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第146回 菅政権2021、解散戦略と牛の我慢

第146回 菅政権2021、解散戦略と牛の我慢

 2021年の干支は辛丑(かのと、うし)。易学では、黙々と作業をこなす牛になぞらえ、「我慢する事で、発展の芽が出る年」との位置付けのようだ。新型コロナウイスルの克服が最大の課題だが、政界の関心はやはり衆院解散の時期だ。通常国会の召集が1月18日にずれ込み、冒頭解散は消えたものの解散気配が濃い年明けとなった。解散の時期は自民党総裁選にも大きく影響する。菅義偉首相にとっては乾坤一擲の勝負所となる。 

 高支持率でスタートした菅政権だが、日本学術会議の任命拒否問題を巡る臨時国会でのもそもそした答弁のせいで、その後の評判は芳しくない。

〝牛の反芻答弁〟でイメージ劣化

 「野党から『牛の反芻(はんすう)みたいな答弁』と言われる。言うに言われぬ事情もあるのだろうが、同じ事をもそもそと自信なさげに繰り返した感は否めない」

 国会対策を担当する自民党中堅は、防戦一方になった昨年の臨時国会をそのように振り返った。「答弁は差し控える」と繰り返し、歯切れの悪い菅首相の答弁力には与党内からも懸念の声が上がっている。

 「本当は失敗したという後悔があるのかもしれないが、白紙に戻せば政権のメンツが丸つぶれだから、やり直しは出来ない。踏み込んだ答弁をすれば、野党にそれを突きまくられるから、内情を明かすわけにもいかない。この状態が続けば、悪いイメージが出来てしまう」

 自民党中堅は「現状のままでは通常国会の長丁場を乗り切るのはきつい。局面を変える手立てが必要だ」と正直に話す。通常国会の冒頭解散等、年初解散説の流布にはこうした与党内の空気が反映されている。

 与野党にインパクトを与えたのは二階俊博幹事長の発言だった。BSのテレビ番組で「通常国会での冒頭解散はないか」と問われ、「そうは一概には言えない。事態を見ながら菅首相が毎日考える」と応えたのだ。二階幹事長は2021年7月23日開幕予定の東京五輪前の解散もあり得るとの見方も示したが、「五輪前はカムフラージュ。年初の解散が本命」との観測が広がった。

 菅政権発足後、解散時期については、まず、20年秋の臨時国会中の「年内解散」が取り沙汰されたが、コロナ禍を踏まえ、すぐに尻すぼみになった。次いで出てきたのが、デジタル庁設置、携帯電話料金の値下げ等の目玉政策の実現を優先する「解散消極論」だった。実績を国民に示した上で、総裁選を勝利し、その勢いで任期満了を迎えるか、任期満了間際に解散を打つという「我慢の戦略」である。

 「仕事本位」の菅政権らしい戦略だとの評価もあったが、「反芻答弁」で状況が変わった。そこで、出てきたのが年初解散説だ。年初解散には、2案が浮上した。1つは21年1月4日国会召集での冒頭解散だ。選挙後の2月上旬に特別国会を召集して、来年度予算案等を年度内に成立させるプランだった。

 ただ、新型コロナの感染拡大を防ぐため、政府は正月休みを1月11日まで延ばす「仕事始めの分散化」を産業界等に呼び掛けている。「言っている事とやっている事が違うと反発を買う恐れがある」(自民党若手)等の理由で沙汰止みとなった。

 もう1つは、1月中旬に通常国会を召集し、1週間程度で素早く補正予算を仕上げた上で、衆院解散に持ち込むというものだ。新型コロナ対策や目玉政策の裏付けとなる大型補正予算を掲げて衆院選に臨むというものだ。来年度予算の成立は来年度にずれ込むが、「補正予算が十分な繋ぎになり、国民生活への影響はない」(自民党中堅)として党内に支持がある。

ライバル不在で自ずと総裁再選?

 政界には安倍晋三前首相が親しい議員らに「俺だったら、冒頭解散だけどね」と軽口を叩いたとの情報も駆け巡ったが、コロナ禍での衆院選には反対論もある。

 「年初解散は局面を変え、菅首相の求心力を取り戻すための戦術的な意味合いが濃いのではないか。ワクチン開発に目処が立ったとの報道もあるが、換気が不十分になる冬場のリスクが解消されていない以上、衆院選は避けるべきだ」という公明党幹部の意見はその典型だろう。冒頭解散をにおわせた二階幹事長にしても、周辺には「菅首相は目玉政策を実現した上での総裁再選、解散総選挙を描いているようだ」とも語っている。

 「新型コロナの感染状況と、目玉政策の実現状況。2つの状況をにらみながら頭の体操をしているという事だろう。二階さんの『菅首相が毎日考える』は名言だな」

 自民党長老は野党がもたついている年初解散なら確実に勝てるとの見立てを示しながら、こう付け加えた。「いずれにしても衆院議員の任期は10月までだ。菅さんは個別具体的な政策目標を掲げたのだから、見える形で実績が上がらなければ総裁再選への道筋は暗くなる。それなら、早い解散・総選挙で勝って、本格政権を取りに行くのがいい。政策実現に目処が付いているのなら、解散時期は遅らせてもいい。その兼ね合いだろう」。

 自民党長老の発言は、次期衆院選での勝利を前提にしているが、臨時国会終盤に来て、新たな不安要因が持ち上がった。安倍前首相の後援会が主催した「桜を見る会」の前夜祭の費用負担について、東京地検特捜部が政治資金規正法違反の疑いで秘書等から事情聴取している事が発覚したのだ。

安倍前首相は秘書から事実を伝えられていなかったと弁明しているが、野党は攻勢を強めている。「秘書個人の責任だ。金額も少ないし、不起訴じゃないか」(自民党幹部)との楽観論もあるが、選挙地盤の弱い若手からは「新型コロナで国民が困っている時期に不明朗なカネの問題は痛い」との声も上がっている。

 検察・警察情報に強い菅首相には従前から織り込み済みだろうが、就任直後に語った「安倍政治の継承」はまだ、国民の耳に残っている。安倍前首相周辺のスキャンダルの影響は無視出来そうにない。幸いなのは、秋の自民党総裁選に「再々登板」を目指す安倍前首相が出てくる可能性が薄れた事だ。総裁選で戦った石破茂元幹事長は派閥会長を退き、岸田文雄前政調会長も基盤固めの域を出ていない。

 次期リーダーと目される河野太郎防衛相、小泉進次郎環境相らは既に手の内にある。「真面目に仕事をし、大過なくやり切れば本格政権は自ずと手に入る」。菅首相周辺が思い描くのは黙々と仕事をする「牛の戦術」のようだ。

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