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「財政規律」無視した長期国債〝爆買い〟の果ての破局

「財政規律」無視した長期国債〝爆買い〟の果ての破局
財政ファイナンスと公的資金による「株価操作」が常態化

日銀は9月17日に開いた金融政策決定会合で、前安倍政権からの異次元金融緩和策の維持を決定した。具体的には、短期金利をマイナス0・1%とし、国債を無制限に買い入れて長期金利を0%程度に誘導する金利操作を続行。批判の多いETF(上場投資信託)購入についても、年間12兆円の購入枠を引き続き維持するという。

 2013年4月から始まった異次元金融緩和策は、菅義偉新政権になっても継承されるようだが、いくらコロナ禍で国家財政が悪化しているとはいえ、一時議論のテーマになった「出口戦略」が言論空間で見当たらないのは、正常な事なのか。

 そもそも、日銀総裁の黒田東彦が就任直後の金融政策決定会合で異次元金融緩和策を始めた名分は、デフレ脱却を目指した「2年以内の2%の物価目標」達成であったはずだ。しかし当の日銀は、4月27日の金融政策決定会合で、「2022年度の物価上昇率が前年度比1%以下にとどまり、2%の目標に届かない」という予測を示している。

政策を変えようにも変えられない

 2年どころか10年やっても成功しないのであれば、通常なら目標とそのための手段を再検討するのが常識のはず。ところが黒田は、未だ2%の物価目標について新政権誕生後も「変更の必要は全く考えていない」と公言している。既に日銀は4月の金融政策決定会合で、「追加緩和策の柱の1つ」と称し、長期国債の保有残高の増加額の「年間80兆円をめど」という水準を取り払い、際限なく買い入れる事を決定した。そうなると、いつになったら達成出来るか全く不明な「2%の物価目標」のため、財政規律など無視して長期国債の爆買いを「出口」も見えないまま続ける事になるが、こんな政策が現実に通用するのか。

 無論、異次元金融緩和策は「2年以内の2%の物価目標」だけが名分ではなかった。「リフレ派」が宣伝したように日銀が金融市場から国債を大規模に購入し、それによって大量の資金を民間金融機関に流して緩やかな物価上昇を継続させれば経済の好循環が実現するはずだったが、これも結局は失敗した。

 安倍政権下では、日本経済の平均国内総生産(GDP)の成長率は実質でわずか0・9%。先進諸国では断トツの低さで、安倍が目標とした2%の半分にすら達しなかった。である以上、なおさら異次元金融緩和策の見直し時期のはずだが、菅も黒田もその気配はさらさらなさそうだ。コロナ禍の行方が不透明という事情があっても、まともな経済アナリストなら、今まで通りの金融政策を今後も続けた先に、日本経済の浮上が待ち受けているとは誰も想像していないはずだ。

 それどころか、未知の収拾困難な危機の到来すら予測する声が既に出始めている中、なぜ「前例踏襲主義」がまかり通るのか。おそらく、もう政策を変えようにも変えられないからなのだろう。

 既に日銀は、20年第2四半期(暫定値)で約478兆円の国債(長期)を保有し、総資産額は約649兆円でGDPすらもはるかに上回るという異常事態になっている。異次元金融緩和策がスタートした時点で約164兆円ほどであったのを考えると、いかに急速に増大したのが分かる。要するに安倍の野放図な財政支出のため、コロナ対策が本格化していない19年12月末段階で、前政権発足直後から約100兆円も膨らんだ約1110兆円の「国の借金」(国債と借入金等の残高合計)を、これで穴埋めした形だ。

 財政規律を破壊してハイパーインフレの原因となるため、本来は「禁じ手」である、政府の財政支出拡大を支えて中央銀行が国債を無制限に買い入れる「財政ファイナンス」そのものだ。異次元金融緩和策の本質は、ここにある。

 そもそも財政法第5条で、赤字国債は発行出来ない。だが、政府は1年限りの特例法である「特例公債法案」を毎年成立させる事で、それを可能にしてきた。更に安倍は16年3月、5年間も国会審議を経ずに赤字国債を発行出来る「改正特例公債法」を成立させてしまう。これによって、更に日銀の「財政ファイナンス」策に拍車がかかったのは疑いない。

 だが、当然ながら日銀のバランスシートが悪化の一途をたどるのは避けられないため、いつまでもこんな事を続けられるはずがない。だが、もし中止になったらどうなるか。日銀が異次元金融緩和策で国債の年間発行額の4割超も購入(15年、16年)しているようでは、直ちに長期国債価格の暴落と長期金利の急騰がもたらされる。日本株も円も、急落するしかない。

 しかも財務省の16年の試算だと、1%金利が上昇しただけで国債の価値が67兆円毀損し、日銀は24兆円の損失となって債務超過の危険性すらある。更に17年の試算だと、国債利払い費を含む国債費は1%の金利上昇で3・6兆円、2%だと7・3兆円の増大となる。借金に依存出来なくなり、そのうち予算も組めずに財政危機に陥るのは必至だ。

 「出口」どころではなく、どのような破局的事態が予測されようが、現在の例のない低金利維持のため異次元金融緩和策を続けるしかない。破綻は不可避と知りながら、止められなくなるネズミ講と同じ構造だ。

 異次元金融緩和策を転換出来なくなっている理由は、まだある。安倍は同策の一環として人気取りのために「株価高」を演出しようと、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオを14年10月に変えさせ、国内株を12%から25%に、外国株式も12%から25%に引き上げて運用させた。

株式市場は官製相場に変質した

 また、黒田も14年から日銀のETFの爆買いを開始。16年7月29日の金融政策決定会合で、年間買い入れ上限を倍額の6兆円にする事を決定し、更に現在は、12兆円にまで拡大させた。

 その結果、主要には2つの公的マネーが市場に流入し、株式時価総額に占める比率は異次元金融緩和策開始前の5%から12%にまで拡大。日経平均は安倍前政権下で約3倍となったが、市場は実体経済を反映しない官製相場に変質し、株価が下落すると政権批判のみならず年金基金と日銀の自己資本損失に直結するため、そのたびに株価つり上げで買い入れするのが避けられなくなっている。かといってこの2つの公的マネーによる株価維持策が終わったら、株価暴落が避けがたい。ここでも、止めたくとも止められないのだ。

 「財政ファイナンス」と公的資金による株価操作が常態化してしまったこの国は、麻薬を止められない麻薬患者の姿にも似てきた。それでもいかに「副作用」が激烈でも実体経済を蘇生させるため、安倍が残した最悪の遺産である異次元金融緩和策を転換させる意欲も能力も菅には皆無だ。我々はこのまま、座して「日銀バブル」の破綻を待つしかないのか。(敬称略)

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