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第37回「精神医療ダークサイド」最新事情 精神疾患のリカバリーとは何なのか?

第37回「精神医療ダークサイド」最新事情 精神疾患のリカバリーとは何なのか?
挑戦で起こる心の揺れは再発ではない

日常的に使われる言葉「リカバリー」の意味を辞書で調べると、「回復・復旧すること」「取り戻すこと」と書いてある。しかし、精神保健福祉分野でのリカバリーの意味はそれほど単純ではない。

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所のWebサイトは、リカバリーを「パーソナル・リカバリー」(当事者自身が決めた希望する人生の到達を目指すプロセス)、「臨床的リカバリー」(病気自体の改善を目指す)、「社会的リカバリー」(住居、就労、教育、社会ネットワークなどの機会の拡大)の三つに分類した上で、パーソナル・リカバリーについて「医療や福祉サービスから単純に卒業したという意味ではない」と指摘している。

パーソナル・リカバリーには、「他者とのつながり」「将来への希望と楽観」「アイデンティティ・自分らしさ」「生活の意義・人生の意味」などの要素があり、結果ではなくそこに行き着くための旅路(プロセス)が重視されている。だが、こうした理解が広がっているとはいえない。医療や福祉の関係者ですら、症状を可能な限り消して再発を防ぐことがリカバリーだと考えている人もいる。その結果、薬物療法や刺激の少ない環境に置くことのみを優先し、当事者が夢や希望に向かってチャレンジする機会を奪ってきた。

「リカバリーの概念が再発防止至上主義に変質している」。そうした声が一部で上がり始め、昨年発売された書籍『生きづらさをひも解く 私たちの精神疾患』(地域精神保健福祉機構)でも、当事者たちがそのような指摘をしている。

そこで昨年暮れ、筆者が関わる演劇学校OUTBACKアクターズスクールの第3回横浜公演で、2つのオリジナル作品の上演と共に、精神科医・大野裕さんの講演会を設けてリカバリーについての質疑を行った。認知行動療法の第一人者である大野さんは近年、長期入院患者らも対象とした「リカバリーを目指す認知行動療法」(CT−R)の普及に取り組んでいる。

この日、筆者は大野さんに次のような質問をした。「夢や希望を持ってチャレンジすると、ストレスで体調が一時的に悪くなるかもしれません。しかし、それを恐れるとリカバリーを実現できない。このジレンマをどう解消したらよいのでしょうか」。

大野さんはこう答えた。「うつ病を例に挙げると、再発すればするほど再発しやすくなります。ただし慎重になり過ぎると、かえってストレスになります。大事なのは、チャレンジの中で自然に起こる心の揺れと、再発とを区別して考えることです。心の揺れが起こっても、自分にとって大事なことはぜひ頑張って欲しいと思います」。

初の2日連続開催となった横浜公演は両日とも満員となり、大好評を得た。スクール生の輝きは年を追うごとに増している。本番が迫ると緊張のあまり眠れなかったり、不安に襲われたりしたスクール生もいた。やり切った後、しばらく寝込んだスクール生もいた。だが、彼らはまた笑顔で集まって来る。

一昨年、大きなプレッシャーを乗り越えて主役を見事に演じ切り、昨年も大活躍したえっちゃんは今、しみじみと語る。「私って幸せから程遠いと思っていたんですが、こんなに近くにあったんですね」。OUTBACKアクターズスクールのスクール生たちは、リカバリーの旅路を着実に歩んでいる。


ジャーナリスト:佐藤 光展

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