SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

北朝鮮と東アジア情勢

北朝鮮と東アジア情勢
北朝鮮の核の脅威と日米韓の連携との悩ましい関係

日米韓の3カ国による首脳会談が昨年6月29日にスペインで開催された。

 米国のバイデン・大統領は「韓米日の協力は我々の共通目標の達成に非常に重要だ。それには朝鮮半島の完全な非核化、自由で開放されたインド太平洋地域も含まれる」として3カ国の連携強化を呼び掛けた。又、北朝鮮が核実験に踏み切る可能性に懸念を示している。

 韓国の尹錫悦・大統領は「北の核・ミサイル脅威が高度化し、国際情勢の不安定さが増す中、韓米日協力の重要性が高まっている」とし、約5年振りの韓米日首脳会談は地域・国際問題の解決へ3カ国協力を強化する意思を示すものと指摘した。「韓米日協力が世界の平和と安定への重要な中心軸として位置付けられる事を期待する」と話した。

 日本の岸田文雄・首相は北朝鮮の新たな挑発の可能性に懸念を示し、3カ国の連携強化が不可欠だと同調。北朝鮮の弾道ミサイル発射に対し3カ国の連携を強化する考えを示した。

 この様な報道からアジアの安全保障を担う3カ国の首脳が北朝鮮に対して共通の懸念を有している事が分かる。

 北朝鮮は昨年には55発もミサイルを発射している。その中には超音速型のミサイルや軌道が不規則なミサイル等高性能型のミサイルも含まれている。果たして、日米韓の防衛体制はそれに対応する事が出来るのだろうか。3カ国での大規模な演習は5年振りである。昨年9月に続き今年の3月にも米韓合同軍事演習は行われたものの少し心許無い。

 日本と韓国の間には未だに元徴用工の問題や慰安婦の問題が有る。それらの問題に関して日本は妥協無き厳格な姿勢で挑まなければならない。韓国も真に日本との友好関係を望むのであればそれらの問題を韓国の国内問題として解決し、国際法に則るべきである。とは言え、日韓の関係に懸案が有ろうと両国にとって安全環境の構築は無視出来ない最重要課題である。他の問題とは一線を画し、連携して防衛体制を構築するべきである。特に日韓間で機密情報を共有する軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を有効に活用し、情報交換の体制を整える事は、日米、米韓の同盟を円滑に機能させる事に繋がる。日米韓の軍事分野での連携強化について北朝鮮は「アジア版NATOの創設の為の危険な前奏曲だ」と非難している。北朝鮮はNATOの活動範囲がアジアに拡大する事に警戒して米国が力で北朝鮮を圧殺しようとしているとし対立姿勢を強めている。

ロシアも北朝鮮も国連の動向は気にしない

 ロシアはウクライナに侵攻する暴挙に出ている。中国は経済貿易を通じてロシアを利する支援を行うに留まる。その様な中で北朝鮮は「ロシアと共に帝国主義者達を叩き潰す」と気勢を上げる。北朝鮮は過去に10回以上国連安保理から経済制裁されていて今更経済制裁をされても痛くも痒くも無い状況である。

 北朝鮮は1950年の朝鮮戦争でソ連(当時)の軍事顧問団を受け入れると共に軍事兵器の提供を受けている。ソ連の支援が無ければ北朝鮮は朝鮮戦争に負けて北朝鮮という国は既に無くなっていたかも知れない。プーチン・大統領と金正恩・総書記は互いに訪問を繰り返し、プーチン大統領は北朝鮮への借款の大半を免除する等手厚い支援を行って来た。又、大陸間弾道ミサイルの技術提供をロシアが北朝鮮に行っている可能性も高い。北朝鮮にとってロシアは大恩人と言える。ロシアと北朝鮮の共通の敵はアメリカを筆頭とする西側諸国である。ロシアも北朝鮮同様に国連安保理の厳しい経済制裁の決議を受けている。今となっては、ロシアは国連の動向を気にせずに北朝鮮を支援出来る立場となっている。ロシアは北朝鮮のレアメタルや沿岸部開発の労働力を北朝鮮から得る事が出来るし、北朝鮮は小麦や石油や天然ガスをロシアから得る事が出来る。ロシアと北朝鮮は互いに補完出来る関係なのだ。そこに両国と国境を接する中国が加わって来る事になる。

ロシアは求心力が低下、中国は覇権主義を貫く

ロシアはウクライナに侵攻し戦況が良くない事から友好国からの求心力の低下は否めない。中国は西側諸国のロシアに対する経済制裁に加担していない。習近平・国家主席は格差解消を国家目標とする「共同富裕」実現へと駒を進め、中華人民共和国建国100周年に当たる2049年に「社会主義現代化強国」を実現する「中国の夢」実現に自信を深めている。「中国の夢」とは、生産力が発展するに伴い社会は資本主義から社会主義へ、更に共産主義へと必然的に移行して行く事で、マルクスの史的唯物論を実践しようとしている。結果的に共産主義回帰は無く、開放路線を継続しつつ、友好国の取り込みを進めて世界的覇権主義を貫くと予期する。そして、領土を接する北朝鮮は嘗て中国が歩んだ鄧小平氏の改革開放路線へと歩を進め経済活動の一部開放から経済再建の糸口を掴むのではないか。北朝鮮は新型コロナにより封鎖されていた中国とロシアとの国境貿易を、ウクライナ事態を機に活発化させて経済の立て直しを目論む筈だ。北朝鮮の最終的な出口は経済成長を軌道に乗せて国民の1人当たりのGDPを現在の1300ドル程度から1万ドル程度まで引き上げて韓国との南北統一を諮ることだろう。韓国のGDPは3万5000ドル程度だが均衡する必要は無い。北朝鮮は韓国の中間層にイデオロギー的理解を得られる可能性を見出せればそれで良いのである。

 そうなると日米韓の連携が大きく崩れる。同時に北朝鮮の脅威は取り除かれる。そもそも北朝鮮の核開発はロシアが韓国と国交を結んだ事に端を発している。それ迄の北朝鮮はロシアの核の傘に守られていた。対峙する韓国ともロシアが国交を持つ事は北朝鮮にとってロシアの核の傘が機能しなくなった事を意味する。アメリカは独自に核を保有、中国も核を保有、ロシアも核を保有、日本はアメリカの核の傘に入り、韓国もアメリカの核の傘に入っている、北朝鮮だけが無防備に晒されていると考えた結果、核開発に走ったのだ。ウクライナ事態によって中露が味方になった事から金総書記は強気になっているのかも知れない。もし、南北統一が現実的になって来れば北朝鮮の完全非核化も達成される可能性も有る。南北両国がロシアと国交を持ち、南北両国が核の傘に入る事が出来る。

 さて、日本と北朝鮮にとって避けては通れない解決しないといけない大きな問題が残っている。北朝鮮による日本人拉致事件である。小泉政権下で5人の帰国が実現した。その他の12名は死亡ないしは存在の確認が取れな いという回答が北朝鮮によってなされている。北朝鮮は独裁体制であり、一度出した回答を覆す事は困難だ。よって、日本政府が北朝鮮に突き付ける「全員生存、帰還」の条件では解決の糸口が見出せず膠着状態が続いている。このままでは時間ばかりが過ぎて行ってしまう。日本政府は帰還交渉を拉致被害者毎の個別の交渉に切り替えてはどうだろうか。又、日本人専門家の現地調査に拘るのではなく、第三国の専門家による現地調査を受け入れる様に交渉してはどうだろうか。金総書記の母親の高容姫氏は大阪の鶴橋の出身だという。日朝外交交渉で母親の故郷の郷愁を引き出す事は出来ないものだろうか。場合によっては大きな人道的措置としての支援をぶら下げての交渉でも良いのではないか。時間は待ってくれない。余りにも膠着状態が長く続いてしまっている。

 日本と北朝鮮を取り巻く政情は混沌としており流動的だ。日本はアメリカとの同盟関係を深めつつも、地政学的リスクに備えなければならない。世界の安全保障は我々日本人の認識以上に大きく脅かされている状況に有るのだろう。惰眠を貪っている場合ではない。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top