SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「オンライン資格確認」がもたらす医療現場の負担

「オンライン資格確認」がもたらす医療現場の負担
メリット少ないマイナンバーカードの「保険証化」

 マイナンバー(個人番号)カードを健康保険証として利用するオンライン資格確認。コロナ禍以前からの計画で、厚生労働省の「データヘルスの集中改革プラン」の基盤となるものだったが、この新しいシステムの運用が延期された。

 新システムでは、患者が医療機関でマイナンバーカードを顔認証付きカードリーダーにかざすと、オンラインを通じて保険診療を受ける資格の有無をその場で確認出来る。

 厚労省は、医療機関や薬局側にとって「入力の手間が省ける」「患者の待ち時間が短縮出来る」等いくつものメリットを強調。3月上旬から24都道府県の54の医療機関・薬局で試行を始め、3月下旬から正式運用を予定していた。

 しかし政府は、企業の健康保険組合等が管理する加入者データが不正確だったとの理由で、土壇場になって延期。開始を半年後の10月に延ばすと表明した。医療データのデジタル化は菅義偉政権の肝煎りの政策にもかかわらずだ。

 医療機関からは、マイナンバーの初期認証作業や、本人確認のやり方が分からない高齢者等に対してスタッフが説明しなければならず、逆にスタッフの手間が増えるのではとの指摘が出ていた。

 マイナンバーカードの普及率は28・3%(4月1日現在)と3割に満たない。そのため、政府はマイナンバーカードの申請者に「マイナポイント」(キャッシュレス決済で最大5000円分、利用金額の25%還元)を付与するキャンペーンを実施。申請期限を1カ月延長して4月末までとする等、なりふり構わない策で普及率をアップしようとした。

 このような中、政府は2022年度中にスマートフォンへのマイナンバーカード機能の搭載、24年度末までに運転免許証とカードの一体化の実現を目指している。

個人番号誤入力で「個人情報漏洩」

 しかし、個人情報の漏洩に対する懸念等が普及を阻む要因になっている。今回の延期問題により、個人番号を取り違う事で医療機関や薬局の端末だけでなく、マイナンバー制度の個人向けサイト「マイナポータル」にも他人の健康情報が表示される恐れがある事が明らかになった。

 政府は20年度末までに、ほとんどの国民がマイナンバーカードを取得する事を目標に掲げた。健康保険証との一体化で普及に弾みを付ける狙いもあっただけに、個人情報の中でも特にデリケートな医療データが漏洩する恐れがあるとなっては、逆に普及を阻みかねない。

 マイナンバーの利活用の拡大等を盛り込んだデジタル改革関連5法案が4月6日、衆院本会議で可決されたが、全国保険医団体連合会(保団連)は同日発表した声明の中で「行政が持つ膨大な個人情報について企業等による利活用を大幅に推進する内容。個人情報保護の理念・規定が決定的に欠落している」と指摘した。

 コストも問題化している。マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)が13年に成立以降、マイナンバー制度の関連国費の総額は約8800億円に上る。菅義偉首相も3月31日の衆議院内閣委員会で立憲民主党の委員の質問に対し、「(コストパフォーマンスが)悪過ぎる」と非を認めざるを得ない体たらくだ。

 マイナンバー法成立当初の制度導入には初期費用が約2700億円、年間の運営費が約200億〜300億円掛かる事が予想された。そのため、制度導入に肯定的な立場だった経済界からも制度導入当初、「費用対効果があるのか」との懸念の声が上がっていた。

 政府はマイナンバーの保険証化による様々なメリットを謳う一方、今回の延期問題では健保組合にその責任を転嫁した。しかし、医療現場からは別の問題点を指摘する声が上がっている。

 まず、資格確認に必要な顔認証付きカードリーダーに関する問題だ。政府は3月までにカードリーダーを医療機関等の6割に導入する目標だったが、2月7日時点での申し込み数はわずか28・5%だった。周知が不十分だったり、医療機関等が様子見の状態であったりした事が背景にある。

 カードリーダーに関しては、別の点で医療現場から懸念の声が上がっていた。

 ある歯科医師は「銀行のATMでは長蛇の列が出来るが、一定の年齢層では未だに操作の仕方が分からないため、行員が近くに待機している。オンライン資格確認も高齢者等で認証の仕方が分からない患者が出てくるだろうが、診療報酬の点数が低い歯科の診療所では説明要員を雇う余力はない」と話す。

電子カルテとは「不連動」で手入力

 オンライン資格確認のメリットにも疑問符が付く。厚生労働省はメリットの1つに「保険証の入力の手間削減」を挙げる。カードリーダーにマイナンバーカードをかざせば、その患者の情報がパソコン画面に表示されるというのだが、保団連が厚労省に問い合わせたところ、現時点では電子カルテとは連動していないという。

 厚労省は「来院・来局前に事前確認できる一括照会」もメリットに挙げている。これは照会したい患者のリストを作成する事で、事前に予約している患者の保険資格が有効か、保健情報が変わっていないかを把握出来るものだが、前述の通り電子カルテと連動していない以上、結局は手入力で対応せざるを得ないのが実情だ。

 医療機関にとって唯一のメリットとも言えるのが「資格過誤によるレセプト返戻の作業削減」だが、保団連によると、全レセプト件数の中で資格確認の不備による返戻は0・27%(16年時の政府発表)。極めてわずかな数字なのだ。

 「患者の薬剤情報・特定健診等情報の閲覧」もメリットに挙げられているが、デリケートな個人情報を扱うにもかかわらず、受付スタッフがマイナンバーカードを使って閲覧する際の対応マニュアルも整っていない。他業界で言えば、例えば金融機関はマイナンバーカードの取り扱いに関して厳密なガイドラインが出来ている。

 カードリーダーの表面は窓口スタッフに見えないように設置する事になるが、患者が操作の仕方が分からない場合、スタッフが操作の仕方を教えるため患者側に回り、マイナンバーカードを触ったり見たりせざるを得ないケースも予想される。これでは個人情報の管理を巡るトラブルになりかねない。

 厚労省は受診時のなりすましの防止も強調するが、保団連は「悪意によるなりすましの人が顔写真付きのマイナンバーカードを持ってくるはずがない」と指摘する。

 マイナンバーカードの保険証化を巡っては、こうした数々の不備や未整備が露見し、少なくとも現時点ではデメリットの方が多い事が明らかになってきたため、医療界からは「当面は健康保険証が利用出来る事を周知してほしい」との要望が挙がっている。

 ある病院長は「医療機関や保険者だけでなく、厚労省の官僚も『本当はやりたくない。やってもデメリットしかない』と言っていた」と打ち明ける。

 マイナンバーカードを使いたがっているのは、首相官邸だけではないだろうか。オンライン化、デジタル化は大きな流れとはいえ、現場の声を聞かない拙速さは良くない。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top