「世界ベスト3」入りのカギ握る
アメリカ市場で販売苦戦
「参天製薬」が眼科領域に特化した優良製薬会社だということに、異を唱える人はいないだろう。
連結子会社のクレールで無菌服のクリーニング事業やサプリメントの販売をするものの、これらの売上高は年間10億円ほどで、参天製薬全体の売上のわずか0・5%程度の微々たる額だ。
また、リウマチ治療剤を手放し、事業を眼科に絞り込み、2017年までの中期経営計画で黒川明社長兼CEOが「眼科領域のスペシャリティになる」と宣言した通りに進んでいる。
医療用眼科医薬品では日本国内で圧倒的な強さを持ち、北米、欧州、アジアに事業を拡大し、世界的スペシャリティの医薬品メーカーに邁進している。だが、残念ながら世界の壁はまだまだ厚い。
眼科領域は他のがん領域や代謝領域などと比べ、派手さもなく、大きな売上を稼ぐ分野でもなく、メーカー数も多くはないが、それでも、日本の目薬分野には3社が競合していた。参天製薬とロート製薬、それにライオンである。
その中で、「スマイル」ブランド名で知られたライオンは伸び悩み、参天製薬とロート製薬が伸長してライバル関係になった。売上高も2000億円弱で似通っており、株価も似たり寄ったりだ。
しかし、衛生環境の改善と少子化で感染症や炎症性の眼科疾患は減少し、参天製薬もロート製薬も売上を伸ばすことは出来なかった。
そんな状況下で、両社は対照的な道を選んだ。一般用医薬品に強いロート製薬は機能性食品からスキンケア商品へと舵を切り、「メディカル・コスメ」と呼ばれる事業を成功させ、同社を支える屋台骨に育てた。
海外進出とM&Aで眼科事業を拡大
一方、参天製薬は「眼科領域のスペシャリティ」になることを謳い、眼科専門の医薬品メーカーの道を選んだ。これにより、日本のトップ企業となり、世界でも存在感ある眼科専門の医薬品メーカーへの道を進む。
同社は1993年に米国に事業拠点を設け、翌94年にはニューキノロン系抗菌剤「タリビッド点眼液」の後続品である「クラビット点眼液」を引っ提げて欧米市場での販売を始めている。
さらに、台湾、中国、韓国などアジア各国や欧米に現地法人を次々に設立した。
同時に、97年にフィンランドの眼科薬メーカー、スターを買収し、北欧および東欧への足掛かりを得たのに続き、米国では眼科医療機器メーカー、アドバンスド・ビジョン・サイエンスを買収、白内障治療に必要な眼内レンズを入手した。
2014年には米メルクから眼科領域の医薬品事業を受け継ぎ、16年は米インフォーカスを買収して緑内障治療で房水を流す手術に使うマイクロシャントというデバイスを手に入れるなど眼科領域事業を拡大してきた。
医師の要望がありながらも、日本の医療機器メーカーは体内に入れる医療機器の製造を敬遠してきた。万一、医療事故が起きた際には、医療ミスの一因として世の中の強い批判に晒され、株価にも影響が出るからだ。
そんな中、参天製薬が眼内レンズ、さらにマイクロシャントのメーカーを買収したのは賢明だった。日本人が得意とする技術改良を重ね、医療現場が要求するさらに使いやすい医療機器に仕上げる事が出来るからだ。
中でも特筆されるのは、14年、提携関係先のメルクから同社の眼科医薬品を買収したことだ。この対象は米国を除く全世界での製造・販売権で、買収価格は6億㌦(約618億円)だ。参天製薬にとっては大きな買物だったが、メルクが持っている緑内障治療薬やドライアイ治療薬等々、9品目の医薬品を手に入れることになり、結果、世界で一目置かれる眼科薬メーカーとして認知された。
無論、売上も急増した。メルク案件だけで185億円の売上増となり、中期経営計画で目差していた17年度の売上高2000億円も無事達成し、海外での売上比率30%という目標もクリアした。
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