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実質賃金伸び率が6年平均「マイナス」の事態も

実質賃金伸び率が6年平均「マイナス」の事態も
経済の実態を分析し直し、政策に反映させるべき

ロイター通信の2月1日付配信記事によると、不適切調査で大問題になっている厚生労働省の毎月勤労統計に関して、同社の試算では2018年の1月から11月までの実質賃金の水準(定例給与)が、前年比でマイナス0・4%になったという。

 これは、「適切処理して再集計したデータを基に」試算した結果で、厚労省が「昨年までの不適切調査で公表してきた同マイナス0・1%から減少幅が拡大している」という。

 既に厚労省自身も「18年1〜11月の実質賃金伸び率平均は公表値でマイナス0・05%となるが、参考値ではマイナス0・53%と大きかった」(『東京新聞』1月31日付)との野党側の試算について、「同じような数字が出ると予想される」(屋敷次郎・大臣官房参事官)と発言。マイナス0・4%とマイナス0・53%では若干隔たりがあるが、いずれにせよ厚労省が発表したマイナス0・1%という数値が全く現実を反映しない虚構のものであったという事実は動かせない。

「賃金伸び21年ぶり高水準」は誤報に

 昨年9月7日に告示された自民党の総裁選挙の1カ月前、『日本経済新聞』は「賃金伸び21年ぶり高水準」という見出しで、「厚生労働省が7日発表した6月の名目賃金は前年度月を3・6%上回った。基本給などが増え、21年5カ月ぶりの伸びとなった」などと景気よく報じた。結局、今になって「3・6%」は実質2・8%であったことが判明し、物価上昇率を差し引いた実質賃金は0・6%程度であったことが判明している。「21年5カ月ぶりの伸び」などというのは、誤報だったのだ。

 『日経』を始め、「アベノミクスの成果」などと報じた各紙が、昨年の6月という時期に突如「21年5カ月ぶりの伸び」が起こり得るのかどうか疑った形跡は乏しい。だが、誰が考えても、安倍晋三の党総裁3選狙いという思惑と無縁ではないに違いない。そこで「アベノミクスの成果」らしきことを誇らないでいいはずはないからだ。実際、安倍は総裁選のさなかに「大企業においては5年連続、過去最高の賃上げが続いておりますし、中小企業においても過去20年で最高となっています」などというアピールを、何度か繰り返している。

 しかし、厚労省の怪しげなデータではなく、「適切処理して再集計した」それは雄弁に現実を語っていた。18年度の実質賃金は前年度比でマイナスになっているのは確実で、「アベノミクスの成果」どころか、安倍が国民の生活を破壊し続けているという現実だ。

 そもそも、総務省統計局のデータでも、実質賃金については12年度を100とした場合、5年後の17年になってもわずか0・15ポイントしか上昇していない。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済研究部経済調査室長の試算では、12年度から6年間で、実質賃金の伸び率は平均でマイナス0・6%になっている。プラスにすらなってないのだ。

 データの改竄が問題となった18年に限らず、第2次安倍政権が日本経済に与えたものは、国民生活の窮乏化以外の何物でもない。だがこの国の最大の悲劇は、幼少の頃から既に虚言癖が際立っていたという親の七光りだけで政治家になっただけの男によって、経済統計という国家の政策判断に不可欠なある種の公共財が、台無しにされたということではないだろう。この間、何の恩恵もないままひたすら実質賃金を減らされ続けているはずの当事者達が、さしたる憤慨も示していない風であることにこそ見出せるのではないか。

 安倍はまたしても、1月28日の衆議院本会議での施政方針演説で、「5年連続で今世紀最高水準の賃上げが行われた」などと放言した。これというのも、かくも際限なく、かつ並外れて事実無根な内容を口走っても、さほど安倍の「支持率」には響かないという近年顕著な風潮があるからに違いない。

 確かに経団連の18年の春季労使交渉の最終集計結果だけ見れば、一部の大企業については「定期昇給とベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は2・53%で、1998年以来20年ぶりの高水準となった」(『日経』18年7月10日付)のは、事実だろう。

 しかしながら、日本の勤労者全体に占める大企業の比率は約3割にすぎない。そんな一部の数字だけ根拠にした「水準」をひけらかすより、「6年間で、実質賃金の伸び率は平均でマイナス0・6%」という現実こそ、当面の経済政策を考察するための前提とされるべきではないのか。

 周知のように昨年も、政府統計の名目GDP(国内総生産)の算出における恣意的な数字の操作が指摘された。16年に政府は算出方法を変え、何とそれまで採用していなかった「研究開発投資」の項目を追加。さらに建設投資の金額を推計するために使っていたデータを入れ替えるなどして、15年度の名目GDPは約32兆円もかさ上げされ、532兆円を上回る結果に。

 にもかかわらず安倍は、この1月にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、「私が総理在任中の6年間に、日本のGDPは10・9%伸びた」などと吹聴している。万事この調子だ。しかもあろうことか、「日本の現状を映す統計を巡り、内閣府と日銀が綱引きしている。国内総生産(GDP)など基幹統計の信頼性に日銀が不信を募らせ、独自に算出しようと元データの提供を迫っている」(『日経』18年11月13日付)という。ここまで来ると、世界に恥をさらしているに等しい。

 これに対し、なぜか「内閣府は業務負担などを理由に一部拒否している」(同)というが、このままでは「532兆円」という数字の信憑性も、厚労省の毎月勤労統計と同様に風前の灯火になりかねない。無論、安倍が15年に「新3本の矢」と称して打ち上げた「名目GDPを600兆円にする」という「アベノミクス」の将来も、同様だろう。

消費税率引き上げ見直しの検討も

 いずれにせよ、問題は政府発表の統計が信用できないという安倍政権の失態それ自体に留まらない。新たな数値が判明した以上、日本経済の実態を分析し直し、経済政策に反映させなければ意味がないはずだ。具体的には、今年10月に実施予定の消費税率8%から10%への増税の見直しに他ならない。

 安倍は増税にあたり、「あらゆる施策を総動員し、経済に影響を及ぼさないようにする」などと表明している。だが、どんな「施策」が講じられようが、この6年間で実質賃金の伸び率がマイナス0・6%という国民の窮乏化が進む経済実態で、まともに考えたら消費税の増税という選択肢などあるはずがない。国内消費の低迷をさらに悪化させ、デフレ克服も本格的な景気回復も絶望的になるのは明らかだ。それでも安倍は「今世紀最高水準」といった虚言を止めもせず、日本経済を自分の失政の巻き添えにするつもりなのか。(敬称略)

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