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第116回 新薬開発上の構造的な問題を抱えているのか

第116回 新薬開発上の構造的な問題を抱えているのか

 武田薬品が、アイルランドの製薬大手シャイアーの買収を完了したと発表してからこの1月8日で1年がたった。当時、「売上高で世界トップ10入りしたメガファーマ誕生」だの、「日本企業として過去最高額の買収総額」だのといった話題が飛び交ったのは記憶に新しいが、買収の成果については依然、「様子見」の段階から抜け切れていないようだ。

 それを端的に示しているのが、やはり株価だ。1年前の1月8日の株価が、4085円。それが今年1月10日は4379円だから、ほとんど変わっていないというのは驚きだ。しかも1月31日になると4227円に下がっている。

 2018年1月に記録している6693円という水準に至っては、武田のシャイアー買収が取り沙汰されるようになって下落が止まらなくなり、予測出来る将来に回復出来る時期が来るとはおよそ考えにくい。これら全ては、武田社長のクリストフ・ウェバーが表向き世間に何を語ろうとも、シャイアー買収後の武田の将来を楽観視出来る材料が乏しいが故の結果ではないのか。

 例えばよく指摘されているように、武田のシャイアー買収の大きな動機はシャイアーの主力製品の血液製剤だった。

 「人の血液から作るため後発薬が存在せず、主要なメーカーが世界で3社と寡占が進み、収益性が高い。武田はシャイアーの事業を吸収し、実務責任者を執行役員クラスに登用して統合作業に取り組んだ。血液製剤事業は年間3700億円の売り上げがあり、市場規模も年率6%程度のペースで拡大している」(『日経』電子版20年1月8日付)

競合品はブロックバスターに成長

 だが、武田の思惑は現在、崩壊中だと見なせよう。武田が「好調維持」と豪語する「グローバル14品目」の中に、血友病治療薬の「アディノベイト」がある。同じ血友病治療薬の「アドベイト」と並んでシャイアーの売り上げの3割近くを稼ぎ出していた主力商品で、武田が買収にあたり最も狙っていたが、これまでの勢いがどんどん後退しているのだ。

 中外製薬が開発し、スイスのロシェが17年11月に発売を開始した同じ血友病治療薬の「ヘムライブラ」が、既に昨年10月までに約1022億円の売上高を達成して早くも年商10億㌦以上の製品であるブロックバスター(画期的な新薬)に成長した。今後、年間数千億円規模になるのは確実視され、武田がやっと手に入れた「アディノベイト」「アドベイト」を駆逐するのは時間の問題となっている。

 なぜなら、「アディノベイト」や「アドベイト」は隔日もしくは週3回の投与が必要であるのに対し、「ヘムライブラ」は最初の数回は週1回、以降は症状等によっては月1回で済む人もいる。これでは、武田にとって勝負になるはずがない。

 武田が昨年10月に発表した19年度第2四半期決算によれば、「グローバル14品目」の「アディノベイト」の売上は298億円だから、早くも「ヘムライブラ」に圧倒的に差を付けられている。6兆円以上も投じた巨大買収で文字通りの「目玉商品」がこの有様では、いったい何のための買収だったのか。

 ちなみに、「ヘムライブラ」によって中外製薬は目下絶好調。株価も1月31日には1万1365円を付け、同月22日に付けた上場来高値1万735円を更新した。売上高で武田の約3分の1の中外製薬は、純利益で武田の約3倍の1173億9500万円を稼ぎ出す(19年度第3四半期累計決算)。しかも、繰り返すように「ヘムライブラ」は自社の開発製品だ。

 こうなると中外製薬との比較では、武田は単に図体が大きいだけの存在に見えてくる。このところ、塩野義の抗インフルエンザ薬の「ゾフルーザ」、協和発酵キリンの抗FGF23完全ヒトモノクローナル抗体である「ブロスマブ」等、有望新薬が承認されて日本勢が気を吐いているが、「ヘムライブラ」はその筆頭だろう。

 他方、武田は巨額の費用をかけ、住民の建設反対運動まで引き起こしてやっと「東洋一」の旧湘南研究所(現・湘南ヘルスイノベーションパーク)をオープンしたと思ったら、新薬開発など全く鳴かず飛ばずの惨状。現在の最大の稼ぎ頭である潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」にしたところで、武田が08年に約8900億円で買収した米ミレニアム社の製品だ。

 これでは研究開発費の規模以前に、武田という企業が構造的に新薬開発上の何らかの問題を抱えているのではと考えてしまう。「エンティビオ」も26年に特許が切れるが、それを補える新薬を果たして開発出来るのか。

オリジナルの新薬開発に長けていない

 ウェバーは、シャイアーを買収して「研究費が増える」からと自信ありげだが、そのシャイアーとて「アディノベイト」は16年に米バクスアルタ社を買収して取り込んだもの。特にオリジナルの新薬開発に長けているわけではないから、武田がシャイアー買収後に新会社となった今も「エンティビオ」、あるいは「アディノベイト」や「アドベイト」に代わる製品を出せる保証は、実はどこにもありはしない。

 おそらく一向に株価が戻らないのも、この辺りを既に市場に見切られているためではないのか。笑い話ではなく、新会社になったと思ったら、また次の新たな買収先を探さねばならなくなる可能性もあながち否定出来まい。

 確かに、「買収前に24品目だったパイプラインは、同社が公開する臨床試験(治験)情報を調べたところ19年9月末で39品目と6割増えた。シャイアーから引き継いだ8品目もあるが、年間の研究開発費を45億㌦(約4900億円)と買収前から5割増やし、基礎研究から治験に進む新薬候補を増やした」(『日経』同前出)と報じられてはいる。

 だが、「24品目」だろうが「39品目」だろうが、ブロックバスターが生まれるかどうかは別の話だ。数を揃えればうまくいくのなら、買収完了から1年経っても株価が同じという体たらくは免れるはずではないのか。要するに、こうした「品目」に期待感が集まっているような現状ではないということだろう。

 それでもウェバーは、「グローバルブランド14製品の売り上げ収益が前年同期比21%増を確保した」と得意気なようだが、それが今後も続くかどうか。少なくとも、市場がそう考えている気配は乏しい。              (敬称略)

COMMENTS & TRACKBACKS

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  1. 本稿に関するコメントをするとすれば、「雇用が安定しないようでは、安心して卒業生を送り出せるはずもない」との大学関係者の言(医薬経済2020.1.1「「変調」が止まらない武田の根深き問題」P73.)を待つまでも無いであろう。かつては、大学に残るか武田の研究所に行くか迷ったと言われた東大や京大を始めとする希望に燃えた多くの若き薬学研究者たちが、武田の研究所に行くことなど、一顧だにしないのが現状であろう。呆れるばかりの長期にわたるタコ配を継続するために、湘南の土地やヘルスケア事業の売却までも噂されている現状にあって、4品目のブロックバスターの自力創製など想像することさえできないのが武田の現状だと言えよう。

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