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日本農薬

日本農薬
製薬各社を水虫薬の回収に走らすも 原液の管理不備には口つぐむ

 「夏でなくて良かった」と胸をなでおろす製薬会社もある。ドラッグストアの棚から大量の水虫治療薬が消えたことにお気付きだろうか。金色の箱で最も目立つ第一三共ヘルスケアの「ピロエースZ」の液剤、軟膏、クリーム他を筆頭に、興和の「フットガンコーワ」、全薬工業とゼファーマのそれぞれ「ゼスパート」と「ウィンダム」が一斉に店頭から消えた。全て自主回収され、販売休止になった。

 第一三共ヘルスケアは「水虫治療薬『ピロエースZ』シリーズの主要成分として使われる原薬の製造業者に対して行われた医薬品医療機器総合機構(PMDA)によるGMP(製造管理及び品質管理の基準)適合性調査で、GMP管理上の不備が指摘された。不備の指摘は当社製品の原薬の製造について行われたものではないが、万全を期して本製品を自主回収する」旨をリリースし、自主回収は66万個に上ると発表した。

処方した医師、患者を無視した行為

 興和も全薬工業もほぼ同様の内容を発表。興和は回収数が54万個に達すると発表している。各製薬会社の発表では、この自主回収騒ぎの原因を作った原薬製造業者の社名に一言も触れていない。一瞬、この原薬製造業者とはどこかと、たびたびGMP管理上の問題を指摘されたインドの製薬会社や韓国の原薬メーカーを思い浮かべた人もいるだろうが、その正体はインドの製薬会社でもなければ、韓国の原薬メーカーでもない。東証一部に上場する日本の大手農薬メーカー、「日本農薬」である。

 自主回収騒ぎは一般用医薬品(OTC薬)だけではない。医療用水虫治療薬も同様だ。例えば、ポーラファルマは抗真菌剤「ルリコン」のクリーム、液剤、軟膏を同様の理由で自主回収すると発表した。即日、皮膚科の処方箋、調剤薬局の薬品棚から一斉に消えた。医療用製薬メーカーのマルホも同様だ。抗真菌剤「アスタット」のクリーム、外用液、軟膏の自主回収に追い込まれた。

 笑えるのは、自主回収を発表したマルホが、アスタットの代替品にポーラファルマのルリコン3剤を推奨したことだった。

 OTC薬の水虫治療薬に使われている主要成分とは「ラノコナゾール」で、そのラノコナゾールの構造に塩素が一つ付いている化学式を持つのが「ルリコナゾール」だ。ラノコナゾールは1994年に発売され、2006年にスイッチOTC(医療用医薬品を一般用医薬品に転換〈スイッチ〉したもの)化された。ルリコナゾールは05年に抗真菌剤として厚生労働省の承認を受けて医療用に発売された。

 どちらも日本農薬が農薬のイミダゾール系化合物の研究中に発見、創薬した成分だ。ラノコナゾールもルリコナゾールも光学活性を持つのが、それまでの抗真菌薬にない特長で、真菌の細胞膜であるエルゴステロールの合成を阻害するとともに、プロテアーゼ産生も阻害する効果を持つ。しかも、長時間、真菌にとどまることで1日1回塗ればよいという特長を持っている。

 爪白癬には効果の高い飲み薬が登場しているが、一般に水虫といわれる足白癬は皮膚真菌症の中でも最も患者数が多く、潜在患者を含めると、日本には約2500万人が罹患しているといわれている。それだけにラノコナゾール、ルリコナゾールの登場は、効果のある水虫薬とされ、販売も順調だった。日本農薬は医薬品部門を充実させ、国内だけでなく中国とインドには住商ファーマを経由して、北米、南米、ヨーロッパ、さらに韓国は現地の製薬メーカーに導出。農薬に並ぶ事業に育ててきた。

 だが、今回の騒動に対して日本農薬はニュースリリースも出さず、一切口をつぐんでいる。PMDAはGMP適合性調査の内容を公表しないため、単に決められた手順を踏んでいなかったのか、それとも工場内をハエが飛び交っていたようなものなのかは不明だ。

 一部でPMDAが指摘したGMP管理上の不備は「治癒可能な健康被害の原因」に相当するクラス2といわれている。3段階あるうちのクラス1は「重篤な健康被害」、クラス3は「健康被害はない」という内容だが、水虫治療薬で死亡が想定されるような重篤な健康被害は考えられない。といって、「健康被害はない」クラス3ではないのだから、大いに問題とされるべき管理不備というべきだろう。

 各製薬会社は自主回収について、ラノコナゾール、ルリコナゾール製造上の問題ではないという。納入された原薬の検査で、製品化されたときの検査に問題が出ないことを確認していると強調する。とすれば、農薬、植物動物の殺菌剤の製造過程での問題で、それが水虫治療剤に広がりかねないということになる。たとえ製品化の時点では問題ないとしても、日本農薬と製薬会社だけが知っていればいいことだ、という論理にはならない。処方した医師、患者を無視した行為である。

 しかも、日本農薬はラノコナゾール、ルリコナゾールを発見し、製造しているメーカーだ。上場企業として、また「品質の高い製品をお届けするのが私たちの責任」とうたう企業として、進んでGMP管理不備の内容を公表して改善に取り組むべきではなかろうか。

 逆に、同社がGMP不備を公表しないのは「医薬品をつくっているのが農薬メーカーだ」と世間に知られたくないからだろうと受け取られている。結果、「殺虫剤を作った機械や容器を洗浄しないで、医薬品をつくっていたのではないか」「日本農薬は稲のいもち病の殺菌薬と殺ダニ薬で有名だから、水虫薬に殺ダニ薬が混入していたのでは」、あるいは「動物薬も製造しているから牛や鶏の薬が混じっていたのではないか」などと無責任な話も取り沙汰されている。中には、製造現場では「いもち病の菌もダニも水虫と同じようなものだ。殺ダニ剤を混ぜた方が水虫に効果的」と考えていたのだろうと笑い話にしている。

研究は優れているが、経営がいまいち

 といって、日本農薬は決していいかげんな会社ではない。1928年(昭和3年)、日本最初の農薬専業メーカーとして誕生。終戦で海外資産を没収されたが、戦後もただ一筋に農薬の研究、製造に励んできた。

 特筆されるのは75年に発売し、今年発売40年を迎えた稲のいもち病防除殺菌剤「フジワン」だ。発売後、稲の生育促進効果があることも分かり、改良が加えられ、今日でも多く使われるロングセラー。発売翌年には大河内記念技術賞、さらに84年には紫綬褒章を受章した代表的な殺菌剤だ。同社製品では蝶類の幼虫に高い殺虫作用を持つリード化合物を発見し、応用した殺虫剤「フェニックス顆粒水和剤」も多量に利用されているが、それでも「日本農薬といえば、フジワン」というくらい知られている。無論、同社を支える大黒柱である。

 加えて、日本国内での食の変化、米生産量の減少を見越して海外に進出。中国、台湾、韓国、インド、タイ、ベトナム、マレーシアなどの東南アジアを皮切りに、北米、中南米、さらに英、仏、伊のヨーロッパなど、100カ国地域に進出しており、海外での農薬販売は国内の農薬販売額に迫るほどに成長している。

 だが昨今は、研究は優れているが、経営がいまいちだと評価を下げている。ある証券会社のアナリストが説明する。

 「日本農薬の15年9月期は610億円の売り上げで、営業利益は前年比2%増の96億円とされていたが、業績修正を発表した。それは減収、増益。売り上げはともかく、最終利益はインドにある子会社ののれん代償却で59億円の予想から57億円に下方修正。為替相場はかつての1㌦=80円台から120円台になり、輸出企業は為替だけで5割の利益が出る。当然、海外での売り上げが多い同社は大もうけしていいはずなのに利益が低すぎる」

 株価も年初の1400円から下がり続け、今や700円台。

 そんな折に、同社は16年度から18年度を対象にした「新中期経営計画」を策定した。中期経営計画は「世界でトップ10の事業規模(売り上げ2000億円超)を目指した」もので、「18年度の最終年度には売り上げ1000億円、海外売り上げを548億円にし、海外売り上げ比率を61%にする」と高らかにうたっている。

安全管理意識は三流であることを露呈

 だが、アナリストからは「水虫薬の自主回収で、もう売り上げに水を差されている。しかも、有機肥料偽装事件を起こした太平物産の大株主。イメージも地に落ちた。来期はさらに業績悪化が見込まれ、中期経営計画の達成は無理だろう」と不安視されている。

 加えて、農薬関係者からこんな声もある。

 「日本農薬は紫綬褒章に輝いたフジワンを筆頭に科学技術庁(現文部科学省)長官賞、大河内記念賞、日本農薬学会の学会賞、業績賞をいくつも受賞したように研究技術は高く評価されている。水虫治療薬もその一つ。だが、製造部門にはミスが目立つ」

 その例に挙げられるのが、03年に起こった農薬ラベルの誤表示事件だ。トマト、レタス、キュウリ、稲、タバコなどを対象とした殺菌剤の使用量増と散布回数減少の変更登録をしたが、ラベルには5%から変更後の10%に増量記載しながら、散布回数は変更前の多い回数のままにしていたことなどが見つかり、日本農薬やクミアイ化学工業、住友化学工業など農薬6社に回収命令が出た。

 当時、農薬工業会の多田正世会長(現大日本住友製薬社長)は「問題の基本は各社の安全管理意識が徹底していなかったことにある」と陳謝した。

 農薬誤表示事件では農薬工業会の副会長を務めていた日本農薬だけが、レタス殺菌剤で唯一誤表示していた。しかも、レタスの誤表示は最も誤表示期間が長かった。

 多田氏は今、水虫治療薬の回収をしている製薬会社の団体、日本製薬工業協会の会長だ。

 日本農薬はPMDAからGMP管理の不備を指摘されたが、それも安全管理意識の低さによるものだ。12年前と何も変わっていない。日本農薬は「研究一流、経営二流、安全管理三流」というしかない。

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