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未来の会

コロナ禍で加速するクラウドファンディング

コロナ禍で加速するクラウドファンディング
ポストコロナを見据え「古くて新しい」資金調達の仕組みを学ぶ

新型コロナウイルスは、医療界に対し立て続けに未知の試練を突き付け続けた。もっとも、少しだけプラスの面も有った。オンライン診療の普及が加速したり、診療以外の業務でのリモートワークが定着したりした。それらはデジタル・トランスフォーメーション(DX)とも呼ばれるが、もう1つ、そうした情勢がコロナ禍で推し進めたものが有る。「クラウドファンディング」という“古くて新しい”資金調達のスキームだ。

 最近は、クラウドファンディングによって医療機関が資金提供を呼び掛けたり、目標額を達成したりした事がよく報じられる。例えば、社会医療法人緑泉会米盛病院(鹿児島県鹿児島市、506床)では、2022年1月から3月末迄、同院で運用中の救急ヘリ「Red Wing」への支援をクラウドファンディングにより募っている。「Red Wing」は全国で唯一の民間救急ヘリで、県のドクターヘリを補完する役割も担っている。目標金額は1230万円に設定され、クラウドファンディングサービス「READYFOR(レディーフォー)」社の仕組みを利用している。同社への手数料や消費税を差し引き、1000万円を修繕費の一部に充当する計画だという。寄付額は3000円から100万円迄、8コースが設定されている。支援者への特典となるリターン(返礼品)は、100万円コースでは約10分間のフライトに2人まで搭乗出来るというものだ。「READYFOR」は11年、日本で初めてクラウドファンディングサービスを運営する企業として設立され、現在では国内最大級のサービス実績を持つ。同社が支援した医療系のプロジェクトは、21年には前年の倍の伸びを見せている。

そもそも「クラファン」で何が出来るのか 

 ここでクラウドファンディングを簡単に説明すると、「群衆(Crowd)」と「資金調達(Funding)」を組み合わせた造語である。不特定多数の人に対して、あるプロジェクトを達成する為の資金提供を呼び掛け、共感した人から資金を募る為のスキームを指す。インターネット上でのコミュニケーションや決済が一般的になった事が、その普及を後押しした。米国では2000年代後半から広まり、日本では11年の東日本大震災を切っ掛けに、復興支援を目的として、後述する「寄付型」クラウドファンディングが加速度的に普及して行った。支援者の利点は、提供したお金が具体的にどの様に使われるかが分かる事、ワンコインといった少額からでも気軽に参加出来る事等である。

 クラウドファンディングは、大きく「購入型」「寄付型」「投資型」等に分類することが出来る。この内「購入型」では、支援者はモノやサービス、体験、権利等、金銭以外の対価性が有るリターンを得られる。更に「購入型」では、そのプロジェクトの起案時に「All or Nothing型」と「All-in型(実行確約型)」を選ぶ事が多い。「All or Nothing型」では、目標額を達成した場合でないと実行者は資金を手にする事が出来ない。達成しなかった場合にはプロジェクトは不成立となり、資金調達はキャンセル、リターンも実行されない。これに対して「All-in型」は、プロジェクトの実施を確約する場合にのみ起案が出来、設定した目標額に達しない場合も調達した分の資金を得る事が出来る。こうした「購入型」の実行主体は個人、企業、任意団体等と多彩で、前述した米盛病院の事例は「All-in型」に当たる。

 次の「寄付型」は、文字通り支援者が寄附を行う仕組みである。支援者は、場合によって経過報告のニュースレターや写真等を受け取ることもあるが、基本的にはリターンは発生しない。実行主体は公益的な活動を行っている団体等が多い傾向があり、寄付金控除といった税制優遇を受けられる場合もある。

 最後の「投資型」は、投資として資金を募り、得られた収益の一部を支援者に分配するものだ。支援者は、配当やファンドの運用益の分配を受けられる可能性が有る。

政府の後押しも奏功し近年利用が広がる

規制緩和が進んだ事も、クラウドファンディングが浸透する追い風になっている。14年5月に金融商品取引法の改正案が成立して、「投資型」が注目を集めるようになった。内閣府地方創生推進室が15年に出した「『ふるさと投資』の手引き」では、「クラウドファンディングは、個人・中小企業・ベンチャー企業にとって新たなマーケティングの手段やファンづくりのために活用できる」と位置付けている。政府も、特に「購入型」には大きな期待を寄せており、大阪府等一部の地方自治体は地元の中小企業がクラウドファンディングによって資金を調達する事を支援している。

 こうしたクラウドファンディングが「古くて新しい」と言われるのは、実はその原型とも言える仕組みが鎌倉時代の日本にも存在したからだ。寺院や仏像等の建立や再建の為に、庶民から広く寄付を求める「勧進」である。幕府設立に先立つ1180年の事。源平の争乱で消失した奈良の東大寺と大仏の修復の為、僧の重源は大勧進職に就いて諸国に寄付行脚に出るや、95年に再建を成し遂げた。勧進では、寄付者の名前が落成した寺院に刻まれる事も有ったという。それから800余年、現代の日本では、米国に倣い、自治体や企業等合わせて60団体以上がクラウドファンディングのサービスを展開しているという。先行する米国では、10億円規模の大型プロジェクトも成立する程、市場が大規模になっている。

小医療系プロジェクトでも良い活用例が続々

 さて、新型コロナ感染症の拡大を機に、医療機関におけるクラウドファンディングも増加している。2020年は、感染症対策の費用や医療スタッフへの慰労金を募る為のプロジェクトが多かった。

 院内感染が広まった永寿総合病院(東京都台東区、400床)は運営の危機に直面。最前線で闘い疲弊する職員に臨時手当を支給したいと、クラウドファンディングを呼び掛け、全国の4639人から4946万円が集まった。その一方、クラスターが発生した慶友会吉田病院(北海道旭川市、263床)では、職員への慰労金として2500万円を募ったが、311万4000円に留まる等、目標をクリア出来なかった例も有る。

 21年になると、自宅療養者の支援や、ドクターカー等など設備投資の名目でプロジェクトが増加した。近い将来は、患者や家族に癒やしの環境を整備するホスピタルアートや、病院の建て替え等を目的としたプロジェクトの増加も見込まれている。

 21年春、大阪大学医学部附属病院(大阪府吹田市、1086床)は、新型コロナウイルス感染者を隔離したままドクターカーで搬送する為、まゆ型のオリジナルアイソレーターの製作費を募集し、目標額の500万円を達成した。従来の透明な袋で患者を覆うのに比べて体調観察が容易で、準備や消毒時間も大幅に短縮が出来、医療従事者の負担軽減に繋がるという。民間で新型コロナ患者を受け入れている、医仁会さくら総合病院(愛知県丹羽郡、390床)は、クラウドファンディングで1500万円余りを集め、ドクターカーを新調した。

 感染患者を受け入れている病院では、厳しい経営を強いられている所は少なくない。コロナ関連の補助金が有るので、決算上は黒字でも、実際の医業収益が減少している所も少なからず有る。ポストコロナの医療経営は、正念場だ。

クラウドファンディングは、資金調達のスキームとして、益々注目を集めるだろう。苦肉の策と映るかも知れないが、実際にクラウドファンディングを実施すると、金銭以外にも大きなメリットが有る。資金が必要な活動の意義が理解されると、激励の声が届けられる事が有り、これがスタッフのモチベーション向上にも繋がる事が期待される。

 医療系のクラウドファンディングは共感を得られ易く、注目度も高い。それ故に、支援者の見る目も厳しい。起案の際には、支援者の批判を受けない様なプロジェクトを検討する必要が有るだろう。

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