SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「安倍レガシー」にしがみ付く岸田首相の軽さ

「安倍レガシー」にしがみ付く岸田首相の軽さ

新年に待つのは「サミット解散」か「花道退陣」か

岸田文雄・首相の2002年は、安倍晋三・元首相のレガシー(政治遺産)にしがみ付くばかりで暮れる事になった。ロシアのウクライナ侵攻と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の問題では、プーチン露大統領に接近し、旧統一教会との癒着を主導した安倍元首相の負の遺産も背負わされたが、それも含め「岸田カラー」を打ち出せずに終わった苦い1年だった。

「反撃能力」「所得倍増」で見えた覚悟の欠如

 政府の新たな国家安全保障戦略に保有方針が盛り込まれた「反撃能力」は、安倍元首相が導入に意欲を示していた「敵基地攻撃能力」の名称を言い換えたもので、元々「安倍印」の政策課題だ。平和憲法の下、専守防衛を国是とする日本において、他国のミサイル発射基地等を攻撃する能力を保有する事は、歴代政権が政策判断として避けて来た経緯が有る。首相周辺は「安倍政権でも出来なかった事を成し遂げた」と胸を張るが、安倍元首相の敷いた路線を引き継いだに過ぎない。

 安倍元首相は20年9月、体調不良を理由に退陣する間際に「今年(20年)末迄に、あるべき方策を示し、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応して行く」との談話を発表した。敵基地攻撃能力の保有に直接言及しない形ではあったが「抑止力を高め、我が国への弾道ミサイル等による攻撃の可能性を一層低下させて行く事が必要」として後任の菅義偉・前首相に託した。

 菅政権は20年末の方針決定に至らず、そこで安倍元首相の不興を買った事が21年秋の「菅降ろし」の遠因になったとの見方も有る。菅前首相の後を襲った岸田首相は安倍元首相の支援を得るべく、反撃能力の導入に邁進して来た。22年7月の安倍元首相死去後もブレなかったのは、自民党最大派閥・安倍派を味方に付けておく必要が有ったという事も有ろうが、他に22年の成果として岸田政権が誇れる実績が見当たらない現状も背景に有るだろう。

 岸田首相は、就任当初から安倍レガシーにしがみ付く事ばかりを考えていた訳ではない。21年9月の自民党総裁選では「新しい資本主義」と「令和版所得倍増」を打ち上げた。競争原理重視の新自由主義が経済格差を拡大させたとの問題意識から「経済・財政の分配機能を強化し、所得を引き上げる」と主張した岸田首相に対しては、金融緩和と国債依存の弊害が顕在化していたアベノミクスのソフトランディング(軟着陸)を期待する声も有った。しかし、分配重視の具体策として金融所得課税の強化を目指した事が株価下落を招き、途端に腰砕けになった岸田首相の口から「分配」の言葉は消え、22年11月に政府として決定したのが「資産所得倍増」計画だ。

 分配強化による格差解消は諦め、貯蓄等から投資に回る個人資産を増やす事で経済成長に繋げようという計画は、株価至上主義のアベノミクス路線の継続に他ならない。異次元の金融緩和によって円の価値を引き下げ、大量の国債発行によって将来世代に負担をツケ回す事で見せ掛けの経済成長を演出して来たアベノミクスの限界と向き合うどころか、それにしがみ付く道を首相は選んだ。

 22年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻と、資源・食糧価格の高騰による世界的なインフレは日本の政治も揺さぶった。安倍政権時代の親プーチン路線から米欧とのG7(主要7カ国)結束へと岸田政権は軌道修正を行ったが、アベノミクスのソフトランディングへと舵を切る機会を逸し、日本における物価高騰は円安インフレと言うべき負のスパイラルに陥っている。

 岸田カラーを打ち出すチャンスが無かった訳ではない。21年秋の衆院選に続き22年の参院選でも勝利した事で、岸田首相は次の国政選挙を気にせず政策課題に取り組める「黄金の3年間」という大きな政治資産を手にしたかに思われた。ところが首相は参院選の投票2日前に凶弾に倒れた安倍元首相の国葬実施を表明。安倍元首相の事件で顕在化した旧統一教会問題への対応が後手後手に回る中、国論を二分させて国葬を強行した事が内閣支持率の急落を招き、腰を落ち着けて政策課題に取り組める環境を自ら破壊した。

 思い返せば、21年9月に安倍元首相の後を継いだ菅前首相も高い内閣支持率で政権をスタートさせながら、日本学術会議の会員任命拒否問題でミソを付け、新型コロナの感染拡大を受けて失速した。「さあ、これから」という時に菅前首相も岸田首相も国民の目線からズレた奇策を仕掛け、重要な政策課題に注ぎ込むべき政権の体力を無駄に費やした。それでも菅政権は新型コロナワクチンの接種加速や携帯電話料金の引き下げ等に取り組んだが、衆院議員任期が迫る政治情勢の中で首相の座から引きずり下ろされた。

日銀総裁人事と統一地方選が4月の関門

岸田首相は自らの政権で何か成し遂げたい事が有るのだろうか。首相就任時に掲げた「新しい資本主義」「所得倍増」の看板は僅か1年で色褪せ、アベノミクスの遺産で何とか食い繫ごうとしている。新たに打ち出した施策と言えば、反撃能力の保有を含む防衛費の大幅増の他、原発の新増設や資産所得倍増等、いずれも安倍元首相が敷いたレールの延長線上に有るものばかり。安倍元首相の国葬を強行したのは保守層の支持を取り込む為と思われたが、追悼の辞で「あなたが敷いた土台の上に、持続的で、全ての人が輝く包摂的な日本を、地域を、世界を作って行く」と誓ったのは本心だった様だ。

 問題は「持続的で、全ての人が輝く包摂的な」国作りの施策を提示出来ないまま23年を迎えた事だ。岸田政権が実績としてアピールする反撃能力の保有にしても、安倍元首相が退任間際に発表した談話にあった「専守防衛の考え方については、いささかの変更もありません」「日米の基本的な役割分担を変える事もありません」「これによって、抑止力を高め、我が国への弾道ミサイル等による攻撃の可能性を一層低下させていく」等を超える説明は為されていない。

 反撃能力を保有する事で日米同盟の何が強化され、日本へのミサイル攻撃を企図する可能性の有る敵性国家に対しどの様な抑止力になるのか、日米間で踏み込んだ戦略協議が行われた形跡も無い。安倍路線を踏襲しているだけだから、政策決定の1つ1つに国民・国家の将来を決する覚悟が感じられない。軽いのである。持続的な政策を示せない政権の軽さに気付いた世論の「岸田離れ」が内閣支持率低迷の根源に有るのではないか。

 新年を迎えれば心機一転、春までに旧統一教会への解散命令請求に踏み切り、首相の地元・広島で5月に開かれるG7サミットで国際社会におけるリーダーシップをアピールした上で衆院解散・総選挙に打って出るという起死回生の「サミット解散」論が首相周辺から発信されている。

 だが、広島サミットの前に大きな関門が岸田首相を待ち受ける。10年に及ぶ異次元金融緩和の責任者、黒田東彦日銀総裁の任期が4月に満了を迎え、岸田政権として後任を選ばなければならない。首相は今度こそアベノミクスの限界と向き合うのか、引き続き目を逸らし続けるのか。その時、円安インフレに苦しむ国民は政権をどう評価するのか。4月の統一地方選である種の裁定が下る。

 広島サミットを花道に退陣させる「岸田降ろし」のシナリオも取り沙汰される23年。岸田首相の覚悟が問われる新年になる。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top