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未来の会

第150回 薬価改定の真の争点は「引き下げ対象」の範囲設定

第150回 薬価改定の真の争点は「引き下げ対象」の範囲設定

 来年度から薬の公定価格「薬価」を毎年改定する仕組みが制度上スタートする。業界団体や自民党は新型コロナウイルス感染症の拡大による混乱を理由に、予定通り始めることに反対している。改定をすれば薬価は必ず引き下げられるためだ。

 しかし、政府は「国民の負担軽減」を楯に実施に踏み切る姿勢を崩していない。決着は年末になる見通しだが、厚生労働省は「薬価削減は避けられないだろう」(幹部)と読んでいる。

 7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」。その表記には薬価の2021年度改定について「新型コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」との一文が追加された。原案段階では予定通り来年度から毎年度改定を始める方針だったため、薬価に関する表記はなかった。直前に自民党厚労族が「コロナ禍での薬価調査は医療機関に過重な負担をかける」と騒ぎ、急遽挿入された。

 薬価は公的保険を使う時の薬の公定価格。ただ、実際に市場で取り引きされる際は「値下げ」される事が多く、市場価格は時間の経過につれ公定価格を下回るようになるのが一般的だ。医療機関や薬局は薬の卸会社から安価な市場価格で仕入れる一方、使用時は公定価格で売るため「薬価差益」を得る事が出来る。17年度の場合、平均の薬価差は9%に達した。

 その差益の原資は国民が支払う保険料や税金だ。これまで政府は2年に1度、薬の市場価格を調査し、薬価を引き下げて市場価格に近付ける事を繰り返してきた。それでも隔年では公定の「名目価格」と市場の「実勢価格」の開きが大きくなる。毎年格差を縮めるようにすれば、国庫負担削減にも繋がる事から、政府は21年4月から実勢価格との開きが大きい品目を対象として、毎年度改定に踏み切る方針を決めていた。

 ところが、コロナ禍の影響による「受診控え」等で減収となる医療機関が相次ぎ、日本医師会も問題視し始めた。薬価調査への協力は負担が大きいというわけだ。「自粛で価格交渉が遅れている」といった訴えもあり、自民党厚労族も同調した。それが「骨太」の原案修正に結び付き、最終決着は年末に持ち越された。

 とはいえ、政府は薬価調査の実施に関しては譲らなかった。対象を病院約210、診療所約260、薬局約500等と規模を縮小した上で秋に実施する。コロナ禍で懐の痛んだ医療機関は、卸会社に対して例年より薬を値下げするよう求めている傾向もあり、通常より数%程度安く取り引きされている、との指摘もある。薬価調査をすれば、公定価格との開きが出るのは確実視されている。

 実際に薬価差が出ているにもかかわらず、公定価格引き下げによる格差是正はしない、という事にはならない、というのが厚労省の見立てだ。同省幹部は「本当の争点は、引き下げ対象となる品目の範囲の設定になる」と話す。 

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