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未来の会

複数国で原因不明の小児の急性肝炎が発生

複数国で原因不明の小児の急性肝炎が発生
過度に恐れる必要は無いが、警戒は緩めずに

世界が新型コロナウイルスのパンデミックに翻弄される中、英国等で原因が分からない子供の急性肝炎が増えている。日本でも、同様の疾患が疑われる症例が少なくとも7件報告された。うち1人から海外で原因として指摘されているアデノウイルスが検出された。とは言え、小児の急性肝炎自体は以前から起きており、冷静に対応したい。

 「原因不明の小児肝炎」が大きな話題となったのは、4月15日。世界保健機関(WHO)が、2022年1月以降、英国で10歳未満の小児における原因不明の重い急性肝炎が複数発生していると公表したのだ。厚生労働省によると、WHOはその1週間後にも情報を更新し、欧州諸国11カ国及び米国(4月21日時点)で、生後1カ月〜16歳の小児169例に於ける原因不明の急性肝炎が発生していると報告。都内の小児科医は、「このうち約1割に当たる17例で肝移植が行われ、死亡例も1例有った。肝移植が必要となったという事は、症状がかなり重くなったという事。それが小さな子供達に起きているのだから心配だ」と語る。

 肝炎とは、肝臓に炎症が起き肝細胞が破壊されている状態の事を言う。原因の多くはウイルス感染で、肝炎を引き起こすウイルスとしてA〜E型肝炎ウイルスが知られている。A型、E型の肝炎ウイルスは食べ物や水を通じて感染し、B型、C型、D型ウイルスは血液や体液を介して感染する。「急性肝炎の原因として知られているのはA型、B型、E型。B型は慢性肝炎の原因ともなり、C型も慢性肝炎になり易い」(前出の小児科医)。慢性肝炎は自覚症状が無いまま進行し、肝硬変や肝がんの原因となる事も多い。それに対して、急性肝炎の予後は比較的良いが、稀に劇症化して肝移植を必要とする。

アデノウイルスが原因か? 調査が続く

 だが、今年に入り世界各国から報告されている急性肝炎は、肝炎ウイルスが原因では無さそうだ。「一部の症例からアデノウイルスが検出されており、関連が指摘されている。アデノウイルスは、風邪や胃腸炎の原因として知られる、比較的ありふれたウイルス。だが、アデノウイルスの影響と断定出来る程の事例は集まっておらず、原因はまだ特定されていない」(厚労省関係者)。目下、世界の研究者達が調査を続けている最中なのだ。

 では、今回報告された小児の急性肝炎はどの様な疾患なのか。海外からの報告に目を向けよう。

 先ずは、英国スコットランド。4月12日時点で、10歳以下の急性肝炎13例が報告され、年齢中央値は3・9歳。5例でアデノウイルス、3例で新型コロナウイルスが検出された。肝移植を受けた小児も1人居たという。欧州では英国の他、デンマーク、アイルランド、オランダ、スペインからも同種肝炎の報告が有った。

 米国アラバマ州では、昨年11月から今年4月15日迄の間に、アデノウイルス41型が検出された10歳以下の小児急性肝炎9例が報告されている。内、2人が肝移植を受けた。

 WHOが今回の急性肝炎の特徴として挙げたのは、肝臓の酵素の値が高く、尿の色が濃くなったり便の色が薄くなったりする症状の他、皮膚や白目が黄色くなる「黄疸」、下痢や嘔吐、腹痛等の消化器系の症状だ。ただ、これらの症状は一般的な肝炎で見られる症状であり、今回注意が呼び掛けられている急性肝炎に特有の症状は無い。

海外では接触者への感染拡大は見られない

 欧米に於ける小児の急性肝炎の発生を受けて、厚労省は4月20日、日本医師会と都道府県に対して注意喚起すると共に、小児の急性肝炎が起きた場合に報告するよう求めた。「報告を求める以上、症例の定義をしないといけないが、WHOの報告にも有る様に、急性肝炎の原因や特徴的な症状は世界的にも定まっていない」(医療担当記者)。その為厚労省は、16歳以下の患者の内、A〜E型肝炎ウイルスが検出されなかった急性肝炎について報告するよう求めたと言う。

 その結果、21年10月1日〜 22年5月12日迄に、国内でも「疑い例」が12件有った事が分かった。肝移植が必要となった例は無く、アデノや新型コロナウイルスが検出されたのはわずか1例だった。

 前出の小児科医は、厚労省の発表を受け、「世界の動向も含めて警戒する必要は有るが、過度に恐れる必要は無いのではないか」と分析する。と言うのも、小児に限らず大人でも、A〜E型に該当しない原因がはっきりしない急性肝炎が起きる事は既に知られているからだ。「肝臓で炎症が起きる原因に何らかのウイルスが関係している可能性は有るが、海外での症例を見ていても、家族等の濃厚接触者への大きな広がりは見られない。仮にウイルスが原因としても、感染力はそこ迄ではなく、肝炎になる割合はそう高くないと示唆される」(同)。今後も一定数の患者が出る恐れは有るが、新型コロナ感染症の様に、周囲に一気に広がる可能性は低そうだ。

 だからと言って、楽観は出来ない。WHOは5月3日、原因不明の小児の急性肝炎が20カ国で228人確認されたとデータを更新。欧米の患者が多いが、南米やアジアでも報告され、広がりを見せている。

世界中に広がりを見せている事には警戒を

そのアジアでは、インドネシア政府が5月2日、同国の首都・ジャカルタの複数の病院で4月に原因不明の急性肝炎を発症した子供3人が死亡したと発表。AFP通信によると、3人の年齢は2歳、8歳、11歳だったと言う。各国の保健医療体制には違いが有るため一概に比較は出来無いが、死に至る重篤な症状を呈する恐れが有る警戒すべき疾患である事は間違い無い。

 「原因不明の子供の病気という事で、早くも保護者の間で不安視する声は大きくなっている。特に、新型コロナの〝反ワクチン〟界隈では、ワクチンが原因ではないかと言う言説も取り沙汰されている」(医療担当記者)。あらゆる「健康不安」をワクチンと結び付けたがるのが反ワクチン活動家ではあるが、「英国で報告された子供達は何れも、新型コロナワクチンは未接種だった。ワクチンとの関連は考えられない」と厚労省関係者は否定する。

 ただ、ワクチンではなく新型コロナウイルスそのものの影響は考えられると言う。「患者の多くは3〜5歳で、新型コロナのパンデミック禍に成長している。大人のはしかは重いと言われる様に、感染症は大きくなって掛かると重症化し易いとされる。新型コロナの感染対策が奏功してここ数年のインフルエンザ等の感染症の流行は極端に減っており、通常であればもっと小さい時に暴露した筈の何らかのウイルスに大きくなってから感染し、肝炎等の重い症状が出た可能性は有る」と前出の小児科医。ステイホームによる子供の体力低下との関連を指摘する声も有る。

 増える子供の急性肝炎に、米疾病予防管理センター(CDC)は5月6日、幼児の嘔吐や黄疸等の症状に注意するよう保護者に呼びかけた。また、手洗い等の感染症対策の大切さにも言及した。日本では多くの人々はマスクをしているが、欧米では既にノーマスクが主流。日本より感染が広がりやすい環境になっているとも言える。 

 新型コロナは世界の感染症の地図を書き換えた。影響は、今後様々な所で出て来るかも知れない。

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