
右も左も皇族方の人権を顧みない政治の貧困
日本国憲法第14条「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」。この規定は皇族方には適用されない。その事実を改めて思い起こさせるのが、「皇族数の確保策」を巡る国会の議論だ。
何故、皇族数を確保する必要が有るのか。天皇陛下と上皇陛下は皇族に含まれない為、現在の皇族数は14人。その内、30代以下の次世代皇族は天皇家の長女愛子様と秋篠宮家の次女佳子様、長男悠仁様の3人。女性皇族は皇族以外と結婚すると皇籍を離れると皇室典範に定められている。このままでは次世代皇族が悠仁様だけとなる恐れが有り、皇室の公務が回らなくなっては困るから、愛子様、佳子様が結婚されても宮家として皇族に残れる様にしようというのが「女性宮家」創設の議論だ。
皇位継承権者をプールしておくのが宮家の役割
只、皇室の公務を理由とする議論が建て前である事は、皇室の行く末を心配する国民の大多数が知っている。そもそも宮家とは、天皇の子孫が皇位を継がずとも皇室に身分を残し、皇位を継いだ天皇に↘男子が生まれなかった場合に皇統を繋ぐ「男系男子」をプールしておく仕組みだ。天皇の娘が産んだ男子は「女系男子」となる為、天皇にはなれない。天皇の娘が宮家の男子と結婚して男子を産めば「男系男子」。万世一系の皇統に於いて同一のY染色体が引き継がれてきたとされる皇室の伝統を今後も守り続けるなら、宮家の当主は男性でなければならない。
「皇室の公務を回す為だけに女性宮家を創設する等という議論はそもそもナンセンス。仮に愛子様が女性宮家を興されたとして、配偶者も、生まれてくる子供も皇族でないとするなら、皇統の継承者をプールしておく宮家本来の役割は果たせない」。ジェンダー平等を重視し、将来的な女性天皇・女系天皇の誕生も視野に入れるリベラル派(左派)は、配偶者と子供にも皇族の身分を与えるべきだと主張する。男系男子の皇統維持を絶対視する保守派(右派)は、そんな事を認めれば女性・女系天皇容認の議論に繋がり兼ねないとして女性宮家の創設に反対、若しくは女性宮家を創設しても一代限りと主張する。
左派の目指す「皇位継承に於けるジェンダー平等」も、右派が譲らない「男系男子の皇統維持」も、日本国家の在り方を左右する一種のイデオロギー論争だ。双方の掲げた正義に偽りは有るまいが、この議論によって人生を左右されるお一人お一人の皇族方への配慮に欠けていないか。私達一般国民は民主主義体制下、誰もが平等に自由と権利を享受しているが、天皇と皇族は憲法で「国政に関する権能を有しない」と規定され、事実上、言論、居住、職業選択の自由を制限された生活を送っておられる。
2001年12月に愛子様が誕生された後、当時の小泉純一郎政権は女性・女系天皇を容認する皇室典範改正に動いたが、06年に悠仁様が誕生された事で見送られた。一方で、新しい象徴天皇像を体現してこられた今上陛下の下で愛子様は「国民に寄り添う皇室」の帝王学を学ばれ、そのお姿が国民の敬愛を集めている事が、各種世論調査で女性天皇賛成論が多数を占める背景に有る。とは言え、愛子様も今年で25歳。天皇に即位される見通しも無く、1人の女性として生きる自由も無く、結婚して女性宮家を興されても一代限りとされるなら、子供は皇族に残れない。そんな人生を押し付ける政治が果たして人道に適うものと言えるのか。
女性・女系天皇を阻止すべく右派が主張してきたのが、旧宮家の男系男子を養子縁組によって皇族に戻す案だ。戦後に皇籍を離脱した11宮家は、現皇室とは600年も前に血筋が分かれ、戦後は一般国民として生活してきた方々だが、男系維持の理屈は立つ。皇族になる事を望む該当者の意思が尊重される事が前提となるが、戦後の象徴天皇像を築き上げてこられた上皇陛下の血統から離れる選択肢が主権者たる国民の理解を得られるかどうか。これ迄の議論では、女性皇族を旧宮家の男系男子と結婚させる案が右派から提起された経緯も有るが、人権意識の欠如も甚だしく、流石に近年は鳴りを潜めている。
「女性宮家」「男系養子」で問題先送り
衆参両院議長の下で纏められた「立法府の総意」では、女性宮家の創設、男系男子の養子縁組の両方を了とする一方、女性宮家の配偶者と子に皇族の身分を与えるかには触れず、旧宮家の男系男子を養子にしても皇位継承はさせないとした。これでは当面の皇族数の確保策にはなっても、皇位継承の安定化には繋がらない。「今上陛下から秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下という皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」と確認したのも要は現状維持。平成以降の「失われた30年」から脱する事の出来ない、日本の政治お得意の問題先送りである。
今上陛下のお年を考えれば、次の皇位継承が現実のものとなる迄にまだ時間は有るだろう。しかし、今年20歳になる悠仁様がいずれ結婚される時、親王ご夫妻に伸し掛かる男児出産の重圧は凄まじいものとなろう。もし仮に男児が生まれなければ、その時は女性・女系天皇を認めるか、男系男子の養子で皇統を繋ぐかの決断を迫られる事になる。悠仁様と将来の親王妃に、とても人道的とは思えない重圧が掛かる事をこの国の主権者たる私達一般国民は良しとするのか。女性宮家と男系養子の方々は、親王家の行く末を見守りながら、先の見えない宙ぶらりんの不自由な人生を送っていかれるのか。
「愛子天皇」待望論を唱える人々にも問いたい。秋篠宮様が皇位を継がれる前に長子優先の制度に切り替えれば良いと考えているのかも知れないが、その時迄、愛子様は皇位継承の僅かな可能性に備えて自らの意思を押し殺し、ひたすら国民に寄り添う人生を生きていかねばならないのか。今回の結論先送りは、左派も右派も自らが掲げる正義の旗を下ろさずに済むという意味で、双方の面目が立つ「立法府の総意」となった様だが、そこに潜む人権意識の欠如を見るにつけ、我等が日本国の民主政治の未熟を思わずにはいられない。
封建時代の天皇や将軍等の支配層には跡継ぎを絶やさない様、正妻の他に側室がいたが、戦後の皇室典範で側室制度は廃止された。宮家の制度は残されたが、戦後の11宮家の皇籍離脱が問題視されなかったのは、昭和天皇に3人の弟がいた為、3つの宮家が残れば大丈夫と考えられたからだ。しかし、今に引き継がれた宮家は4つ。天皇家を含め合わせて6人の子女の内、男子は悠仁様お一人という危機的な現状を80年前の誰が予想出来たであろうか。
男系男子の血統でのみ皇位を継承する封建主義の仕組みと、国民主権下の象徴天皇制を共存させる試みが、戦後80年を経て、皇族数の減少という試練に直面している。将来世代の日本国民に選択を委ねるのは勝手だが、その間、愛子様、佳子様等、次世代の女性皇族方に人生選択の先送りを強い、悠仁様お一人に男系維持の重圧を掛ける政治の非人道性から我々は目を背け続けるのか。
今こそ政治の責任で徹底的に議論を尽くし、結論を出すべきだ。国民主権下の皇室を安定的に存続させる為、男女に拘わらず長子優先として女性・女系天皇の皇位継承を認めるのか、それとも、飽く迄男系男子のみで皇統を繋ぐのか。若し後者を選ぶのであれば、旧宮家の男系男子を皇族に戻し、皇位継承権者としてプールしておく宮家を増やす外ないが、旧宮家の男系男子は今は一般国民であり、本人の承諾を条件にしたとしても、法の下の平等を定めた憲法に抵触する懸念は拭えない。人権尊重を基本に考えれば、為すべき選択は女性・女系天皇を認める他に無いのではないか。




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