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未来の会

第108回「大山鳴動ネズミ一匹型選挙」の裏に潜むもの

第108回「大山鳴動ネズミ一匹型選挙」の裏に潜むもの

 降って湧いた神無月選挙は自民・公明両党の圧勝で幕を閉じた。元々、安倍晋三首相が勝ちを見込んで仕掛けた衆院選なのだから、想定内とも言えるのだが、民進党崩壊に伴う政治勢力のリシャッフルは今後の政治状況に少なからず影響を与えそうだ。希望の党の小池百合子代表を震源とした「大山鳴動ネズミ一匹型選挙」を振り返り、今後の政治動向を展望してみる。

 選挙戦中盤、報道各社の情勢調査が与党優位を盛んに伝えた頃だった。自民党幹部は遊説の合間、周囲にこんな話をした。

 「民進党分裂と新党結成がワイドショーの話題をさらい、当初言われた『解散の大義』や『森友・問題』の追求が緩くなった。希望の党の勢いが失速し、『絶望の党』と化したのは小池代表の『排除します』の失言。相手が勝手に転んだだけで、我々が攻め込んで勝機をつかんだのではない。与党は大勝ちするだろう。だが、今回の選挙の底流にあるものについては、よくよく分析しておかないといけない」

 自民党幹部はそう言って二つの見方を示した。一つは、1990年代からの2大政党化の潮流はとどまることなく政界の底を流れ、機会があれば表に噴き出すこと。もう一つは、憲法改正の是非を巡り、改憲勢力と護憲勢力の線引きがかつてないほどクリアになったことだ。

短期公演・小池劇場の支配人は小沢氏?

 「『幽霊の正体見たり枯れ尾花』だな。希望の党は民進党との関わりで語られることが多いが、俺は1人の男を見ていた。自由党の小沢一郎氏だよ。ミニ政党でのたれ死にかと思ったら、またもや、新しい乗り物を見つけた。自分は無所属になったが、子飼いの前議員は皆希望に潜り込ませた。小沢氏が棺桶から出て、活動を再開するのは確かだな。狙いはまたぞろ2大政党制だ」

 野党再編劇のたびに取りざたされる「小沢陰謀説」だが、今回は小池代表にてんびんにかけられ思うようにはいかなかったという。

 小沢氏の周辺が語る。

 「小沢さんは今年春頃から小池さんと連絡を密にし、東京都議選の頃からは、極秘で会談を重ねていた。ただ、小池さんは、非自民勢力をベースに首相の座を狙う戦略と、自民党との連携で首相の座を射止める戦略の二つを持っていた。前者では小沢さん、後者では自民党の二階俊博幹事長と連絡を取り合っていた」

 小沢氏は非自民勢力の結集の方が実現性は高いと小池氏を口説き、親交のある前原誠司氏が民進党代表に就任すると、前原氏に小池氏が旗揚げ予定の新党との合流話を持ち掛けたという。安倍首相の衆院解散表明があった9月末、3人は極秘の会談をもった。

 小沢氏は「小池さんが自ら立候補することが大事だ。もし出れば、自公を過半数割れに追い込むことも不可能じゃない。そこまで行かなくても、自民党単独で過半数を割るところまで行けば、自民党は大混乱に陥る。後はいかようにもなる」と出馬を促したという。

 小沢戦略の概要は以下のようなものだった。まず、希望の党が民進党を丸ごと抱え込み、野党候補を一本化して自民党を追い込む。自民党単独過半数割れを実現すれば、自公で何とか過半数を維持したとしても、ポスト安倍の動きが顕在化する。しかし、自民党内には、誰もが納得する首相候補がいない。そこで、地方で人気はあるが、党内では嫌われ者の石破茂元幹事長を誘い出し、自民党を分断する。石破氏もその側近、鴨下一郎・元環境相もかつて小沢氏が党首だった野党・新進党に所属し、小池氏とは旧知の間柄。小池内閣が誕生すれば、副総理で次期首相候補として迎えるというのが、そのプランだったとされる。

 結成当初、希望の党の支持率は2割近くに及び、小沢戦略は上々と見られた。そう「排除します」発言の前までは。しかし、この一言を境に党勢は一気に衰え、小池氏は出馬を思いとどまる。止めたのは小池氏とは因縁浅からぬ小泉純一郎・元首相だった。

圧勝・安倍政権を待ち構える国難とは

 こうして、与野党のビッグネームが関わった「小池劇場」は衆院解散から1週間足らずで終演。東京・永田町では10月10日の公示日から「もう選挙は終わった」との空気が漂い始めた。まさに「大山鳴動してネズミ一匹」なのだが、自民党幹部は劇場の余波を警戒している。

 「メディアが言うような3極にはならない。いわゆる1強体制は続くのだが、波乱の種がない訳ではない。国会では、小沢氏というプレーヤーがそれなりの舞台装置と共に再び登場してくるし、北朝鮮情勢だって、今後の展開次第では、波乱要因になり得る」

 安倍首相が衆院解散を「国難突破」と名付けたせいで、真実味が乏しく感じられるのだが、実は北朝鮮情勢はこの冬、緊迫の度合いが増すと政府・与党は見ている。外交関係者が明かす。

 「米国はこれまで、北朝鮮のICBM(大陸間弾道弾)の精度がかなり高いとみていた。そこで、核を認める代わりICBMを断念させる戦略を取ってきた。ところが最新の研究で、ICBMの完成度が低いことが判明し、戦略を見直している。未完なら、叩いてしまえということだ。ただ、ソウルが炎上する事態は避けたい。そこで、サイバー攻撃を軸に検討しているが、詳細は分からない。ともかく、一戦ありそうなのだ」

 サイバー攻撃であっても、北朝鮮の対応が電子戦になるとは限らない。通常兵器による戦乱も想定され、日本はかつてない対応を迫られる可能性があるという。「下手に対応すれば、政権は簡単に吹っ飛ぶ」(自民党国防族)という訳だ。

 自民党長老が気にしているのは、改憲・護憲両派が混在する民進党の制約から解放され、心身共にスッキリした立憲民主党の存在だという。

 「何だか全体に元気がみなぎっている。枝野幸男代表の演説は敵ながら切れ味があって小気味よい。人気が出るはずだ。問題なのは、自民党も民進党ほどではないが、改憲・護憲の両派を抱えていると言うことだ。北朝鮮情勢も含めて、何かの拍子で亀裂が生じれば、やっかいなことになる」

 自民党は経済重視・軽武装を指針とする護憲色の強い穏健派、党是の自主憲法制定をひたすら追い求める改憲派の複雑な集合体だ。経済重視では共通しているが、安保政策を巡っては決して一枚岩にはなっていない。長らく息を潜めてきた穏健派の自民党幹部はこんなことを漏らした。「小池さんのリベラル排除発言に心が痛んだ。いつまでもごりごりの改憲派ではいけない。本当のリベラルは自民党の中にいる」。

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