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未来の会

「農福連携」で地域を繋ぎ 誰もが役割を持つ共生社会へ

「農福連携」で地域を繋ぎ 誰もが役割を持つ共生社会へ
皆川 芳嗣(みながわ・よしつぐ)1954年福島県生まれ。77年東京大学経済学部卒業後、農林省入省。2010年林野庁長官。12年農林水産事務次官。16年農林中金総合研究所理事長。20年農福連携等応援コンソーシアム会長。24年瑞宝重光章受章。

日本の農業は今、輸出拡大という明るい展望の一方、深刻な人手不足と耕作放棄地の増加に直面している。他方、福祉の現場では、障害者が新たに働き、役割を持てる場が求められていた。この双方の課題が出合い、支え合う関係として広がってきたのが「農福連携」である。農林水産事務次官、農林中金総合研究所理事長を歴任した皆川芳嗣氏は、「嘗て個別の取り組みに過ぎなかった『農福連携』が、今や国の基本法に盛り込まれる迄になった事は大きな転換点」と力説する。障害者や高齢者が役割を持って働き、医療や福祉ともシームレスに結び付く共生社会を見据え、「地域を救い、地球を救う」と語る皆川氏に、その展望を聞いた。


——農政の最前線で長く活躍してこられた立場から、現在の日本の農業の課題と今後の食料安全保障についてどの様にお考えですか。

皆川 日本の農業は、質の高い農産物を生産していても経営を次世代に引き継げず、地方では耕作放棄地が著しく増加しており、如何に持続可能にしていくかが大きな課題です。国際情勢を鑑みれば、食料安全保障の観点からも国内の生産体制を維持・強化しなければなりません。それには、土地を集約して規模を拡大する「プロの農業経営」や農業法人の育成、AIやロボット等を活用する「スマート農業」が重要になります。但し、農村には賑わいが欠かせず、農業人材も一定数存在しなければなりません。一方、福祉の現場では、障害の有る人々が働ける場が限られ、それをどう確保し、広げていくかが課題となっていました。こうしたそれぞれの実情を踏まえて提唱されてきたのが「農福連携」です。人手を求める農業と、障害者等の働く場を求める福祉。その双方のニーズが合致し、互いの課題を補い合う取り組みです。農福連携については、2024年の「食料・農業・農村基本法」の改正で新たに規定が設けられ、農村社会や農業全体を支える為に不可欠なものとして、農業政策上も明確に位置付けられました。

——その農福連携を社会に広げる役割を担ってきた「日本農福連携協会」を、18年に設立されました。

皆川 当協会は、農福連携に関係する生産者、福祉事業所、企業、団体、行政、消費者等、様々な団体・人々が参画し、連携するプラットフォームとしての役割を担います。背景に在るのは、農業現場の深刻な人手不足と、新たな就労の場を求める障害者等の福祉側のニーズが合致し、両者が非常に相性の良い関係だと明確になってきた事です。嘗て社会福祉法人等が請け負っていた事務補助や印刷等の内職的業務は、OA化で減少しました。その中で、鹿児島県大隅半島の「白鳩会」の様に、放棄された茶園を引き継いで法人化し、茶の栽培や養豚で成功する事例が現れました。こうした取り組みがここ15年程で急速に広がり、その機運を捉えて社会的な裾野を広げる為に設立したのが当協会です。法人化の前の1年半は任意団体の協議会として、元厚生労働事務次官の村木厚子氏らと活動しました。農林水産省と厚生労働省の前庭で「農福連携マルシェ」を交互に開き、自らエプロン姿で販売して両大臣を招く等、省庁の枠を超えて認知度の向上に努めました。その後、総理官邸にも官房長官をトップとする「農福連携等推進会議」が設置され、11月29日が「ノウフクの日」に制定されます。今は国を挙げた推進体制の構築を目指し、活動を続けています。

——この7年半の農福連携の広がりと、それが地域共生社会にもたらした成果をお聞かせ下さい。

皆川 取り組み主体数は確実に増えています。農業経営体、社会福祉法人、特例子会社等、様々な形態を合算すると、10年近く前には約4000でしたが、現在は倍以上で8000を超えました。国は更にこれを1万2000迄増やす事を目標に掲げています。認知度も、嘗てに比べれば「聞いた事が有る」と感じる一般の方が増加しています。農福事業体が手掛けた野菜や果物、加工品を広く届ける為、ECサイト「農福市場」も立ち上げました。贈答品として使われる例も増え、流通を通じて一般消費者の認知も広がっています。農福連携は、これ迄社会の中で出番が無かった人々に新たな役割を生み出す、SDGsの複数の目標に直結する具体的な実践運動なのです。

現場が導く障害者の自立と健康変化

——障害者の生活リズムの安定や社会参加等、就労支援に留まらない変化も生まれていると伺いました。

皆川 現在、日本で障害者手帳を持つ人は1000万人以上おり、その内、企業等で雇用されているのは約70万人程です。一般には障害者が働くのは難しいと思われがちですが、農業の現場では、障害特性と業務の相性が合う事で、極めて高い成果を上げるケースが数多く確認されています。例えば、反復作業は気持ちが安定する為、丁寧な仕事を長時間続ける事が出来る知的障害者のスタッフと、不安神経症を抱えているが花の細かなバランスに気が付けるスタッフが、それぞれの特性を発揮して一緒に働く事により、市場価格より2割も高く売れる胡蝶蘭を育て上げている事業体も有ります。又、変化は健康面にも及びます。適度な労働強度の仕事を持ち、日中の太陽の動きに合わせて活動する事で生活リズムが整い自律神経が安定する、昼夜逆転等の睡眠障害が軽減し、夜に自然に眠れる様になって投薬量が減る、といった報告も有ります。更に、これ迄指導されるばかりで褒められる経験の少なかった人々が、周囲から感謝され、自ら作った農産物が直売所でリピート購入される。そうした手応えを通じて、自己肯定感が飛躍的に高まります。「社会の中に自分は確かに存在している」という実感と居場所を得る事は、社会的孤立の解消や生き甲斐に直結し、「誰1人取り残さない社会」へと近付く道筋となるのです。


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