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未来の会

現代型危機管理 諸外国から得る示唆

現代型危機管理 諸外国から得る示唆
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスのwithコロナ対策

新型コロナウイルスによるパンデミックが始まって2年余り。数々の変異株が出現し感染拡大の波は今も続いている。現在猛威を振るうオミクロン株は重症化リスクは低いが感染力が高く、子供を含む入院数は増加している。過去最多を更新している感染者や濃厚接触者の隔離で人手不足が社会活動に影響を及ぼし、医療従事者の感染も増え、入院数増加と相まって医療体制逼迫が懸念されている。パンデミック時には、保健当局に情報が迅速に集約され、それぞれの司令塔による強い指揮の下、感染制御指針に沿った施策の実施が期待される。これらには平時からの危機管理対策と有事のリーダーシップが重要な意味を持つ。

 現在、多くの国はコロナ共存戦略に舵取りしているが、これ迄も当局(日本−厚労省、米−CDC、独−RKI、英−保健省等)が新型コロナ対策の要となり、水際対策や国内行動制限、マスク着用やワクチン接種義務化等、様々な施策を検討実施して来た。医療資源等の準備不足、初動の遅さ、煩雑な仕組みによる混乱等の課題もあったが、比較的上手く行った施策もあった。施策選びやその効果には、国民性、法制度、地理的条件や社会資源等、各々の国の事情も影響するが、これらの違いを踏まえた上で尚、諸外国の仕組みの中には日本の危機管理対策に活かせる要素も多い。

欧米のコロナ政策:効果と課題

 日本に示唆を与える欧米の事例を幾つか取り上げる。

1.ワクチンや治療薬の早期開発・承認・確保

 国内で利用可能なワクチンを確保しスムーズに接種を進める事は、医療システムへの過剰な負担を抑制し、国民の不安を低減出来る。パンデミックが始まってから1年足らずという驚異的な速さでワクチンが承認され開発出来た背景には、①平時の内にパンデミックに備え②国内ワクチン開発の資金を国家が支援し③開発から承認迄のプロセスを短縮した事が挙げられる。独ビオンテック社は長年の基礎研究を新型コロナワクチンに応用し、米モデルナは、有事のワクチン開発に向けパンデミック以前から国立衛生研究所と協同し準備を進めていた事が、今回のワクチンの早期開発に大きく繋がっている。各国は海外ワクチン確保にも努めているが、特に、イギリスでは開発段階から各社と大規模なワクチン供給契約を進め、現在も更に確保を進めている。一方で、途上国のワクチン接種率(少なくとも1回の接種済)は10%未満で、国際的なワクチンの公平分配に課題も残る。

2.ワクチン接種促進

アメリカ・イギリス・ドイツでは3回目接種が進んでいるが、全体での接種率は1月現在75%程度で去年夏から横這い傾向にある。接種促進の為には①接種機会の増加②ワクチン未接種者の行動制限や接種の義務化等の対策が必要である。ドイツでは地方住民の為にワクチンバスを走らせ、イギリスでは24時間接種可能な会場を設け深夜の接種を可能にした。接種会場を拡充するには医療従事者の手配にも考慮が必要だ。いち早く接種会場を拡充してきたイギリスだが、医療従事者の人手確保が課題であった。又、ワクチン接種の義務化をしていないドイツ等の国では、未接種者への行動制限措置を取る事で間接的にワクチン接種率向上に寄与している。

3.デジタル化

 行動制限施策を検討する上では、受け入れ側や利用者の負担への配慮も必要だ。例えば、ワクチン証明や陰性証明を必要とする行動制限を設けた場合、これらの確認には人手を要するが、デジタルを活用する事で飲食店等の負担が大幅に減る。欧米では紙のワクチン証明は即時発行されるが、EUではEU圏内共通で利用出来るEUデジタル証明書を2021年7月に導入した。ワクチン接種証明以外にも、回復証明や陰性証明が登録出来る。現在日本で検討されているワクチン・検査パッケージのデジタル版である。飲食店や公共交通機関利用の際の感染リスクを低減する為、EUの多くではワクチン証明書の提示を求める措置を採っているが、スマートフォン等でQRコードを提示するだけで済み、都度確認をする店舗側の負担もアナログ確認と比べ簡便だ。他にも、欧州では早くからコロナ対策へのデジタル活用が進み、スマートフォンのアプリを利用した施策は煩雑なプロセスを簡単にし、国民や企業の混乱を回避・軽減している。利用側の負担が減れば、施策の形骸化を避け、実効性や有用性を高める事が出来る。検査から情報管理に至るあらゆる危機管理対策において、デジタル化やロボティックで効率化出来るものは早期から導入する事で、人海戦術で浪費していた人的資源を戦略立案や医療体制拡充等の適所に利用する事も可能になる。これらのデジタル化は個人情報の取り扱いに配慮しながら進められ、将来的には広く国内外で利用出来る様になる事が期待される。

4.検査、早期診断、治療;変異株の特性や医療実態に適した措置

 検査数が不十分だと、感染者の発見が遅れ感染拡大にも繋がる可能性が有る。検査能力・検査機会を増やす方法として、①民間の検査解析を活用②無料化・保険適用化③予約不要④検査する事でのインセンティブ(行動制限免除)等が有る。アメリカではドライブスルー型の検査場を設けた。ドイツやフランスでは民間が運営する簡易検査施設をあちこちに設け、住民は無料で予約無しに抗原迅速検査を受ける事が出来、民間のPCR検査も活用されている。検査機会を増やすに当たり、その後の患者追跡が出来る仕組みも併せて必要になる。ドイツでは、街角の民間検査施設を利用する場合、個人情報や検査結果は即時データーベースに保管され地域保険局に共有され、陽性者の場合は、地域保健局が検査・診断・治療又は自宅隔離終了迄フォローアップする。これらの情報は地域保健局から州当局、更にコロナ対策の指揮を取るRKIに連絡される仕組みになっている。官民の連携により検査機会を増やしながら、陽性者を見失う事無く追跡する事が可能なのである。PCR検査や遺伝子解析の利用も広まり、変異株の追跡も比較的容易になった。変異株の特性や医療提供状況に基づき柔軟に施策を検討実施している。

5.迅速な情報収集と正しく分かりやすい情報公開

 情報化社会の今、世界中の情報をタイムリーに入手出来る一方で、科学的では無い情報や誤った情報も溢れる。刻々と変わる水際対策や国内規制の情報に国民や海外渡航者が追い付けない事態も生じている。この様な事態を回避するには、迅速に情報収集し、一元管理し、分かり易く正しい情報を公開する必要が有る。例えば、EUが立ち上げたRe-open EUというアプリでは、EU諸国の最新の水際対策や国内感染予防措置等の情報を一元化しているだけでなく、利用者視点で設計されており、分かり易く使い易い。

期待される現代型危機管理

柔軟で効果的な危機管理施策の実施を目指すには、「サイエンスに基づく舵取り」「ユーザー視点」「デジタル活用」「情報の一元化」「民間活用」や「国際連携」は不可欠である。

 日本ではインターネット利用が8割を超えスマートフォンの普及率も全世代8割を上回っているにも拘わらず、多くの施策で非効率なアナログ対応を要し行政のデジタル活用の遅れは明らかだった。デジタルのエキスパートを活用する等してユーザー視点に立った危機管理対策の検討と一層のデジタル化促進が期待される。又、日本では厳しい水際対策と外出自粛要請、ワクチン接種を実施して来たが、今後はサイエンスに基づく柔軟な舵取りが更に期待される。検査機会を増やしタイムリーに正確な現状把握をするだけではなく、民間のPCR検査や遺伝子解析力を活用し国内の変異株状況を把握する必要が有る。ウイルスの特性や検査・診断・治療方法等の情報共有に於いても、更なる国際連携が期待される。

 安全性担保を第一にしながらも、早期にワクチンや治療薬が使用可能になる準備が必要だ。日本はワクチン接種率や接種スピードは高い一方で、国産ワクチン開発の遅れ・海外ワクチンの申請と承認の遅れ・ワクチン確保の壁といった課題が浮き彫りとなった。平時より国内ワクチン開発支援をし、有事のワクチン承認申請に必要な試験デザインの見直し・国内外ワクチン申請承認加速・早期に必要量のワクチンが確保出来る仕組み作りが期待される。

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