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トランプ大統領誕生を奇貨として 日本は自らの頭で考え行動すべき

トランプ大統領誕生を奇貨として 日本は自らの頭で考え行動すべき

 公益財団法人 笹川平和財団安全保障事業企画室特任研究員
暴言王、政治未経験、ポピュリストと言われるドナルド・トランプ氏が次期米大統領に就くことで、世界に「トランプ・ショック」が走った。同盟国に負担を求める安全保障・外交政策、保護貿易的な経済政策、移民と多様性の国にもかかわらず宗教・人種差別的な政策などを掲げたが、本当に実行するつもりなのか。日本はどう対応すべきなのか。米国の政治事情に詳しい渡部恒雄氏に話を伺った。


——トランプ大統領は予想できましたか。

渡部 民主党のヒラリー・クリントンが有利だと思っていました。ただトランプの線も2割ぐらいの確率であり得るとの注意喚起はしていました。ロシアンルーレットで、5連発のピストルに1弾だけ詰めて自分に打つとしたら、ほとんどの人は怖くてできませんよね。トランプが勝った時の覚悟は必要ですよということでした。

——トランプ氏当選の背景は?

渡部 米国の大統領選挙では最後まで共和、民主のどちらが勝つか分からない10前後の接戦州があります。そこが勝敗を分けました。「ラストベルト(錆びた工業地帯)」といわれるオハイオ、ペンシルベニア、ミシガンなどの、白人の労働者人口が多く、グローバル経済の進展で生産が海外移転していく中で苦しんでいる地域です。トランプはこれらの人たちに期待を持たせ、ぎりぎりの人数をひっくり返しほとんどの州で勝利した。これが勝因です。全米の得票総数ではヒラリーの方が200万票以上、上回っているのですから。トランプは低中所得層全般から大きな支持を得ました。出口調査では年収5万㌦以下はクリントン支持が多く、5万㌦以上10万㌦以下までの層はトランプ支持が多かった。彼らの生活は極貧というほどではないが、将来に不安を持っている人々です。このままではじり貧で何も変わらないだろうという理由で、トランプは未知数であるにもかかわらず、変化を期待して、トランプに投票しました。

——富裕層もトランプ氏に入れたのでしょうか。

渡部 高額所得者は基本的に共和党支持であり、今回もトランプに入れています。共和党の政策は金持ち優遇ですし、ヒラリーへの嫌悪感も大きかったと思います。米国の金融業界を代表するウォールストリートは「静かに」トランプを応援していたと思います。トランプはオバマ政権が作った金融業界の規制撤廃に動くとみているからです。そもそも、所得配分で格差を縮小させるような累進性の高い税制、大きな政府による手厚い福祉政策という民主党の政策は、高額所得層の共和党の主流派が合意できるものではありません。彼らからすれば、自分たちの払った税金が、医療や福祉を通して黒人やヒスパニックなどのマイノリティーに所得再分配されることは感情的にも思想的にも納得できないものだからです。トランプは結果的には、新しい労働者層からの支持と既存の共和党支持のエスタブリッシュメントの両方から支持を受けたことになります。政策的には、この矛盾をどう調整するのかが今後の政策運営の大きな着目点になります。

——低中所得層からのトランプ氏支持の構図を教えてください。

渡部 米国は全体では平均寿命は延びていますが、白人の寿命は縮まっています。製造業が廃れた中西部の田舎町で、薬物やアルコールに溺れている人々が増えていることをこの地域に住む米国人なら知っています。忘れられた存在である白人労働者層にとってトランプは「少なくとも我々の存在を忘れていない」候補と映りました。この機会を逃せば自分たちの声を挙げる機会がなくなると考えて投票したのでしょう。

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