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第169回 厚労省ウォッチング 世代間の公平に向け「勤労者皆保険」検討に踏み込めるか

第169回 厚労省ウォッチング 世代間の公平に向け「勤労者皆保険」検討に踏み込めるか

岸田文雄政権は「全世代型社会保障構築会議」を足場に、社会保障全般の見直しに向けた議論をスタートさせた。7月の参院選を睨み、財源を巡る議論は選挙後に先送りする見通しだが、「世代間の公平」を図る政策実現に結び付けられるかが焦点だ。政権の姿勢について或る厚生労働省幹部は「本気度は感じられる」と言うのだが……。

首相は同構築本部の下に事務局を置き、総括事務局長に山崎史郎内閣官房参与を起用した。山崎氏は厚労省出身で介護保険創設を主導した「ミスター介護保険」と呼ばれる人物だ。更に山崎氏を支える事務局長には同省のエース級、大島一博政策統括官を就けた他、審議官クラスにも同省や財務省等の重量級幹部を就任させた。厚労省内には安倍・菅政権に比べ「首相の官僚への信頼を感じる。政・官の一体感が有る」(幹部)との期待が高まっている。

3月9日の構築会議。実質的な議論を始めたこの日は、①子育て支援 ②厚生年金の適用拡大 ③女性の就労制限に繋がる社会保障制度の見直し ④ヤングケアラーを含む家庭内介護の負担軽減——等6つが論点に挙がった。この先は世代間の公平の他、②等首相が総裁選立候補時に唱えた「勤労者皆保険」に繫がるテーマが最大の課題となる。

「全世代型」への転換で最も問われるのは、子育て支援の財源をどう確保するかだ。岸田首相は消費税について「10年程度は上げる事は考えていない」と明言している。9日の会議では有識者のメンバーから「国民による拠出金制度」の検討を求める声が上がったが、これは著書で「子ども保険」の創設を唱えた山崎氏と呼吸を合わせた発言と受け止められている。

一方、自民党内にも小泉進次郎元環境相ら子ども保険を提唱した若手・中堅を中心に、新たな拠出制度を支持する声は在る。日本の現役世代向けの社会保障給付水準は、経済協力開発機構(OECD)加盟国中、下から3番目。厚労省幹部は参院選後の議論に期待を繋ぎ「現役を支える制度が無いから、コロナ禍の様な時に安易な現金バラマキがまかり通る。この現状を改めたい」と話す。

安倍政権時代、政府は消費増税分の一部を教育無償化に振り替えたものの、保育士の処遇等改善すべき点は山積している。それでも参院選後、負担増の議論に踏み込めるのかは不透明だ。新たな保険料には強く反対の声が上がる事が想定される。子ども保険の場合、恩恵を受けるのは子育て世代だが、保険料の負担も現役中心となる。自民党内には「『世代間の公平』に合致するのか」との疑念も出ている。

勤労者皆保険では、短時間労働者のみならず、ギグワーカーらへの適用拡大も検討課題となる。こちらも労使の負担増に直結するだけに、経済界も警戒を強めている。日本経済団体連合会は昨秋まとめた文書「今後の医療・介護制度改革に向けて」の中で保険料負担増への危機意識を募らせ、「可処分所得の低下による日本の経済成長への悪影響」を訴えている。

自民党総裁選で「所得再分配」を掲げた岸田首相は、財源に金融所得課税を挙げておきながら、株価下落の不安を指摘され、即撤回した前歴が有る。再び腰砕けとならないのか、厚労官僚達は期待と不安を込めた視線を送っている。

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