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未来の会

コロナ禍が扉開いたオンライン診療「恒久解禁」の行方

コロナ禍が扉開いたオンライン診療「恒久解禁」の行方
〝慎重派〟厚労省・日医VS〝積極派〟首相・規制改革会議

新型コロナウイルスの感染拡大によって、特例で解禁されている初診からのオンライン診療。菅義偉首相の指示に基づく解禁恒久化に向けた政府内の議論は、6月に制度設計、9月にオンライン診療指針の改訂というスケジュールが想定されている。

 しかし、論点は多岐に渡り、細部まで結論を得るのは容易ではない。コロナ禍の収束が見通せない中、↘「特例」はずるずる長引く可能性がある。

 オンライン診療は、医師がパソコン等のテレビ電話機能を使って患者を診察したり、薬の処方をしたりする仕組み。2018年度から一部に保険適用されたが、「安全性が担保出来ない」として初診は対象外とし、診察可能な疾患も生活習慣病等ごく一部に限っていた。

 その後、対象は小出しに広げられていたものの、昨年のコロナ禍によって状況は一変。患者の来院による院内感染を警戒し、感染収束までの時限的特例として一気に全面解禁された。

 首相就任直後から全面解禁の旗を振っていた菅首相は、患者の利便性を盾に改めて「恒久化」を指示。政府の規制改革推進会議も昨年末に「オンライン診療・服薬指導の恒久化」を打ち出し、首相は「将来も(特例の)今の基準を下げるべきではない」と踏み込んだ。

日医に沿い初診はかかりつけ医限定

 ただ、日本医師会(日医)等は対面で診療しない場合、症状の見落としや誤診のリスクがあるとして慎重論を唱える。

 賛否入り乱れる中、昨年10月になって河野太郎・規制改革担当相、田村憲久・厚生労働相、平井卓也・↖デジタル改革担当相が協議し、日医の見解に沿う形で初診からオンライン診療が出来るのは、かかりつけ医に限る方針を確認した。これを受け、厚労省は「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」で昨年11月から具体案の検討を進めている。

 これまでの議論では①受診歴があっても、直前の受診から一定期間以上空いていれば「初診」とみなす②受診歴のない患者に関し、どのような情報があれば初診でもオンライン診療を認めるか、専門家の意見を踏まえて検討する③必要ならオンラインから対面診療にすぐ移行する——等が概ね固まっている。

 厚労省は、オンライン診療を認める過去の受診歴からの「一定期間」の上限について「12カ月」を例示し、12カ月以上開いている場合はオンラインの前に対面受診を求めるとする。

 また、受診歴のない患者の場合は、一定期間(12カ月を例示)以内に同じ医療機関で予防接種や健康診断を受けていれば初診からオンライン診療を可能としている。

 更に▽かかりつけ医から診療情報提供書を受け、情報の提供元が「オンライン可」と判断している▽患者に看護職員が付き添っていて診療の補助行為が可能といった、高齢者施設を想定したケースでも初診からのオンライン診療を認めるとしている。

 ただ、予防接種や健康診断を受けた医療機関では初診からオンラインOKという案には、同検討会でも慎重論が出ている。「患者の情報を十分収集出来ない」というわけだ。また、過去の受診歴からの「一定期間」を12カ月とする案に対しては、推進派と慎重派の意見が割れている。

 大石佳能子・メディヴァ社長は、「毎年医療機関を受診している患者は少ない。少なくとも『2〜3年』が適切」と言うのに対し、認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの山口育子理事長は「12カ月でも長い」と話す。産業政策としての側面も視野に入れ、安全性を重視し過ぎると骨抜きになって解禁の意味がなくなると主張する推進派と、安全性を最優先する慎重派の意見はかみ合っていない。

 厚労省は、オンライン診療の前に電話やオンラインで「オンライン診療に適さない患者」を選別し、対面診療に繋げる事も重視している。オンライン診療を申し込んでも、実際に治療を受けられるまでに待機を余儀なくされる場合を想定しての事だ。数時間待つうちに重篤化する危険を避けられない事から、待機可なのか、対面診療に切り替えるべきなのか、救急搬送を要するのか——を事前に判断するトリアージの必要性を指摘している。

 更に、触診等が出来ないオンラインでは誤診のリスクがあるため、必要であれば対面診療に移す事を事前に医師が患者に説明し、同意を得る案も示している。

 また、誤診があった場合の責任問題について、医師だけでなくオンライン診療のシステムに関わる企業の責任をどこまで問うのか等が論点に浮上しそうだ。

 電話・オンライン診療が可能として、都道府県に登録した医療機関は1月末時点で1万6718施設と全体の15・1%に留まり、昨年6月時点から大きな変化はない。日医の調査では、かかりつけ医を持つ人は全体の55・2%にすぎず、若い世代は2〜3割台と低い。

 一方、昨年4〜12月にオンライン診療を受けた人を年齢別にみると、0〜10歳が4割を占める。また、50歳超は1割強で、高齢者の利用は少ない。

 3月にまとめた特例措置の検証結果として、厚労省は「不適切事例は一部あるが、徐々に減少している」とし、「当面特例を継続する」としている。

オンライン診療の質・通信料の課題

 「安全性」に軸足を置く日本に対し、コロナ禍の海外でのオンライン診療の普及はめざましい。

 米国はオンライン診療の公的医療保険、メディケアの適用範囲を大幅に広げた。総医療費のうち、最大で2500億㌦分がオンラインに取って代わるとも指摘されている。

 英国ではオンライン診療を可能とするアプリにも公的保険を適用した。中国はコロナ以前からオンライン診療に力を入れており、昨夏にはチャットと決済のアプリによる診療が始まっている。

 オンライン診療の普及に向け、推進派はオンラインと対面診療に差がない事を示すべきだという。規制改革推進会議委員の佐藤主光・一橋大学大学院経済学研究科教授は「政府は双方の『医療の質』に違いがないと指針で示すべきだ」と訴え、低く設定されているオンラインの診療報酬を対面診療並みにするよう求めている。

 だが、厚労省は慎重だ。オンライン診療の誤診リスクを前提に「対面診療」に切り替える方策を検討している以上、「オンライン診療の品質は対面診療より下」という事になる。厚労省OBは「オンラインの利便性を考慮しても、質の違うサービスに同一価格を付けるのは難しいのではないか」と話す。

 この他にも、通信料の問題が課題として横たわる。自宅にブロードバンド回線がなかったり、解像度の低い携帯電話しか通信手段がなかったりする人にどう対応するのか、だ。オンラインの場合、「画像の質が命」(厚労省幹部)という面は否めない。今の議論の流れからいくと、機材を含め十分な環境を整えられない人は「診療情報不足」として、トリアージで最初からオンライン診療対象外とされる事になりそうだ。

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