管理学部が出来たのは16年ですね。

福田 正確に言うと、それ迄も医療系の「危機管理学部」は在ったのですが、社会科学系の危機管理学部は日本大学が最初です。日大の学祖は山田顕義という人物なのですが、山田は吉田松陰の弟子で明治政府の司法大臣も務めた。山田はシビリアンコントロール(文民統制)の重要性を日本に持ち込んだ人だったので、そういう学問を日大でやって行くべきだとして危機管理学部を作る事になりました。

——学部の新設は大変だったのでは。

福田 10年頃から構想が動き出したのですが、文部科学省との折衝が大変で、時間は掛かりました。当初は「危機管理は大学で研究する物では無い。安全保障や治安対策は防衛大学校や警察学校に任せておけば良い」という態度で、なかなか話を聞いて貰えなかった。しかし、「これからの治安対策や災害対策では、普通の学生にも危機管理を教えて行かないと間に合わない。危機管理を学んだ学生が民間企業や公務員になる事で、日本の危機管理が進む」と何度も訴えて、ようやく話を聞いて貰える様になりました。

危機管理に重要な4つの機能

——危機管理には何が必要なのでしょうか。

福田 危機管理では、「インテリジェンス」「セキュリティ」「ロジスティクス」「リスクコミュニケーション」の4つの機能が重要です。感染症対策を例に取ると、インテリジェンスとは情報の収集と分析。セキュリティは防御で、水際対策の事です。ロジスティクスは供給態勢で、病床や医療器具、ワクチン、治療薬等の確保を指します。そしてリスクコミュニケーションは「3密の回避」や「緊急事態宣言」等、国民への呼び掛けです。これら4つを連携し、機能させる事が重要です。

——新型コロナウイルス対策では、その4つが機能しなかったのですか?

福田 インテリジェンスで言えば、19年12月に「武漢で謎の新型肺炎が流行している」という情報が流れた際、当時、中国にはビジネスで駐在している人や研究者も居た筈なのに、政府が現地の日本人から情報収集し分析したという形跡が全く見られませんでした。セキュリティでも、中国の習近平国家主席の来日や東京五輪の開幕が迫っていた事が原因で、水際対策の初動に大失敗した。ロジスティクスの点では、危機を想定した訓練が行われておらず、法律も無かった事が問題でした。危機に際して態勢を拡充し、維持するには平常時からの備えが欠かせない。これは感染症対策だけでなく、災害やテロへの対策でも重要です。政府や自治体は今、この事を身に沁みて感じて居るのではないでしょうか。

 

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