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第164回 厚労省ウォッチング HPVワクチン「積極勧奨」再開に向け、課題は山積

第164回 厚労省ウォッチング HPVワクチン「積極勧奨」再開に向け、課題は山積
2月に発売したMSD社の「シルガード9」 MSD社オフィシャルサイトより

 厚生労働省の専門部会は10月、子宮頸癌の原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンについて、国の「積極的な接種勧奨」を再開する方向に舵を切った。8年前に勧奨を中止して以降、どっち付かずで来た姿勢にようやく終止符を打った格好だ。それでも強い副反応疑いが出ない保証は無い。同省内では「一件落着どころではない」(幹部)との声も漏れる。

 HPVワクチンは2013年4月、小6〜高1の女子を対象に公費で賄う自己負担の無い定期接種となった。ところが、ワクチンとの因果関係を否定出来ない体の痛み、失神等を訴える声が相次ぎ、手足が動かしにくくなるといった重篤な症状を訴える人もいた。慌てた厚労省はわずか2カ月で「積極的な勧奨」を中止。これで国民の間に「危険なワクチン」との認識が広がり、多くの自治体も個別の通知をやめたことから、接種の機会を知らないまま成人を迎える人が増えた。02年度以降生まれの接種率は限りなく0%に近い。

 その後厚労省は、勧奨は控えつつ、世界保健機関(WHO)がワクチンを評価している事もあって中止にはせず、賛成派と慎重派の間で煮え切らない姿勢をとり続けてきた。しかし、次第にワクチンに関する国内外のデータが集積され、中でも昨年公表されたスウェーデンの論文は同省の判断に強い影響を与えた。

 この論文は10〜30歳の約167万人を対象とした調査において、ワクチン接種者は非接種者より子宮頸癌の発症リスクが63%低いという内容だ。同癌は国内で年間約1万1000人が発症し、約2800人が亡くなっている。勧奨中止後も接種と副反応の直接的な関連を示すデータは出ておらず、厚労省は昨年7月、3種類目のワクチンとなるMSD社の「シルガード9」の製造販売を承認した。従来のワクチンを接種することで、子宮頸癌全体の5〜7割程度を予防出来るのに対し、シルガード9は9割を予防出来ると言う。承認に際し、加藤勝信厚労相(当時)は周囲に「次は定期接種だな」と漏らすなど、積極勧奨の再開に向けて踏み出していた。

 「大きな方向性として、積極的勧奨を妨げる要素はない」。10月1日の専門部会で、部会長の森尾友宏・東京医科歯科大教授はこう発言した。実際、会議では勧奨再開を求める声が相次ぎ、同日には日本産科婦人科学会等も同部会を支持する声明を出した。今後厚労省は来年を睨みつつ、再開の時期を検討する。

 16年12月、同省の研究班は非接種者の中にも接種後に見られた症状と同様の症状の人が一定数いる、との見解を示した。とは言え、接種と副反応の関連が完全に否定されたわけではない。健康被害を訴え、国や製薬会社に訴訟を起こしている原告団は勧奨再開に強く反対し、接種後に出る症状、治療体制の議論が不十分だと主張している。

 思春期の女性が対象だけに、心身の不調が生じた際にはより繊細な支援が重要になる。にも拘わらず体制の整備は遅れている。「8年の空白は大きい。勧奨の中止で接種機会を逃した人、新たに副反応が出た人への救済策等、検討課題があまりに多い」。そう言う厚労省幹部に笑顔はなかった。

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