SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

構造的な課題を抱えるジェネリック品薄問題

構造的な課題を抱えるジェネリック品薄問題
一部企業の不祥事と済まされず業界も抜本対策に本腰

国が普及を進めて来たジェネリック医薬品(後発薬)の品薄状態が続いている。業界団体の調査によると、現在、品切れや出荷停止等となっている後発薬は約2500品目に上り、患者が飲み続けている薬を購入出来ないといった影響が出ている。国や後発薬メーカー等も対策に乗り出しているが、製薬業界の構造的な課題も有り、早期解決の道筋は見えていない。

現在も2500以上品目が品薄状態に

2022年6月19日付朝日新聞オンライン版によると、後発薬メーカー37社で作る日本ジェネリック製薬協会(JGA)の調べで、出荷が滞っている後発薬は2517品目(6月14日時点)。21年12月時点では、後発薬を中心に約3100品目が品薄だったと言い、事態は殆ど改善していない。

品不足の切っ掛けは、20年12月に小林化工(福井県あわら市)で発覚した睡眠導入剤混入事件だとされる。この事件では小林化工が製造販売する抗真菌剤「イトラコナゾール錠」に睡眠導入剤が混入し、そのまま全国39都道府県の医療機関や薬局に納入されてしまった。

その結果、ふらつきや眩暈、意識消失等の健康被害が約250件寄せられ、これに起因する交通事故や転倒事故も79件起きていた。又、服用した患者2人が死亡したが、厚生労働省は、因果関係が不明だとしている。小林化工は厚労省や県、PMDAによる立ち入り検査を受け、21年2月に116日の業務停止や業務改善命令等の処分を受けた。

一方で、20年2月の富山県とPMDAの無通告査察でGMP違反の疑いを指摘された日医工(富山市)も、21年3月に32日間の業務停止等の処分を受けた。その後も、長生堂製薬(徳島市)が自己点検の結果、不正を発見。徳島県に報告した後、31日間の業務停止等の処分を受けた他、22年3月には共和薬品工業(大阪市)も承認されていない添加剤を使用していたとして、大阪府から10日間の業務停止命令を受けるなど不祥事が続いた。

22年4月19日付日本経済新聞オンライン版によると、小林化工と大手の日医工が相次いで業務停止命令を受けて生産を止めた為、2社の製品が品不足となり、多くのメーカーは新規の受注を止める等して出荷を制限。一方で、医薬品卸業者や薬局は欠品を恐れて過剰に注文した為、更に品不足に拍車が掛かったという。

製薬業界も対策を講じていない訳ではなく、澤井製薬や東和薬品等は工場の生産設備の増強を図っているが、本格稼働は2年後の24年。品不足が解消される迄2年から3年かかるとされる。

「品不足は不祥事以前から」と製薬業界

この様に、メディアは一部の後発薬メーカーの不祥事が品不足の切っ掛けと報じているが、製薬業界の見方は少し異なる。22年8月にオンライン開催された「日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会」で、講演を行った三浦哲也・日本製薬団体連合会(日薬連)安定確保委員会委員は、講演要旨の中で医薬品の不足は「19年の注射用抗生物質セファゾリンの原薬由来による供給障害に端を発した」と指摘。その対応に追われる中で「一部製造業者の稚拙なガバナンスとコンプライアンス順守を軽視した企業風土を露呈」したという認識を示した。又、同学会に参加したの田中俊幸・JGA広報委員会委員長もコロナ禍によって「サプライチェーンの脆弱化が顕在化」した事を要因の1つに挙げた。

19年の事案とは、18年末頃から海外企業でセファゾリン原薬への異物混入や、セファゾリン原薬出発物質の製造停止等が相次いで起き、これらの企業から原薬等を輸入していた日医工が製造に支障を来したもので、19年2月に日医工が供給停止を発表する事態となった。

セファゾリンは外科手術の際の感染予防に広く使われている医薬品だった為、医療機関は在庫や代替薬の確保に追われ、他のメーカーも急遽増産態勢を迫られる事になった。こうして海外で起きた突発的な事案が、後発薬メーカーに無理を強い、更にコロナ禍も加わった結果、長年の業界の悪弊が最悪の形で噴出した。つまり、今回の後発薬不足は、決して偶発的な出来事では無く、構造的な問題によって起こるべくして起きたという事だろう。

又、後発薬メーカーは、近年続く薬価の引き下げが業績を圧迫しており、設備投資が進んでいないとし、製造態勢に余力が無いのも品不足に繋がったと訴えている。

一方、国は品薄と言われている医薬品の中にも、十分な供給量が確保されている物が有るとして21年12月、一部医薬品の出荷調整の解除を日薬連や日本医薬品卸売業連合会、日本ジェネリック医薬品販社協会に求めた。しかし、「出荷調整を解除すると、注文が殺到し対応出来ない」と及び腰の企業も多く、国の要請通りには進んでいない。

薬価引き下げで設備投資が困難との意見も

日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会では、三浦氏や田中氏に加え、岩月進・愛知県薬剤師会会長や千葉祐一・厚労省医療用物資等確保対策推進室長補佐らが参加してシンポジウムが開かれ、後発薬への信頼回復や品不足の解消に向けた対策等について意見を交換した。

岩月会長は、後発薬の仕入れの目途が付かず、代替薬や先発薬を確保する為に在庫が増大している等、現場への影響を報告。患者にも後発薬の品不足や、代替薬について説明する事が増え、薬剤師の負担も増大していると訴えた。

品不足への対応として、岩月会長は「地域医薬品提供計画」を策定し、地域内で供給出来る医薬品の量を把握し、緊急時には不足している医薬品を融通しあう態勢を検討する必要があるとした。大病院を含めた流通量の把握には難しい点も有るが、薬局だけに限定する形であれば「愛知県内でテストケースとしてやってみてもいい」との考えも示した。

一方、三浦氏は、19年7月から安定供給への懸念を察知して対策に着手して来たとし、その後、コロナ対応や一連の問題を受け、21年7月に態勢を強化する為に新設した「安定確保委員会」の取り組みを紹介。安定確保医薬品を中心に供給状況調査や医薬品関連物資の調達状況調査、自己点検チェックリストの見直し、業界関連団体等との情報共有といった対策を講じているとした。

田中氏も、「コンプライアンス・ガバナンス・リスクマネジメント」を強化する事で再発を防止する事が重要だとして、具体的な対策を講じて信頼回復に努めていると強調した。

対策は、品質を最優先する体制の強化や安定確保への取り組み、積極的な情報の提供と開示等5つの柱から成る。体制強化策として、協会内で統一した基準で製造販売承認書と製造実態の自主点検に着手し、外部機関による製造所の管理体制のチェック制度を導入した。安定供給の確保に向けては、各社の製品の供給状況を確認出来るサイトを22年9月に開設。供給状況を透明化する。

シンポジウムでは、製薬メーカー、薬剤師会の立場から薬価引き下げの方針の見直しを求める意見も出されたが、厚労省の千葉室長補佐は「今後、外部有識者による検討委員会を立ち上げる予定で、今回の問題も含め、医薬品産業を取り巻く現状と課題を議論して行く」と述べるに留まった。

今回のジェネリック医薬品の品不足問題では、不祥事の再発防止や増産体制の構築にばかり目が向き勝ちだが、原材料の供給網や医薬品の流通網、生産体制等にも課題が有り、製薬業界の構造的な課題を改めて浮き彫りにした。業界が求める薬価の引き上げを含め、国や製薬業界、医療関係者が医薬品の安定供給に関する建設的な議論を進めて行く事が必要だろう。

COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 2 )
  • Trackbacks ( 0 )
  1. いつもお世話になります。毎回楽しみに拝読させていただいています。

    失礼ながら身の記事のヘッダーと記事内容が合っていないのではないかと?

    「構造的な課題を抱えるジェネリック品薄問題」の内容が「宴会芸は過去のもの?」になっています。
    ご確認ください。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top