既に連携が出来ている地域を破壊する懸念も
「一口に地域包括ケアシステムの構築と厚労省は簡単に言うが、なかなか大変な事。他国では医療の必要のない介護はほとんどないのだが、日本はケア(介護)とキュア(治療)を一体的に考えてこなかった」
6月に開かれた 日本病院会の相澤孝夫・新会長ら新執行部披露パーティーの席上で、来賓の塩崎恭久・厚労相の他人事のような挨拶に、医療人らは一瞬引いた。
「評論家ではあるまいし、医療・介護政策を担ってきた厚労省のトップの発言とも思えない」。ある医療法人理事長は呆れ顔で話す。
この理事長によると、「医療と介護を分離したのは、2000年にスタートした介護保険制度」。それまでの医師は「往診」という形で、実質的な「在宅医療」や「訪問介護」のような対応を行ってきた。だが、介護保険制度により、医療人の手から介護の要素が引き剥がされたというのだ。
例えば、麻雀やフラフープなど遊びの要素があるデイケア(通所リハビリテーション)は人気だが、ここの利用者は医療機関で行う医学的リハビリを同時に受けることは出来ない。内容や効果が異なるにもかかわらず、介護保険のデイケアと医療保険の医学的リハビリを同時(同一月)には算定出来ないからだ。
地域包括ケアシステムの実効性について、ある病院長は「介護を交えた協議の場や法制度が無い中で、連携を進めるのには無理がある。例えば、病院・クリニックと訪問看護ステーションは1人の患者を介して質の評価が出来るが、雨後の筍のように現れては消える介護事業者の質の担保は誰がするのか。質の担保が無ければ、患者の命を預けられない」と話す。
さらに、「介護保険は利用限度額まで目いっぱい使うものと考えたり、病院と有床診療所の区別が付かなかったり、患者は退院しても治療は継続していることが分からなかったりする介護事業者は少なくない」と、まず介護事業者の教育から始めなければならないと述べる。
ネットワーク化やデータの共有の現状はどうか。前出の理事長は「医療機関間でICTを利用して患者情報などを共有する地域医療ネットワークが全国に約200あるが、それらを繋げればとりあえずは医療連携の全国ネットワークが出来るかというと、そう簡単な話ではない。地域医療ネットはドメスティックな上、補助金が切れたりして、実際に稼働しているネットワークは現在、約4分の1しかない」と打ち明ける。
それでも、医療機関のICT化は進んでいるので、将来的には地域医療のネットワーク化は不可能ではないかもしれないが、介護との連携は可能なのか。「医療の患者情報が自然科学の世界だとすると、介護は随筆の世界。いわば抒情的な文章で書かれている。自然科学の世界と抒情の世界を結び付けるのは容易ではない」。
さらに地域包括ケアシステムで問題なのは、「各地で既に自然発生的に出来ている地域包括ケアスステムの破壊だ」という。イメージで言うと、時々伸びたり縮んだりしている輪ゴムが地域包括ケアの実現出来ている地域だが、国が進めようとしているのは、全国を同じ形で切るシステムだ。その結果、「せっかく機能していたものが、全部ズタズタになる」と理事長は危機感を持っている。
そして、「高齢者人口が増えているにもかかわらず、急性期医療が上で慢性期が下というような医療者や国民の誤解も問題。医療・介護・福祉を継続させるために、教育も含めた国民的な議論が必要」と述べる。
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