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「社会の期待」に応える事が 再生医療には求められている

「社会の期待」に応える事が 再生医療には求められている
八代 嘉美(やしろ・よしみ)1976年愛知県生まれ。神奈川県立保健福祉大学教授、慶應義塾大学医学部生理学教室訪問教授。専門は幹細胞生物学、科学技術社会論。造血幹細胞研究で学位取得後、科学技術社会論的研究を開始、幹細胞研究及び再生医療に関する社会受容の形成やコスト面等の社会実装に関する研究を行う。2009年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。同年慶應義塾大学医学部生理学教室特任助教。11年東京女子医科大学先端生命医科学研究所特任講師。12年慶大医学部総合医科学研究センター特任准教授。13年京都大学iPS細胞研究所特定准教授。18年より現職。19年より日本再生医療学会理事。

期待をかけられ、国からも大きな資金が投入されてきた日本の再生医療。2014年の再生医療等安全性確保法施行により、研究開発のスピードが加速しているという。ただ、無届再生医療等の問題も残されている。再生医療の健全な発展のためには、研究開発や保険承認をどうしていくのが望ましいのか、再生医療と社会との関わりに詳しい専門家に話を聞いた。

——再生医療の現状を教えてください。

八代 2014年に再生医療等安全性確保法が施行されて、そこから状況が変わってきました。それ以前は、研究から臨床までに長い時間がかかっていましたが、法律が整備されてからは、臨床研究に至るスピードが加速しています。2000年代初頭にミレニアムプロジェクトという研究支援プロジェクトが走り、その時から再生医療実現化プロジェクトが始まりました。国の研究費が重点的に投入され、成果が出つつあった事に加えて、推進する法律が整備され、再生医療の臨床応用を加速させることに繋がったと言えるでしょう。

——薬事の承認方法も変わったのですね。

八代 かつての薬事法が、細胞を使った製品もスコープに入れた薬機法へと変わりました。細胞を使った新しい治療という事で、希少疾患を標的にした技術が多かったのですが、そもそもの患者数が少なく、以前は臨床研究の参加者を集めるのが大変だったのです。新しい法律では、科学的に安全性が確認されて有効性を科学的に推定可能であると認められれば、条件・期限付き承認として市場に流通させ、5〜7年かけて有効性を確認して

いく事になりました。これによって上市スピードが加速しましたし、審査のための制度も整備されてきました。

——現在の日本の再生医療のレベルは世界的にどのようなレベルにあるのでしょうか。

八代 レベルは高いと思います。法律が整備されてからの5年間で欧米では10数製品が承認されていますが、日本では5製品が承認されています。彼我のファーマの数の差を考えれば、悪い数字ではないと思います。また、臨床研究や治験レベルのものも含めればiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使用した、他国ではあまり行われていない研究もあり、独自性も示しています。そういった状況を考えると、世界のトップレベルと言っても過言ではないと思います。

患者の理解を高める取り組み

——高いレベルの研究が行われる一方、無届再生医療等の問題も起きています。

八代 日本再生医療学会が中心となって、医師やコメディカル、あるいは細胞培養に携わる人達も含めて、法律面や倫理面に関する教育を行っています。ただ、個人の資質に起因するような、確信犯でやってしまうとなると、防ぐのは困難です。日本には保険診療と自由診療があり、自由診療では公的には承認されていない治療も行う事が出来ます。また、治療者側の知識は豊富ですが、患者さんが適切な知識を持っていないという知識の非対称性も、問題が起きる原因となっています。患者さんの期待が大きい事も影響しています。期待感を背景に、十分な説明をしないまま自由診療で治療を行えば、やはりトラブルに繋がるでしょう。

——それが日本の再生医療の問題点なのですね。

八代 患者さんの期待感を利用した行為は、日本に限らず外国でも問題になっています。国際幹細胞学会も、研究者は不適切な行為に手を染めないようにと声明を出していますし、患者さんに対する注意喚起も行っています。世界的な問題なのです。国によって医事・薬事を管轄する法律は違うので、一律の法律を作るのは困難ですが、アカデミアや医療者のネットワークの中で、コンセンサスを作っていく事が必要だと思います。行政サイドも、法律で規制する事は出来ないにしても、何を注視し監視していくかについて、国際的な学会を通じて伝えていくべきだと思います。

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