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未来の会

日本発グローバル医療の突破口を開く~高度先進医療で世界と地域のニーズに対応~

日本発グローバル医療の突破口を開く~高度先進医療で世界と地域のニーズに対応~
宮崎 勝(みやざき・まさる)1950年千葉県市川市生まれ。75年千葉大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院第一外科、松戸市立病院、八日市場市立病院、カナダ・トロント大学医学部等を経て、99年千葉大学医学部外科学第一講座講師。2001年千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学教授。06年千葉大学医学部附属病院副病院長、07年同手術部長(兼任)。11年同病院長、国立大学法人千葉大学副学長。16年国際医療福祉大学教授、副学長、同三田病院病院長。20年国際医療福祉大学成田病院病院長。第23回手術手技研究会奨励研究賞、日本消化器外科学会賞(手術部門)受賞。千葉大学名誉教授、日本肝胆膵外科学会元理事長・名誉理事長、第112回日本外科学会会頭 、第49回日本胆道学会会長。American Surgical Association(ASA)名誉会員。European Surgical Association(ESA)名誉会員。International Surgical Group(ISG)名誉会員。

アジアを代表する国際的なハブ病院を目指し、2020年3月、成田国際空港の西約3kmの地に開院した国際医療福祉大学成田病院。世界標準の医療に対応した設備と人材を備え、コロナ禍によって海外との往来が制限される逆境の中にも、先進の医療体制を生かして地域のコロナ対応に貢献した同病院は、現在どの様な考えの下に未来を展望しているのか。国際医療福祉大学の副学長でもある宮崎勝病院長に伺った。


——成田病院は、2017年4月の医学部開設から3年後の開院でした。

宮崎 「国際的な医療人材の育成」をミッションとする本学医学部は、国家戦略特区における規制緩和により設立認可を受け、国内では38年振りの新設医学部として成田キャンパスに誕生しました。キャンパス内には世界最大級のシミュレーションセンターを始め最新の施設・設備を設け、グローバルスタンダードの医療を修得出来るカリキュラム編成に加え、1学年20人の留学生を受け入れ、大半の授業を英語で行う等、国際的に活躍出来る医療人を育成しています。当院は、その医学部の附属病院として、グローバル医療の実践と教育の場として開院しました。

——開院に当たっては、日本の病院に無かった新機軸を打ち出されました。

宮崎 当院の最大の特長は「グローバルスタンダードの医療を提供する」事です。国内の一般の病院は、日本の医療ガイドラインの範囲内で医療を提供して来ましたが、当院はアジア、アメリカ、ヨーロッパ等各国の医療水準とガイドラインを踏まえ、国内の患者様はもとより、海外の患者様が現地から来院されその間ストレス無く滞在し、治療に満足して頂ける様な高水準の医療サービスを目標としています。成田国際空港から約15分で来院出来る立地は、海外との往来にとって大きなアドバンテージになっています。

——環境の整備にも力を入れておられます。

宮崎 当院は、成田キャンパスから東約5km、成田国際空港の直ぐ西側に建設されました。約15万㎡の敷地に病院棟、健診棟、教育研修棟があり、総病床数は642床。大学病院として約40の診療科を揃え、世界最高水準のゲノム解析を駆使する「遺伝子診断センター」、海外の医療機関等と結んだ「国際遠隔診断センター」、感染症の水際対策に対応する「国際臨床感染症センター」、先進的な診断・治療を行う「がん放射線治療センター」、1日最大200人の人間ドックを受け入れる「予防医学センター」とプール・ジム・サウナ・大浴場を完備した「健康増進センター」等、様々な医療ニーズに対応出来る環境とスタッフを集めました。また、海外からの患者様が気持ち良く快適にお過ごし頂けるよう言語別の国際ラウンジも設置しています。グローバルスタンダードの医療を実践する病院として、1つのモデルを示したいという狙いが有りました。

——開院直前に、コロナウイルスの脅威が押し寄せました。

宮崎 年明けしばらくして国内で感染者が発見された段階で、世の中の雰囲気ががらりと変わりましたね。当初のスケジュールでは、20年4月に開院して一般外来、5月連休明けに入院診療をスタートする予定だったのですが、感染者数が増加し医療逼迫の可能性が心配される中、大学病院としての社会的使命を果たすべきと、コロナ専用病棟の開設と共に、約1カ月前倒しして開院しました。その後は予定通り、4月に外来、5月に入院をスタートし、コロナにも対応しながら現在に至っています。こうした開院の経緯もあり、地域の方々の中には未だに「コロナ専門病院」というイメージをお持ちの方もおられるかもしれません。

もう1つのミッションとして地域医療に注力する

——新型コロナウイルス感染症の発生に伴う混乱は?

宮崎 開院直後に直ぐコロナの患者様が押し寄せることはありませんでしたが徐々に増え始め、対応病床の増床と共に重症患者の受け入れも開始しました。一方で、人間ドックに関しては中国やベトナム等アジアの利用者層に向けた広報も既に展開されており、予約獲得に期待していましたので、入出国制限によりゼロになってしまったのは痛かったですね。又、海外から来られる方に対応するため、通訳をはじめとするアテンドスタッフを揃えていたのですが、その活躍の場も無くなってしまいました。

——インバウンド需要が当面見込めない状況に。

宮崎 はい。当院の最大の特長は「海外の患者様に選ばれるグローバル医療の提供と温かいサービス」ですが、一方で大学病院として地域医療への貢献は重要視していました。この千葉県成田市の地域医療を担うのは国との約束でもありました。千葉県は以前から人口当たりの医師数が少ないという問題を抱えています。それでも千葉市周辺や東葛地域等東京都内への通勤圏においては問題が少ない方で、成田市等それ以外の県域各地は、県境を接する茨城県南部も含め、長年に亘る医療過疎の状況にあります。総合的な医療を提供する新しい大学病院としてそれにどう対応していくかは大きな課題です。

——コロナ感染症対応で苦心した事は有りましたか。

宮崎 様々な試行錯誤をスタッフと共に重ねて来た結果、当院の場合はコロナ対応に関しては概ねスムーズに進行しており、防疫に関しても貢献出来ているのではと自負しています。日本の玄関口である成田国際空港の至近で感染症対応が重要な使命の1つになる事は、設計段階から認識していました。院内に「国際臨床感染症センター」を設置し、感染症対策における最新の知見を踏まえて病棟を設計、専門家を複数名招集する等、組織レベルで感染症に対する心構えを十分に持っていましたから、その意味では備えが出来ていました。

——ゼロからスタートした新しい病院の強みが発揮されたのですね。

宮崎 感染がここ迄長期化し広域に亘るとは予想していませんでした。当院の場合、稼働前で外来・病棟が空っぽだった為、ゾーニング等の感染防止対策を専門家の指導通りスムーズに実行出来たのは幸いでした。病院として一度動き出し、人の流れの形が出来た後だったら、例え建物が新しかったとしても、こうは上手く行かなかったでしょう。

アジア広域に広がるグローバル医療

——医学部におけるグローバル医療人材育成の取り組みは進んでいますか。

宮崎 コロナ禍で、多くの取り組みが停滞を余儀無くされている現状では有りますが、17年にスタートした医学部の学びは着々と進行しています。国際的に活躍出来る医療人育成の核の1つである1学年20人の留学生枠においては、ベトナム、カンボジア、モンゴル、中国、韓国、インドネシア等の国々から、本学が学費や生活費等全額支給するフルスカラーシップの他、自費でやって来た留学生が、日本人学生と共に熱心に学んでいます。

——アジアの国々から多くの留学生が来ています。

宮崎 国境を越えたグローバル医療の展開を考えると、日本から距離の近いアジアの国々との往来が重要になるだろうと考えています。留学生達は、日本の医師免許を修得した後、帰国して将来的には母国の医療のリーダーとして活躍する事が期待されています。留学生以外の日本人学生達も、日本国内だけでなく海外の様々な医療現場で活躍出来る事を目標としており、本学の卒業生達が世界で活躍し国際的な繋がりを深めていく未来が楽しみです。その為にも、卒業生が誇りに思える様な学びを私達が提供して行く責任があります。

——アジアの中でも医療ツーリズムで実績を挙げているタイの留学生はいないのですか。

宮崎 本学では、日本で取得した医師免許が相手国でも資格として認められるという条件で各国の関係者と調整しているのですが、タイの場合、その基準が厳しいのです。長年、政府が医療ツーリズムを推進し、高度な医療サービスを実現して来た国だけに、自国制度に誇りを持つと共に、日本を競合相手として認識しているのでしょうか?私自身視察して実感しましたが、タイの高度医療のレベルは高く、他国からも厚い信頼を獲得して、アジアにおけるグローバル医療の拠点として機能しています。学ぶ所が多く有りますし、追随するだけなく、それを越える医療の形を生み出していかなければなりません。

——世界に向けて日本のグローバル医療をアピールしていく必要が有りますね。

宮崎 日本の高度な医療技術は、多くの領域において世界トップレベルです。例えば通訳を必要とする方が来院された場合、医療費に通訳料等のサービス費用を上乗せしますから高額にはなりますが、海外諸国での医療レベルと利用コストを考えれば、日本も十分世界と競争が可能なのです。ところが一方で、様々な障壁があって、タイの様に動く事が出来ないのがこれまでの日本の現状です。 障壁が無くなれば、グローバル医療を実践してみたいと考える大学や医療機関はもっと沢山出てくるでしょう。国家戦略特区としての取り組みで設立認可を受けた本学の医学部には、障壁を突破してグローバル医療の成功事例を作っていく責務が有り、コロナ禍で国際的な往来が制限される中にあっても、終息後の展開に向け、目指す目標を見失わない事が大切だと思います。

成田病院が見据える未来医療のビジョン

——成田病院が考えている未来医療のビジョンは?

宮崎 アメリカ等の現状を踏まえて考えて行きますと、医療の高度化と並行して、日本全体の病床数は減って行くでしょう。1人1人の入院期間も短くなって行きます。診療において専門分化が進むと同時に、小規模病院が統合され大規模病院に生まれ変わる。効率化と集約化、更に省コストが進行する訳ですね。しかしこれは医療の提供が削減されたりクオリティが低下するという事ではありません。患者様にとって入院は、それ自体がストレスであり負担になります。医療のクオリティは十分に保ちつつ患者様の負担を減らして行くのがこれから私達の目指すべき方向でもあり、それを可能とするのが、当院が導入している先進医療技術の数々です。

——技術の力で病床と入院期間を減らす?

宮崎 例えば重症の患者様のケアを考えてみましょう。これ迄ですと、一定数の医師なり看護師なりが危急時に備えて直ぐ側にいなければなりませんでした。ここで患者様1人1人に適切な遠隔でのモニタリングを行い、そのデータを集中管理するシステムを導入すれば、スタッフの労力を減らしつつより正確なケアが可能になります。又、一定の回復段階に達した患者様に装着型のモニタリング機器を身に付けて頂ければ、長期に病院内に留まっている必要は無くなり、退院が早まります。医師側も、削減された労力をより必要度の高いケアに向ける事が出来ます。

——「国際遠隔診断センター」もそうした先進的な試みの一例ですね。

宮崎 「国際遠隔診断センター」は、2018年に本学がベトナム国立病院との共同事業で開設した「ドック健診センター」等本学の海外拠点や海外の大学・医療機関と専用回線で結ばれており、 放射線画像や病理画像等を受け取って、遠隔で診断・判定する事で現地の診断をサポートしています。遠隔診断のクオリティは、デジタル画像技術の発達、国際ネットワークにおける回線速度の安定に伴って年々向上しており、患部に対する視覚的判断が重要な皮膚科等の領域では、臨床診断における活用例も増えています。

——その他にもAIやロボット等、数多くの最新医療を手掛けておられます。

宮崎 遠隔医療、又AIやロボットといった技術は、これらを組み合わせた応用例も含め、これから4、5年の間に更に伸びると考えています。一方、技術的課題も有って、ロボットにせよAIにせよ、現時点では完全にオートマティックという段階には達していません。特に外科分野は、進行状況に応じて医師によるバックアップが必要です。癌治療等においては、当初切除は困難と判断し薬物や放射線による治療を行った後に病巣の縮小が確認され、切除に切り替えるコンバージョン治療のケースが有ります。こうした治療手段切り替えの判断は、やはり専門的な医師が状況に応じた対応をして手術を行わなければなりません。そういった課題解決の努力は、これからますます必要となります。

世界からも地域からも信頼される病院に

——病院長として、今後の課題は?

宮崎 当院のこれからの課題としては、ここ迄お話したグローバル医療、地域医療、先進医療技術への対応に加え、当院スタッフ間のチームとしての対応力をより高めて行く事が必要だと考えています。当院は小さな病院が成長して大きくなったのではなく、最初から大規模病院として開院しました。医師や看護師をはじめスタッフは高いスキルを持った人材が集結しましたが、既に出来上がっている既存のチームを丸ごと連れて来たと言う訳ではありませんでした。その為、開院以来、特にコロナ重症対応等をはじめとする局面において、チームワークは形成途上、これからだなと感じています。コロナ禍で人手が不足し、看護師の離職等の対応にも苦心しています。病院長の立場で現在考えているのは、どの様に職場に対する愛着心を高め、医療スタッフとしてのチームワークを高めて行くか、です。組織的な対応力を一層高めて行く事によって、個々のスタッフが持つ高いスキルも生かされ、将来的に国内外の患者様に満足して頂ける国際的なハブ病院になると考えています。

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