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「2025年以降のビジョン」が見えない医療・介護政策

「2025年以降のビジョン」が見えない医療・介護政策

う改駆け引々と縮小
後ベビーブームの「団塊の世代」全員が75歳以上となる2025年まで、10年を切った。にもかかわらず、政府は未だ社会保障の将来像を示していない。そうした国のあいまいな姿勢が、医療・介護に対する国民の不安感を増幅している。

 人生100年時代の社会保障へ

──。2016年10月、自民党の小泉進次郎・衆議院議員ら若手議員中心の「2020年以降の経済財政構想小委員会」は、将来の社会保障に関する提言をまとめた。▽うがい薬や湿布薬を医療保険の対象から外し、軽微なリスクは自助で対応する▽健康管理が出来ている人の医療費の自己負担を減らす▽正社員、非正規雇用労働者がともに加入する「勤労者皆社会保険制度」の創設と解雇の規制緩和……。

 提言には、従来のばらまき路線を改め、自助を最大限に支援することを目指した政策が並ぶ。30歳代を中心とする約20人のメンバーが、「痛みを伴う改革から逃げてはいけない」と考え、中長期的な改革方針を投げ掛けた格好だ。

 16年11月1日、小泉氏は自民党が配信する動画の収録で「自助努力したことをどこで認めていくのか、発想を転換していく必要がある。小さなリスクは自己負担、大きなリスクは公的負担。賛否両論あると思うが、噛み付いてもらって議論が盛り上がっていけば」と語った。

「取りやすいところ」から取る

 ただ、政策実施に要する財源に触れていないこともあって、提言は自民党内ですら関心を呼んでいない。16年末の17年度政府予算の編成過程では、国民に負担増を求める制度改革案に対して自民党厚生族らが「馬鹿な見直しをするな」などと吠える、選挙を意識したいつもの光景が繰り返された。その揚げ句、中長期の視点を欠く政治的駆け引きにより、当初の痛みを伴う原案は次々と縮小された。

 例えば、患者の毎月の自己負担額に上限を設けた「高額療養費制度」。当初案は、住民税が課税される「一般所得者」の外来受診時の上限額(4万4400円)を2倍に引き上げるというものだったが、すったもんだの末、5万7600円に落ち着いた。

 介護保険では、所得の高い人の自己負担を3割へと引き上げ、給料の高い大企業に勤める人の保険料を増やす案を打ち出したものの、「取りやすいところから取る安易な案」との批判は絶えない。政府が掲げた理念「年齢を問わず、能力に応じて負担する仕組みへの改革」には程遠い。

 1947〜49年生まれの団塊の世代は、約700万人に及ぶ。全員が75歳以上の後期高齢者となる25年以降は、75歳以上が2200万人、4人に1人という超高齢化社会を迎える。2010年は現役5・8人で75歳以上1人を支えていたのが、25年には3・3人、60年には1・9人で1人を支えることになる。

 社会保障・税の一体改革時の推計によると、12年度と25年度の国内総生産(GDP)に占める給付費の推移を見た場合、年金は11・2%から9・9%に下がる。04年の年金改革で導入された、自動的に給付を抑制する仕組みが大きい。

 一方、医療は7・3%から8・9%へと増え、介護は1・8%から3・2%へと膨らむ。

 厚労省幹部は「年金は微修正でいい。社会保障の課題は医療と介護の見直しだ」と言う。

 長妻昭・民進党代表代行「(消費増税に関し)これだけの負担でこれだけの社会保障が出来る、どちらを選ぶか、という議論を始めてはどうか。2025年以降の社会保障の負担について、将来像を示す必要があるのではないか」

 安倍晋三首相「10%以上の引き上げに関し、そう簡単には国民的な了解を得ることが出来ない。同時に、消費税引き上げが経済に与えるインパクトも考える必要がある。まずは社会保障費についても聖域を設けることなく、効率化を図っていくことに重点を置くべきだろう」

 今年1月27日の衆院予算委員会。長妻氏が社会保障の将来像の提示を求めたのに対し、首相は「まずは効率化」との姿勢を崩さず、議論はかみ合わないままだった。

 将来像どころか、消費税率10%への引き上げ先送りによって、足元でも社会保障の充実に回す分が不足している。低所得者向けの介護保険料の軽減など、増税分で賄うはずだった政策は縮小されたり、先送りされたりした。

介護倒産急増で地域包括ケアが危機

 また、内閣府が先月公表した国の財政見通しによると、2020年度のプライマリーバランス(PB)の赤字額は8・3兆円と、16年7月の試算、5・5兆円から大きく膨らんだ。医療・介護の同時報酬改定となる18年度は、社会保障費の伸びを3年で1・5兆円に抑える政府目標の最終年度。財務省筋は「医療・介護報酬のマイナス改定で財源を出さざるを得ない」と指摘する。

 相次ぐ介護報酬の引き下げは、倒産する介護事業所の急増をも招いている。東京商工リサーチによると、16年の老人福祉・介護事業所の倒産件数は、00年の調査開始以来、これまで最多だった15年の76件から4割増の108件に増えた。中でも、小規模の訪問介護事業所の倒産が目立つ。

 さらに、医療ケアをあまり必要としない患者が退院をせず、医療費を圧迫する「社会的入院」が相変わらず指摘されている。厚労省はこうした人を介護施設や在宅の介護で支えていくことを大方針に据えている。医療と介護の連携強化を軸とした地域包括ケアシステムを推進し、介護が必要になっても地域で暮らしていける社会づくりを目指している。それでも、病院を退院した人の受け皿となる介護側の機能不全が続けば、同システムは崩壊に向かいかねない。

 膨らむ高齢者医療費への手当てもままならない。41・5兆円の15年度の国民医療費は、25年度に52・3兆円に達するとみられている。後期高齢者の医療費は、15年度時点で全体の36%だが、25年度には46%にまで膨らむ見通しだ。市町村の国民健康保険(国保)は14年度、967団体が赤字となった。前年度より62団体増え、全体の56・4%を占める。赤字額も104億円増の863億円だ。そのひん死の国保ですら、高齢者医療費に1・7兆円の支援金を支払う非合理な状況が続いている。

 16年4月、保険が利く治療と利かない治療を組み合わせた「混合診療」の規制を緩める形で、「患者申し出療養」がスタートした。混合診療の拡充に対しては、患者の保険外負担が一般化し、経済力のない人は必要な治療が受けられなくなるとの指摘がある。政府の規制改革会議などが導入を迫るのに対し、厚労省は長年、抵抗勢力となってきた。

 しかし、少しずつ空気は変わってきているようだ。厚労省幹部は「ざっくり言って、省内の半数程度は混合診療解禁や、軽い病気を保険の対象外とすることに抵抗感がない。これも時代の流れだろう」と話す。

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